映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ビルド・ア・ガール」

「ビルド・ア・ガール」
2021年10月27日(水)グランドシネマサンシャインにて。午後2時25分より鑑賞(スクリーン9/e-8)

~16歳の女の子のハチャメチャな成長劇

若さは暴走である。ついつい図に乗ってとんでもない方向に走ったりする。若さゆえの無鉄砲さだ。

というわけで、若い主人公が図に乗って大暴走するドラマが「ビルド・ア・ガール」だ。英国の女性作家キャトリン・モランの半自伝的小説を、自らが脚本を手がけて映画化した。監督はドラマを中心に活躍するコーキー・ギェドロイツ。

一人の女の子の成長物語である。1993年、イギリス郊外に家族7人で暮らす16歳のジョアンナ(ビーニー・フェルドスタイン)は、学校に友だちもいない冴えない女子高生。いつも図書館で妄想しているような女の子だ。

家族もユニーク。犬の繁殖を手がけているものの、いまだに音楽が諦められない父(パディ・コンシダイン)。双子の育児に追われ精神的に参っている義母(サラ・ソルマーニ)。音楽同人誌を続ける兄。彼らは貧しいながらもどうにか暮らしていた。

そんなある日、文章を書くのが大好きなジョアンナは、兄の勧めで音楽情報誌「D&ME」のライターに応募する。といっても音楽などよくわからない彼女のこと、ミュージカル「アニー」の評を書いて送るのだった。ところがなぜかロンドンの編集部から呼び出しが。喜んで出かけると単に彼女はからかわれただけだったのだ。

落胆するも気を取り直して、無理やり売り込んだ結果、ジョアンナは力ずくでライターの仕事をつかみ取る。「ドリー・ワイルド」というペンネームを名乗り、兄から借りた金を元手に、髪を赤く染め、黒のシルクハットとコスチュームを調達して、ライヴ会場へと駆け込んでそれを記事にする。

しばらくは普通に記事を書いていたものの、そのうちにロックスターのジョン・カイト(アルフィー・アレン)に取材することになる。すると彼にすっかり夢中になったジョアンナは、冷静な記事を書けずにボツにされてしまう。さあ、早くもライター生命の危機だ。

そんな中、編集部は彼女に過激な毒舌記事を書くようにアドバイス。それに従ったジョアンナは辛口批評家“ドリー・ワイルド”として大ブレイク。注目を集めていくのだが……。

というわけで、16歳のイケてない女の子が思わぬことから大ブレイクする様子を、ギェドロイツ監督がポップに綴っていく。

面白いのが、ジョアンナの部屋の壁にかけた有名人の写真が彼女に語りかけてくること。女優のエリザベス・テイラー、作家のブロンテ姉妹、歌手のドナ・サマー、女王クレオパトラ精神科医フロイト、思想家のカール・マルクス……。彼らがそれぞれにジョアンナを励ますのだ。

全体のテンポも良くて、気の利いたミュージックビデオでも観ているような感じである。

とはいえ、ドリー・ワイルドとなったジョアンナの暴走ぶりが尋常ではない。周囲の編集者やその取り巻きに影響されて、制御不能なところまで行ってしまう。実際にどんな暴走をするのかは、ここに書くのもはばかられるほど強烈、そしてお下劣。さらに、貧乏な一家の稼ぎ頭になったのをいいことに、家族にも偉そうに振る舞うようになる。

こうしてどん底に落ちたジョアンナが、その後改心して自分を取り戻す……というのはよくあるパターン。そこでは例のロックスターのジョン・カイトとの心の触れ合いなども描かれる。

話の展開自体は定番パターンともいえるこのドラマ。それがキラキラ輝きだすのは、主役のジョアンナをビーニー・フェルドスタインが演じているから。ジョナ・ヒルの妹で、「レディ・バード」でシアーシャ・ローナンの級友役を好演し、続く「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」でケイトリン・デヴァーとともに主演を演じて大ブレイクした彼女。この手の役はまさにハマリ役。大暴走してもどこかユーモラスで憎めない。悩みや苦しみも共感度満点の演技で表現して、観客の心を湧きたたせる。

彼女の両親や兄役も存在感を見せているし、何よりもジョン・カイト役のアルフィー・アレンがいかにもロックスターといった風情を漂わせている。その歌声もなかなかのもの。本人のボーカルなのだろうか。主人公の運命を占う重要な役どころでオスカー女優のエマ・トンプソンも登場する。

ついでに1990年代の音楽雑誌の編集部が舞台ということで、当時のUK音楽ネタも満載。ハッピー・マンデーズマニック・ストリート・プリーチャーズプライマル・スクリーム……。あの頃を知っている人なら、なおさら楽しいはず。

孤独な女の子の成長物語だ。「間違ったら何度でもやり直せばいい」というジョアンナのメッセージが、すべてを物語っている。まあ、いくら半自伝的小説とはいえ、16歳にしてここまで暴走するやつは、めったにいないだろうけど。

 

f:id:cinemaking:20211029201718j:plain

◆「ビルド・ア・ガール」(HOW TO BUILD A GIRL)
(2019年 イギリス)(上映時間1時間45分)
監督:コーキー・ギェドロイツ
出演:ビーニー・フェルドスタイン、パディ・コンシダイン、サラ・ソルマーニ、アルフィー・アレンフランク・ディレイン、ローリー・キナストン、アリンゼ・ケニ、タイグ・マーフィ、ジギー・ヒース、ボビー・スコフィールド、クリス・オダウド、ジョアンナ・スキャンラン、エマ・トンプソン
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://buildagirl.jp/

 


www.youtube.com