映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」

ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」
2020年12月14日(月)TOHOシネマズ池袋にて。午後2時15分より鑑賞(スクリーン8/D-9)

~アッと驚く終盤だが音楽映画の魅力がタップリ

ダイアナ・ロスといえば世界的に知られたシンガーである。もはやその存在は伝説といってもいいかもしれない。そのダイアナ・ロスの娘であるトレイシー・エリス・ロスが、文字通り伝説の歌手として出演している映画が「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」である。

憧れの歌姫グレース(トレイシー・エリス・ロス)のパーソナル・アシスタントとして働くマギー(ダコタ・ジョンソン)。大好きな歌手の下で働けるとあって、無理な注文にも不平も言わずに従っていた。だが、同時に彼女には音楽プロデューサーになる夢があった。一方のグレースは、昔のヒット曲ばかりを歌わされる現状に満足できず、マネージャーの反対にもかかわらず新曲に挑戦したいとの思いを募らせる。

パーソナル・マネージャーとは要するに付き人のことである。マギーはグレースの身の回りのこまごました要求をこなしていく。その中にはわがままな要求もあるが、マギーはグレースのことが大好きなのでつらいとは思わない。

その一方で、彼女には音楽プロデューサーになるという夢がある。そのために多忙な中で、密かにグレースのライブアルバムをミキシングしていた。序盤はそんなマギーの生き生きとした日常を軽快なタッチで描いていく。

一方のグレースは大スターだ。コンサートをすれば多くの観客が集まる。だが、彼らの要求するのは昔のヒット曲。マネージャーもそれを要求する。アルバムを制作する話が来ても、ライブ盤やベスト盤の話ばかりだ。あげくはラスベガスで長期公演をする話まで飛び出してしまう。

このグレースの立ち位置が興味深い。落ちぶれた歌手が再起を目指す音楽映画はよくあるが、彼女はけっして落ちぶれているわけではない。だが、創作という面では完全に過去の人だ。劇中で40歳を過ぎた歌手がチャートの1位を獲得するケースはめったにないという話が出てくるが、まさに彼女は40歳を超えた歌手なのである。

そんなグレースに著名なプロデューサーがリミックスの話を持ち込んでくる。マネージャーも乗り気だが、グレースはあまり気が進まない。そこで、この機を逃せばチャンスはないと考えたマギーは、自らがグレースのライブをリミックスしていることを打ち明ける。あわよくば自分がプロデューサーになろうというのだ。だが、結局、マネージャーからお前は付き人なのだと怒られる。

そんな中、マギーはある魅力的な歌声を持つ若者デヴィッド(ケルヴィン・ハリソン・Jr)と偶然出会い、プロデューサーだと偽って彼のアルバム制作に乗り出すのだが……。

音楽映画の魅力がたくさん詰まった映画である。何よりも素晴らしいのがトレイシー・エリス・ロスの歌声。パワフルで、エモーショナルで、聴く者を圧倒する。何でも女優としてのキャリアはあるものの、歌声を披露するのは初めてだとか。それが信じられない歌のうまさである。

デヴィッド役のケルヴィン・ハリソン・Jrの歌も素晴らしい。甘くとろけるような魅惑の歌声で、マギーならずともメロメロになりそう。しかも、劇中ではマギー役のダコタ・ジョンソンとデュエットする場面もあり、これまた素晴らしい歌声なのだ。

会話の中に音楽ネタが満載だったり、何気なく映るレコードが洋楽ファン垂涎の的だったりするのもうれしいところ。

マギーはデヴィッドを売り出そうとする。もちろん、自分が音楽プロデューサーとして成功するためだ。その過程で2人が急接近するところはお手軽な展開だが、とにもかくにもマギーは一芝居打つ。グレースのレコ発ライブの前座に、デヴィッドを出演させようとするのだ。だが、そのことをデヴィッド本人も知らせていなかったために、土壇場でそれがダメになる。

こうしてグレースからはクビを言い渡され、デヴィッドとも仲違いした失意のマギーは、ラジオDJをしている父のもとに身を寄せる……。

そこから先は観てのお楽しみということにしておくが、終盤にはとんでもないことが待っている。まさに青天のへきれきとしかいいようがない出来事だ。そんなのアリなのかと思ったのだが、冷静に考えてみればそれまでの展開の辻褄は確かに合っている。この仕掛けには賛否両論ありそうだが、温かな空気とともに観客をハッピーにしてくれるのは確かである。

本作の背景には、40歳を過ぎて結婚もせず、子どもも持たないというグレースの選択
があるのかもしれない。それはトレイシー・エリオット・ロス自身の人生ともリンクするのだが、それについて深く追求するのはネタバレになるのでやめておく。

クライマックスの見どころはトレイシーとケルヴィンのデュエットだ。それぞれがソロを取った後で、実に快いハーモニーを聞かせる。

そして最後は、マギーのプロデュースのもとグレースが新曲をレコーディングするシーン。そこで、きっちりとマギーの成長物語に落とし前を着ける。ニーシャ・ガナトラ監督なかなかの手練れと見た。

主演のダコタ・ジョンソンの演技は初めて観たのだが、生き生きとした表情が何とも素敵。その愛らしさゆえ、ちょっと暴走しても許せてしまう個性の持ち主。この人、何と父がドン・ジョンソン、母がメラニー・グリフィスだというのでビックリ。

とはいえ、やっぱりトレイシー・エリス・ロスの存在感が圧倒的なのはキャリアの差ゆえ仕方のないところ。

マギーのサクセスストーリーとしても、グレースの新たな旅立ちのドラマとしても見応えがある作品だ。観たらきっと前向きな気持ちになれるはず。

◆「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」(THE HIGH NOTE)
(2020年 アメリカ・イギリス)(上映時間1時間54分)
監督:ニーシャ・ガナトラ
出演:ダコタ・ジョンソン、トレイシー・エリス・ロス、ケルヴィン・ハリソン・Jr、ビル・プルマン、ゾーイ・チャオ、エディ・イザード、アイス・キューブ
*TOHOシネマズシャンテほかに全国公開中
ホームページ https://www.universalpictures.jp/micro/next-dream/

 


映画『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』予告編<12.11(金)公開!>