映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「さとこはいつも」

 

私が製作に協力した映画が来年1月に公開になります。具体的には企画スタート時にプロットを書いたのですが、それが大九明子監督・脚本、永作博美主演の映画「あきらめません!」になりました。平凡な主婦が市議会議員になるという社会問題も盛り込んだエンタメ映画です。ぜひ劇場でご覧ください。

 

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「さとこはいつも」
2026年10月5日(月)池袋シネマ・ロサにて。午後12時20分より鑑賞(シネマ・ロサ2/C-6)

~年齢も環境も違う3人の「さとこ」の物語。誰の人生にだってドラマがある

 

そして今日取り上げる映画は「さとこはいつも」。監督・脚本は「横道世之介」「南極料理人」「さかなのこ」など数々の映画を監督してきた沖田修一。2006年に「このすばらしきせかい」で長編監督デビューしてから20周年の沖田監督が、その節目に完全オリジナルで撮った作品。

 

 

タイトルの「さとこ」が平仮名になっているように、漢字がそれぞれ違う3人の「さとこ」という女性を描いたドラマだ。3つの物語で構成されたいわゆるオムニバスだが、単なるオムニバスとは違う。面白いことに3人の「さとこ」が相互に関係しあって、物語が転がっていくのだ。そのあたりが実に心憎い仕掛けだ。

最初のドラマはアレルギー性鼻炎で耳鼻科に通う中学3年生、15歳の聡子(姫野花春)が主人公。その冒頭シーンが強烈だ。鼻炎持ちの聡子が耳鼻科でネブライザー(吸入器)を鼻に入れているシーン。私も耳鼻科によく通うのだが、鼻に管を差して、口を開けたその表情は何となく間抜け。このシーンを見ただけで自然に笑ってしまうのである。

そして、そこにやって来たのが聡子の同級生の男の子。2人揃ってネブライザー。2人揃って間抜け顔。それが縁で聡子は、その子を好きになってしまうのだ。

そんな聡子は歌舞伎鑑賞の授業に臨む。しかし、爆睡して歌舞伎を見ていなかった。国語教師の寺尾(吉田羊)から感想文を提出するように言われて困った彼女が、何とか書いて提出すると、寺尾は「見ていなかった人のうちで一番伝わる」と変な褒め方をする。そして、寺尾は聡子に文章を書くように勧めて課題を出すのだ。題して「好きな食べ物へのラブレター」。聡子は自分の恋を、好きな食べ物の塩辛に託して文章を書く。続いて与えられた課題は「遺書」。聡子は自分の病気の話を書くのだが、これもまあ傑作なのだ。

というようにユーモラスでウィットに富んだドラマ。いかにも沖田監督らしい世界だ。聡子が作文を書くうちに、どんどん妄想が膨らんで、それが映像で流れるに至ってはもはや沖田監督の独壇場。しかも、それが現実にも面白いドラマを巻き起こすのである。人生ってドラマだよなぁ~、とつくづく思わせられる聡子のドラマなのであった。

お次は映画配給会社で働く35歳の沙都子(有村架純)のドラマ。韓国カルチャーが大好きで、韓国ドラマを見つつ、「いやいや、現実にこんなことはないでしょ」とツッコミを入れる彼女。仕事でも韓国映画を扱うが、そのPR手法を巡って若手社員と対立してしまう。しかも私生活では、村本(オダギリジョー)との不倫関係が6年も続き、こちらも何やら停滞期。

そんな中、ある事件が起きて沙都子は入院してしまう。そこで隣のベッドにいた女性が沙都子の不倫話を聞き、「まるでドラマみたい!」と言ったのをきっかけに、沙都子は自分の不倫のことを客観的に書き始める。

別れた村本に無理やり会って、過去の出来事を取材する件などこれまた笑うしかない展開。病院でパソコンに向かう沙都子の向こう側で、過去の村本との出来事がガラス窓に映し出されるぶっ飛んだ仕掛もある。

そうするうちに現実にも、まさしく韓国ドラマも真っ青の凄い出来事が起きてしまうのだ。いやぁ~、本当に人生ってドラマだわぁ、とこれまたつくづく思わされた。

そして、3つ目のパートは、55歳の専業主婦、里子(石田ひかり)の物語。大学卒業後すぐに重明(筒井道隆)と結婚して3人の子育てに追われてきたが、いよいよ今日、末っ子が高校を卒業して子育ても一段落。自分へのお祝いの花束など買ううちに、かつて自分が小説家志望だったことを思い出す。

近所に一軒だけあった書店。そこの店番のお兄さんにあこがれて、足繁く通ううちにお兄さんの読んでいた本が気になり、そのうち自分も本好きになった里子。そんな自身の過去を小鳥の物語としてファンタジックに書き始める。

そのお兄さんは言った。「誰でも、一冊なら、自分の本が書けるんだって。そう考えると、ここにある本は、そのほんのわずかだよね。てことは、この世には、生まれてこなかった物語が、無数にあるってことでしょ?」

これこそが沖田監督が伝えたかったことではないだろうか。聡子、沙都子、そして里子のドラマを通じて、文章を書くことの素晴らしさだけでなく、人間にはそれぞれの人生の物語があることを示したのだと思う。どんなに平凡に見えても、それはドラマに違いないのだ。そういう意味で、本作は人生讃歌と呼べる映画かもしれない。

3人の「さとこ」の交差のさせ方も秀逸。最初はほんの軽い関わり方しかしないと思わせておいて、その後により深い関り方を見せる。ラストにはこの3人を文章教室で机を並べるシーンで締める。これまたお見事!

3人の「さとこ」を演じた姫野花春、有村架純、石田ひかりの演技が出色だ。特に姫野の冒頭のシーンだけで心をつかまれた。よくもまあ、あんな存在感のある子役を発掘したもの。さらに風変わりな国語教師役の吉田羊、沙都子の不倫相手役のオダギリジョー、そして里子の夫役の筒井道隆なども素晴らしい演技。

石田と筒井はかつてのテレビドラマ「あすなろ白書」以来の共演ということで話題のようだが、2人で語り合うシーンを長回しでじっくり描いたシーンは、夫婦の重ねてきた年輪を思わせる味のあるシーンだった。

沖田監督らしい映画だ。ユーモラスでポジティブで観終わって心が温かくなった。笑顔で映画館を後にした。

◆「さとこはいつも」
(2026年 日本)(上映時間2時間18分)
監督・脚本:沖田修一
出演:有村架純、石田ひかり、姫野花春、黒田大輔、宮部純子、泉有乃、大月美里果、小川冬晴、青木柚、川瀬陽太、島田桃依、中井友望、中村優子、細田佳央太、鳴海唯、高田万作、飯島翔太、古舘寛治、吉田羊、オダギリジョー、筒井道隆
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
公式ホームページ https://happinet-phantom.com/satoko/
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