映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

長尺の魔力

今日はいつもの最新映画の感想ではなく、ちょっとコラム的なものを。

長尺の映画というものがある。文字通り尺の長い、つまり上映時間の長い映画だ。たいていの映画は長くても2時間前後だが、世の中にはそれをはるかに超える映画がある。例えば、最近公開された映画では、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙」が上映時間2時間42分。富田克也監督の「バンコクナイツ」が3時間2分。なかなかの長さである。

だが、上には上がある。昨年「64(ロクヨン)」前後編がヒットした瀬々敬久監督による2010年公開の映画「ヘヴンズストーリー」は、実に上映時間4時間38分! 家族を殺された娘、妻子を殺された夫、殺人犯の青年などが織りなす人間模様を全9章で描いた圧巻の映画だった。

この映画で最も印象的だったのは、登場人物の心理描写である。例えば柄本明が涙するシーン。感情の揺れ動きを余すところなく映す。通常の映画ならもっとコンパクトにするシーンを時間をかけて描くことによって、人物の心理が手に取るように伝わってきたのだ。

ちなみに、その瀬々敬久監督による自主企画映画「菊とギロチン」が2018年公開予定だ。なにせ自主企画だけに資金確保が大変らしく、6月末まで出資&協賛金(カンパ)を募集しているらしい。さすがに出資は無理でも、1口1万円の協賛金なら・・・ということで興味のある方はぜひホームページをチェックしてください。

さて、ここ数年に公開された長尺の映画として、もう1本忘れてはいけない作品がある。濱口竜介監督による2015年の「ハッピーアワー」だ。上映時間317分。つまり6時間17分!! 3部構成で間に休憩があるとはいうものの、破格の長さである。

この映画、30代後半の4人の女性たちの人生の岐路を描いた作品で、その4人をほぼ素人の女性が演じている(彼女たちはロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞)。そして、こちらも人物の心理描写が素晴らしい。通常の上映時間の映画ならカットされるような機微を、余すところなく吸い取っているから、女性たちが抱えた悩みや苦しみがあまりにもリアルに伝わってくる。おかげで、6時間超の上映時間が、まったく長く感じられなかった。

ちなみに、この映画は東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムにて、4月22日~5月12日まで凱旋上映されるそうなので、お時間のある方はぜひ。

最後に、近日上映予定の長尺の映画を紹介しよう。5月13日(土)より新宿Ks cinemaにて公開予定の片嶋一貴監督作品「いぬむこいり」だ。上映時間は4時間5分。ダメダメなアラフォー小学校教師が、神のお告げによって訪れた島で様々な経験を重ねる物語。民間伝承をモチーフにファンタジーや風刺、エロスなどの要素もあるらしい。出演者も主演の有森也実をはじめ、武藤昭平、緑魔子PANTA石橋蓮司柄本明など超個性派ばかりなので、大いに注目しているところだ。

というわけで、映画館が最も居心地がよい場所で、できれば映画館に住みたいと思うオレのような映画ジャンキーにとって、4時間以上も映画館にいられる長尺の映画は夢のような映画なのである。まあ、ただ長きゃいいってものでもないわけだが。