映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ロープ 戦場の生命線」

「ロープ 戦場の生命線」
2020年5月16日(土)GYAO!にて鑑賞。

~紛争地で活動する国際援助団体のメンバーを生き生きと活写

体調不良はだいぶ回復した。結局のところ、コロナだったのかどうかは抗体検査とやらを受けてみなければわからないわけで、思い悩んでも仕方がない。たとえ抗体ができていたとしても、絶対にかからない保証はないのだから、今後も十分に注意しなければならないだろう。

それにしても早く映画館に行きた~い! とはいえ、東京はまだ緊急事態宣言が解除されず、映画館も再開されていないから、今はまだ動画サイトで我慢するしかない。

というわけで、今回「おウチで旧作鑑賞」シリーズ第9弾で取り上げるのは「ロープ 戦場の生命線」(A PERFECT DAY)(2015年)。2018年の日本公開時に見逃したので初見です。

紛争地帯で活動する国際援助団体を描いたドラマだ。舞台となるのは、1995年の停戦直後のバルカン半島。そこで活動する「国境なき水と衛生管理団」が、ある村に出かける。そこでは井戸に死体が投げ込まれ、水が使えなくなってしまったのだ。さっそく死体を引き上げようとするメンバーたち。だが、途中でロープが切れてしまう。仕方なく代わりのロープを探しに行くことにする。

ただのロープ探しと言うなかれ、これが抜群に面白いのだ。その要因はいくつかあるが、何といっても「国境なき水と衛生管理団」のメンバーのキャラが立っている。リーダーのマンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)は頼りがいのある男だが、女性関係にだらしがない。同じくベテランのビー(ティム・ロビンス)はかなりの破天荒男。新人のソフィー(メラニー・ティエリー)は、良くも悪くも理想に燃える純粋さで、マンブルゥやビーとしばしばぶつかる。

そんな個性派3人に通訳のダミール(フェジャ・ストゥカン)を加えた4人でスタートするロープ探し。道中の会話が実に楽しい。ユーモラスでシニカルでセンスの良い会話が次々に飛び出す。その会話の妙が本作の大きな魅力だと思う。

もちろんそれには、ベニチオ・デル・トロティム・ロビンスオルガ・キュリレンコメラニー・ティエリーなどの演技派役者たちの存在が大きく貢献している。

ドラマの展開にも工夫がみられる。「ロープぐらい簡単に見つかるのでは?」と思うかもしれないが、それがどうしてどうして。確かにロープはあるのだ。だが、様々な理由で彼らは、どうやってもロープを手にすることができない。村の売店でも、国境警備の兵士からも。そのジレンマが観る者の興味を引きつける。

そしてロープ探しの旅はハプニング続きだ。冒頭近くでは、道に横たわった牛の死体を巡ってハラハラドキドキの展開がある。どうやら、そのそばには地雷が埋まっているらしい。それを前にビーは経験と勘を頼りに大胆な行動に出て、ソフィーの肝を冷やす。それ以外にも、「あわや」の場面が何度か登場して、スリルを味合わせてくれる。

ちなみに地雷ネタは他にもあって、牛追いの女性のネタなどは、終盤の展開の意外な伏線になっていたりもする。そのあたりの構成も見事なものだった

そんな中、最大のハプニングはマンブルゥと元恋人のカティヤ(オルガ・キュリレンコ)との遭遇かもしれない。2人の間にはわだかまりがあり、それがロープ探しの旅に波乱を持ち込む。皮肉たっぷりに攻め込むカティヤに、マンブルゥがタジタジとなる場面なども面白い。

とはいえ、何といっても舞台は紛争地域だ。そこには恐ろしく悲惨な現実が無数にある。「国境なき水と衛生管理団」のメンバーも、ニコラという少年と出会い、一緒に彼が住んでいた家を訪れたことから、そうした衝撃の真実と向き合うことになる。

やがてついにロープを手に入れるメンバーたち。井戸のある村の向かおうとするが、その先にもまだ思わぬ事態が待ち受けている。そして、村に着いてからも……。

ラストは、彼らの活動の難しさを強烈に印象付け、やるせなさを感じさせる。だが、それでも、最後には思わぬ奇跡を用意してホッとさせてくれる。観終わった後味も良かった。

本作では音楽も印象的だ。マリリン・マンソンルー・リードなどのロックを中心に、様々な音楽がタイミングよく使われる。中でも、エンディングで使われる「花はどこへ行った」のマレーネ・ディートリヒによるカバーが味わい深い。

フェルナンド・レオン・デ・アラノア監督のことは知らなかったが、スペインでは映画賞も獲得している有名な監督らしい。なるほどなかなかの手腕である。

国際援助団体を描いたドラマというと、彼らの無私の精神を賛美するような教科書的な作品を連想しがちだが、本作はスリルやユーモアにあふれたエンターティメント性を基軸にしつつ、紛争地の過酷な現実を見せつけ、そこで活動する人々の存在を生き生きと活写している。面白くて、なおかつ心に刺さるドラマである。

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◆「ロープ 戦場の生命線」(A PERFECT DAY)
(2015年 スペイン)(上映時間1時間46分)
監督:フェルナンド・レオン・デ・アラノア
出演:ベニチオ・デル・トロティム・ロビンスオルガ・キュリレンコメラニー・ティエリー、フェジャ・ストゥカン、セルジ・ロペス
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