映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ドリーム・ホース」

「ドリーム・ホース」
2023年1月10日(火)グランドシネマサンシャインにて。午後3時5分より鑑賞(シアター8/D-7)

~平凡な主婦が競走馬で村おこし!?心が湧きたち元気になれる映画

寂れて活気を失った地域が、あることをきっかけに輝き出すというのはよくあるドラマ。特に「フル・モンティ」「ブラス!」といった90年代のイギリス労働者階級を扱った映画が有名だ。「ドリーム・ホース」はその系譜に連なる映画である。

舞台となるのはイギリス・ウェールズにある谷あいの小さな村。夫と2人で暮らす主婦のジャン(トニ・コレット)は、仕事と親の介護だけの単調で満たされない毎日を送っていた。そんなある日、彼女はバイト先のバーで馬主経験のあるハワードの話を聞いて競走馬に興味を持つ。競走馬の育成を決意した彼女は、繁殖牝馬を貯金をはたいて購入。飼育の資金を集めるために、村の人々に馬主組合の結成を呼びかける。やがて産まれた仔馬に「ドリームアライアンス」と名付け、有名調教師に預けるのだが……。

映画の冒頭は、夫のいびきが聞こえる中、隣で目を開けたままの主人公ジャンが映し出される。目覚ましが鳴るとすぐさま起き出し、飼い犬や鳥に別れを告げて、仕事先のスーパーに早朝から出かける彼女。このシーンを見ただけで、ジャンが生活に疲れ、輝きを失っていることがわかる。

しかも、彼女には近所に住む高齢の両親がいて、その面倒を見なければいけない。おまけに、父親は何だかぶっきらぼうだ。

そんな中、バイト先のバーで出会ったのがハワードという男。彼は元馬主で一度は美味しい目を見たものの、結局は全財産を失う瀬戸際まで行ったという。ハワードの話を聞いてジャンは競走馬に興味を持つ。

さっそく彼女は、様々な資料を手に入れ競走馬の育成を決意する。手始めは繁殖牝馬の購入だ。勝ったことはないが血統の良い牝馬を貯金をはたいて購入する。

「何だ?この展開の早さは」と思う人もいるかもしれない。しかし、実はジャンは動物好きで幼い頃から犬やハトを飼い、賞を獲得するなどしてきたのだ。特に犬はかつて父と一緒にドッグショーに出かけ、入賞した経験を持つ。だから、馬に興味を持つのも無理からぬことなのだった。

しかし、相手は競走馬だ。その育成には多額の費用がかかる。そこで、彼女は村人たちに呼びかけて馬主組合を結成する。その最初の会合。時間になっても誰も来ない。しかし、そのうちに1人の村人がやってくる。続いてまた1人。もう1人。総勢20人近い村人が集まる。彼らは週10ポンドずつ出し合うことにする。

馬主組合をつくるときに、彼らが確認したのは「決して儲けようとしないこと」。儲けではなく、「胸の高鳴り」を求めることが目的だった。彼らも寂れたこの村に住み、活気を失い、ワクワクするようなことを待ちわびていたのである。

そして仔馬が誕生する。残念なことに母馬は死んでしまうのだが、仔馬はジャンの愛情をいっぱいに受けて育つ。村人たちもそれをサポートする。

ジャンは生き生きと輝きだす。テレビばかり見て無気力だった夫も、彼女をサポートするうちに元気になる。村人たちも同様である。その様子をテンポよく描き出す。

仔馬はやがて調教師に預けられる。その経緯もなかなか劇的なのだが、その先にはさらに劇的なことが待っている。「ドリームアライアンス」と名づけられたその馬は、無事に競走馬としてデビューし、それなりの成績を残す。

その活躍を一喜一憂しなら見守っているのが、ジャンと村人たちだ。レース前の胸の高鳴り、無事に走り終えて欲しいという願い、そして上位でゴールした時の喜び。それが手に取るように伝わってくる。観ているこちらも、まるで競馬場にいるような気分になってくるのだ。

レースシーンの迫力は格別のもの。犬や猫ならともかく、馬に演技させるのはなかなか難しいと推察するが、本作の馬たちは名演を披露している。間近で映されるレースシーンが、心を湧きたたせてくれる。ドリームアライアンスが出走するレースが、障害レースだというのもなおさらハラハラドキドキ感を高めてくれる。

ちなみに、劇中の競馬は日本の競馬とはだいぶ違う、例えばスタートはゲートを使うのではなく、ロープを使って行う。そのあたりの違いも面白い。

もちろんすべてが順調にいくわけではない。終盤はドリームアライアンスをめぐって、悲劇が起きる。その時に難しい決断を迫られるジャンたちの心情が、リアルに映し出される。

クライマックスは大レースの場面。そこでドリームアライアンスがどうなったかは、ぜひ自分の目で確かめて欲しいが、この映画最大の見せ場であることは言うまでもない。

メインとなるストーリーの他にも、ジャン夫婦の再生のドラマ、ジャンと父との絆のドラマ、元馬主ハワードの家族のドラマなど、いくつかのドラマをうまく混ぜ込んでいるのも、本作の素晴らしいところ。

ユーモアもタップリだ。ハイソな馬主たちのバーに、素朴な村人たちが乗り込むシーンは爆笑もの。「おい、ミック・ジャガーがいるぞ」なんてセリフも笑える。ウェールズ国家を高らかに歌うなど、ウェールズ愛が感じられるのも特徴だ。

主演のトニ・コレット(「リトル・ミス・サンシャイン」「ヘレディタリー/継承」)は、グダグダの毎日を送る主婦がキラキラ輝きだすところを巧みに表現。夫役のオーウェンティール、ハワード役のダミアン・ルイスも良い演技を見せている。

この話は実話であり、ドキュメンタリー映画も製作されている。エンドロールでは、キャストたちがトム・ジョーンズの「Delilah」を代わり代わりに歌う愉快なシーンが登場するが、そこで本物のジャン夫婦も登場して一緒に合唱する。底抜けに愉快なシーンだ。

観ているうちに、ジャンや村人たちと一緒にグタグダの毎日にサヨナラできそうな気になってくるではないか。お正月にふさわしく、痛快で元気と勇気をもらえる映画だ。

◆「ドリーム・ホース」(DREAM HORSE)
(2020年 イギリス)(上映時間1時間54分)
監督:ユーロス・リン
出演:トニ・コレットダミアン・ルイスジョアンナ・ペイジ、オーウェンティール、カール・ジョンソン、ステファン・ロードリ、アンソニー・オドネル、ニコラス・ファレル、シアン・フィリップス
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
ホームページ https://cinerack.jp/dream/

 


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