映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「終末の探偵」

「終末の探偵」
2023年1月9日(月)シネマート新宿にて。午後4時10分より鑑賞(スクリーン1/D-15)

~昔ながらのハードボイルドものかと思いきや、今の時代を投影させた探偵映画。北村有起哉がハマリ役

何だかかぐわしい香りがしてきたゾ。これは昔懐かしハードボイルド映画の香りではないか!?

というので鑑賞してきたのが「終末の探偵」。文字通り探偵ものの映画である。

とある街でしがない探偵業を営む連城新次郎(北村有起哉)。ある日、闇の賭博場でトラブルを起こしたことから、笠原組の幹部をしている顔なじみのヤクザ阿見恭一(松角洋平)から事務所放火事件の犯人捜しを依頼される。

同じ頃、新次郎はフィリピン人の両親が強制送還させられた過去を持つミチコ(武イリヤ)から、行方不明になった親友のクルド人女性の捜索を依頼される。ミチコが金がないと知ると冷たく断る新次郎だが、結局は情にほだされて引き受ける。こうして2つの事件を追ううちに、新次郎は中国系マフィアとヤクザの争いに巻き込まれていく。

冒頭は闇のカジノで、新次郎がギャンブルをしているシーン。ここからもう完全なハードボイルド探偵もの。新次郎は酒浸りでギャンブル好き。だらしなくて、いい加減な奴だ。だが、その一方で、情に厚く、頼み事は断れない。そして、ここぞという時に正義感を発揮して敵を叩きのめす。典型的な一匹オオカミの探偵なのだ。

そう。新次郎には、松田優作萩原健一はじめ数々の俳優が演じてきたアウトロー探偵の香りがプンプンするのである。

新次郎が喫茶店を事務所代わりにしているあたりも、いかにも……という感じ。そういえばバーを事務所代わりにする探偵が活躍する「探偵はBARにいる」シリーズは3作まで作られたが、あれでもう終わったのだろうか。けっこうおもしろいシリーズだったのだが。

話を元に戻そう。そんな古風な香りのするこのドラマ。だが、観ていくうちに、これが懐かしいだけのドラマでないことがわかってくる。

舞台となるある繁華街は、暴力団対策法によって昔ながらのヤクザが衰退の一途をたどり、団地や商店街などの地域コミュニティーが高齢化で崩壊の瀬戸際にある。元々の住民が減少し、代わりに多くの外国人が流入して多民族化している。そこでは、当然様々なことが起きる。日本人と外国人の対立、ヘイトスピーチ、厳しい生活を送る外国人、行き場のない高齢者……。

それらを通して、排他的な日本社会や在日外国人へ向けられる偏見・憎悪を浮き彫りにしていくのだ。つまり、この映画は今の時代を確実にとらえた作品なのである。

しかも、外国人は多様だ。ヤクザと抗争を繰り広げる中国系ヤクザのリーダーは、日本人の母を持つ残留孤児二世。学校でいじめにあったのをきっかけに、この世界に足を踏み入れたという。

新次郎に相談を持ちかけたミチコは、日本で育ったフィリピン人。だが、彼女が中学生の時に両親が強制退去処分になり、彼女は両親についてフィリピンに行くか日本に残るかの究極の選択を余儀なくされた。

そして、ミチコが捜索を依頼した友人の女の子は、クルド人である。彼女は2ヶ月に一度入管当局に出頭して、在留許可をもらわなければならない。

彼らは日本社会で過酷な運命にさらされ、何とか生き延びてきた。そういう現実をきちんと反映させた映画なのである。

そして、この映画のメッセージ性を決定づけるもう1人の登場人物がいる。あまり詳しく話すとネタバレになってしまうが、外国人を敵視するある青年だ。彼は「世の中に役に立たない人間」を完全否定する。それに対して新次郎は言う。「役に立つってなんだ?」。世の中の役に立つかどうかで人間を選別しようとする風潮に、彼は敢然と異議を唱えるのである。

といっても、別に小難しい話を展開するわけではない。ドラマの基調はあくまでもハードボイルド・エンタテインメント。それらしいお楽しみがそこかしこにある。

クライマックスは、ヤクザと中国系マフィアのボス同士の壮絶な殴り合い。そして、新次郎と地元有力者の手下との、こちらも壮絶過ぎる殴り合いだ。

派手なガンアクションなどは本作にはない。わずかに何者かがボウガンを使って恭一や新次郎が撃たれる程度である。基本は肉体と肉体のぶつかり合い。この潔さも本作の魅力だ。

最後はエンタテインメントらしく大団円を迎えつつ、日本の入管行政の無慈悲さを示して苦さも残す。

ラストシーンもいい。表でヤクザたちが殴り合いをしている中、新次郎がラーメン(たしか坦々刀削麺と言っていたな)を食す。殴られたヤクザが店に飛び込んでくる。新次郎はやおら表に出て彼らをボコボコにし、再び何事もなかったように坦々刀削麵を食べるのだ。この映画にふさわしい気の利いたエンディングだった。

主演の北村有起哉は、文学座の名優・北村和夫の息子。これまでに数々の映画、ドラマ、舞台に出演しているが、主演よりも脇役のイメージが強かった。今回の新次郎役は、まさにハマリ役だ。やさぐれてはいるものの人間味のある私立探偵を、見事に演じ切っていた。アクションシーンも板についている。

古風なスタイルのハードボイルド探偵ものと思いきや、今の時代を確実にとらえた映画。これ一作だけというのはもったいない。できればシリーズ化を期待したいところ。テレビの連続ドラマでもいいかも。

◆「終末の探偵」
(2022年 日本)(上映時間1時間20分)
監督:井川広太郎
出演:北村有起哉、松角洋平、武イリヤ、青木柚、髙石あかり、水石亜飛夢、古山憲太郎川瀬陽太高川裕也麿赤兒
*シネマート新宿ほかにて公開中。順次全国公開予定
ホームページ http://syumatsu-tantei.com/

 


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