映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「GOLDFISH」

「GOLDFISH」
2023年4月1日(土)シネマ・ロサにて。午後1時20分より鑑賞(シネマ・ロサ1/C-4)

~あのキラキラした青春は帰ってくるのか!?パンクロックバンドの再結成をめぐるドラマ

昔、ロックバンドでベースを弾いていた。ライブハウスにも出演していた。そのせいか、ロックバンドを扱った映画にはどうしても興味を引かれてしまう。

「GOLDFISH」はパンクロックバンド「アナーキー(亜無亜危異)」のギタリスト、藤沼伸一が初めて監督を務めた映画だ。

1980年代に人気を博したパンクバンド「ガンズ」の元メンバーでギタリストのイチ(永瀬正敏)のもとに、リーダーだったアニマル(渋川清彦)から電話がかかってくる。それは再結成の誘いの電話だった。30年前、ガンズはメンバーのハルが傷害事件を起こしたことにより活動休止を余儀なくされた。それから30年、金に困ったアニマルは再結成を目論んだのだ。

イチは最初のうちこそ相手にしないが、自身も金が必要になったことから2人は再結成に動く。かつてのメンバーに連絡を取り同意を取り付けるが、ハル(北村有起哉)だけは承諾しない。それでも最後は覚悟を決めて、メンバー全員揃って本格的に動き出すのだが……。

この映画は、藤沼監督自身の経験がもとになっている。アナーキーは1980年にレコードデビューし人気バンドとなったが、1986年にメンバーの逸見泰成(マリ)が刺傷事件を起こして逮捕される。以降は残りのメンバーでバンド名を「THE ROCK BAND」として活動するがその後活動休止。何度か再結成するものの逸見は死去してしまう。

そう、この映画のハルには明らかに逸見が投影されている(映画のラストには「逸見泰成に捧ぐ」というテロップが映し出される)。「ガンズ」の着ていたステージ衣装などもアナーキーと似ているし、演奏する音楽も同様だ。というわけで、私のように事情を知っている者は、どうしてもスクリーンの中の出来事と現実をリンクさせてしまう。

だが、藤沼監督は自分の体験にどっぷり浸かっているわけではない。どちらかというと一歩引いた目線でドラマを描いている。例えば、イチのひとり娘ニコ(成海花音)を登場させ、彼女の視点から「ガンズ」の再結成を見つめさせたりする。あるいは街の風景を随所に織り込み、今の風を映画に吹き込む。そうかと思えば、死神のような存在のバックドアマン(町田康)が時々メンバーの前に現れて、その先の不運を暗示する。こうした様々な仕掛けのおかげで、より幅の広い青春ドラマに仕上がっている。

ただし、青春といってもそれは中年の青春だ。若い頃の輝かしい日々を思い起こし、できればそこに回帰したいという男たちのドラマである。

「ガンズ」の再結成は金が発端になっているが、それだけとは思えない。主人公のイチはメンバー中唯一、今でも音楽で生計を立てている。と言ってもアイドルのバックを務めるなど、時代に流されながら何とか生き延びている。かつてはパンクバンドとして時代の先端を走っていたが、今は見る影もない。そんな中に持ち込まれた再結成話。そこには、もう一度輝きたいという思いがあったに違いない。

だが、時代の流れは残酷だ。あの頃と今は確実に違う。それに気づいていたのがハルかもしれない。彼はなかなか再結成に同意しない。ようやく同意したのは、彼にも若き日々への追慕の思いがあったのだろう。今のハルは女に養ってもらい、パチンコ三昧の日々を送っていたのだから。

回想の中の若き日の5人は、若い俳優が演じている。中年になった彼らとの対比が印象的で、なおさら時代の流れを感じさせる。それでも彼らは前を向いて進もうとする。それは単なる懐古趣味ではない。昔は自分たちが利用されていた。今度はそうはさせない。イチはそう言う。だが、はたして今の時代にパンクは受け入れられるのか?

後半はハルの破滅が描かれる。バンドはリハーサルに突入するが、ハルはなかなか出てこない。今の彼にとって、そこは自分の居場所ではなかった。それでも再結成ライブは近づいてくる。彼はどんどん追い詰められていく。

「終末の探偵」での演技も記憶に新しい北村有起哉が、繊細で傷つきやすく、誰かに頼らずにはいられないハルを好演している。彼を養う雅美役の有森也実の蓮っ葉な演技もいい。このカップルは時代遅れの雰囲気がプンプンとする。

クライマックスは悲劇的な出来事が起きる。それでもバンドは再結成のライブを敢行する。彼らの背中には時代に取り残された者の切なさが漂う。だが、同時に、あくまでも前に進んでいこうという逞しさも感じられる。

北村、有森以外にも、永瀬正敏はギタリスト役がはまっているし(たしか彼はロックファン)、渋川清彦の度を越した能天気ぶりも潔い(アナーキーの仲野茂を超えている)。事務所の社長役の山村美智なども良いキャストだ。

そして、有名ロックミュージシャンがチラリと登場するのも楽しいところ。冒頭近くの喫茶店のシーンでは、マスター役のPANTAがブチ切れた役で笑いを誘う。

個人的には色々と感慨にふけった映画ではあるが、私のようにアナーキーのことを知らない人も楽しめる青春バンド映画だと思う。時代の流れに取り残されながらも、何とかそれに抗しようとする中年、もしくは老年世代にとっての応援歌と言える映画かもしれない。

そういえば劇場には、藤沼監督と同世代と思しき観客がたくさんいたなぁ~。あの人たちは今もパンクに生きているのだろうか?

◆「GOLDFISH」
(2023年 日本)(上映時間1時間39分)
監督:藤沼伸一
出演:永瀬正敏北村有起哉、渋川清彦、町田康有森也実増子直純、松林慎司、篠田諒、山岸健太、長谷川ティティ、成海花音、山村美智うじきつよしPANTA、豪起、まちゃまちゃ、仲野茂、藤沼伸一、寺岡信芳
*シネマート新宿、シネマ・ロサほかにて公開中
ホームページ https://goldfish-movie.jp/

 


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