映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ファミリア」

「ファミリア」
2023年1月8日(日)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後5時より鑑賞(スクリーン3/E-16)

~日本社会の縮図は地方都市にある。移民問題を背景に新たな家族の形を問う

日本にはたくさんの移民がいる。だが、その地位は十分に保証されているとは言えない。日本人に比べて、劣悪な環境に身を置かざるを得ない人々が多い。

「八日目の蝉」「ソロモンの偽証」の成島出監督が、いながききよたか(「洋菓子店コアンドル」)のオリジナル脚本を映画化した「ファミリア」はブラジル人移民を取り上げた作品である。

妻を早くに亡くし、山里で一人で暮らす神谷誠治(役所広司)は、小さな窯を持ち陶芸職人として働いていた。ある日、仕事でアルジェリアに赴任中の一人息子の学(吉沢亮)が、難民出身の妻ナディアを連れて一時帰国する。学は結婚を機に会社を辞め、焼き物を継ぎたいと言うが、誠治は陶芸で食べていくのは大変だと反対する。

一方、隣町の団地に住む在日ブラジル人青年のマルコス(サガエルカス)は日本人の半グレ集団とトラブルを起こし、ブラジル人を憎むリーダーの海斗(MIYAVI)に追われていた。マルコスは、助けてくれた誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物にも興味を持つようになる。だが、そんな中で悲劇が起きる……。

成島監督の映画らしく、奇をてらうこともなく正攻法から移民たちを描いている。こうした形で移民を取り上げたことは、過去にあまりなかったのではないか。それだけでも高く評価できる映画だと思う。

冒頭の長回しの映像が素晴らしい。ドローンを使い、朝の団地風景を映し出す。通勤する勤め人、工場や工事現場に向かう人、登校する子供たち、帰宅する水商売の女たち。一見、普通の団地だが、そこがブラジル人たちの生活の拠点となっていることを示す見事なショットだ。このドラマが彼らを中心人物に据えていることを端的に物語る。

ちなみに、本作の団地は、愛知県豊田市に実在する保見団地がモデルらしい。住民の6割がブラジルにルーツを持ち、住民は地元の工場などに勤務しているという。

だが、この映画の団地を取り巻く環境は厳しい。何かあればすぐに仕事を首になり、学校にもろくに行けない。金銭的にもギリギリの生活をしている。常に危険と隣り合わせの毎日だ。映画は、そのことを強烈に印象づける。

そして、彼らをさらに危険な目に遭わせるのが、いわゆる半グレ集団だ。彼らは、ブラジル人を目の敵にし、金を搾り取り、暴力で支配し、最後には命まで奪う。

映画は、その場面を執拗に描く。リーダーの海斗を演じるMIYAVIの冷酷な演技もあり、背筋ゾクゾクものの恐怖が感じられる。

そんな事情からブラジル人青年マルコスは、移民に冷たい日本社会に反発している。海斗をはじめ半グレ集団は彼らを容赦なく攻撃する。そんなマルコスを救うのが陶芸職人の誠治だ。

彼は自慢の息子が外国人の、しかも難民出身の妻を連れてきても、偏見の目で見たりはしない。大歓迎するのだ。ブラジル人たちと交流することにも、多少の戸惑いは感じながらも、特に抵抗はない。愚直で恥ずかしがり屋で優しい男なのである。

その誠治が、自らの生活に入り込んできたマルコスたちを戸惑いながらも受け入れる。マルコスも誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物にも興味を持つようになる。こうして彼らはある種の「家族」になるのだ(その背景には息子に関わる悲劇もあるのだが)。

誠治の人物像があまりにも理想的過ぎるという感想もあるだろう。だが、新しい時代の家族を形作るのはこういう人物なのだ、というある種の理想型を見せていると思えば納得がいく。しかも、あの人物像があるおかげで、ラストの強烈な修羅場が生きてくるのである。

以前取り上げた「やまぶき」でも思ったのだが、日本社会の縮図は地方都市にある。地方都市だからこそ、様々な社会問題が見えてくる。移民問題をクローズアップしたこの映画は、そのことを如実に示している。

役者では貫禄の役所広司をはじめ、吉沢亮中原丈雄室井滋、MIYAVI、佐藤浩市などが、それぞれの持ち味を発揮。松重豊のヤクザはいつ見ても怖いぞ~。オーディションで選ばれたマルコス役のサガエルカスなど、ほとんど映画初出演のブラジル人たちも頑張っている。

まあ、個人的には不満もないわけではないんですけどね。脚本にはやや難があるし、既視感ありありの「ありがち」なところが多いのも気になるところ。

特に半グレが暴れる場面は、どこかで見たギャング映画のような風景だ。モデルになった保見団地でも1999年に若い南米系の住民と右翼団体や暴走族が対立し、抗争事件が発生したというが、それにしてもねぇ。

とはいえ、総じてみれば力作と言える。新しい時代の家族を問い直し、移民問題など現在の日本の社会問題を鋭く突いた作品だ。今という時代だからこそのリアルさが感じられるだけに、観ておく価値はあるだろう。

◆「ファミリア」
(2022年 日本)(上映時間2時間1分)
監督:成島出
出演:役所広司吉沢亮、サガエルカス、ワケドファジレ、中原丈雄室井滋、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、高橋里恩、高橋侃、管勇毅、井並テン、大空ゆうひ、安藤彰則、沖原一生、松重豊、MIYAVI、佐藤浩市
*丸の内TOEIほかにて全国公開中
ホームページ https://familiar-movie.jp/

 


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