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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「後妻業の女」

「後妻業の女」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2016年8月28日(日)午後1時25分より鑑賞。

中高年相手の結婚相談所(サイトとかも含めて)が人気らしい。まあ、一人で老いていくのは寂しいという気持ちもわからんではないが、そこまでして結婚したいものだろうか。まして、連れ合いを亡くして新しい相手を求めるというのはどうなんだ?結婚など一度すりゃ、それでもういいのではないか。何でそんなに結婚したがる?結婚とはそんなにいいものなのか?と、一度も結婚した経験のないオレは思ってしまうのである。

何にしても、新たな異性を求める中高年の脇は当然甘くなる。出会い願望が強ければ強いほど、どんどん隙ができてくる。それにつけこむ不逞の輩も現れてくる。それを描いたのが「後妻業の女」(2016年 日本)だ。

直木賞作家・黒川博行の小説「後妻業」の映画化。「後妻業」とは何かといえば、高齢の男性をたぶらかして後妻になり、死んだら遺産を独り占めする仕事だ。しかも、この映画の主人公の武内小夜子(大竹しのぶ)は、裏で糸を引く結婚相談所の所長、柏木亨(豊川悦司)とともに、夫を殺害するのもためらわないのである。

というわけで、ネタ的には間違いなくコワ~イ男女による犯罪ドラマ。壮絶で背筋ゾクゾクもののドラマが展開しそうである(例えば、白石和彌監督の「凶悪」や松本清張原作の悪女もののドラマのような……)。ところが、なんとそれを笑い満載のコメディに仕立てているのがこの映画だ。

何人もの男を手玉に取ってきた主人公の小夜子だが、この映画で中心的に描かれるのは元大学教授の中瀬耕造(津川雅彦)との一件。結婚相談所主催の婚活パーティで知り合い、彼と結婚した小夜子。2年後に耕造は脳梗塞で入院し、やがて他界。その葬儀の席で耕造の2人の娘、朋美(尾野真千子)と尚子(長谷川京子)は、全財産を小夜子に遺すと記された遺言公正証書を突きつけられる。納得できない朋美が同級生の弁護士に調べてもらうと、小夜子は裕福な老人の後妻に入って全財産を巻き上げる「後妻業の女」と判明。彼女の背後には結婚相談所の所長、柏木亨の存在があった……。

婚活パーティのシーン、耕造の死をめぐるシーンなど冒頭から笑いの波状攻撃が続く。なにせ小夜子と柏木のキャラが強烈だ。どちらも欲望をギラつかせて、本音をズバリと言いまくる。そして欲望の実現のためには手段を選ばない。善悪の境界線なんてとっくに飛び越えている。その一方で、小夜子はどこか抜けているし、後半では意外にも自分が騙されそうになる。柏木もやり手のはずなのに、女にだらしなく、それでトラブルになったりする。

そんなアクの強く、同時に人間臭い人物を大竹しのぶ豊川悦司が見事に演じている。これがさすがの演技である。「このキャラでこの役者なら」という期待を、けっして裏切らない。2人が操る大阪弁も効果的だ。メチャクチャなことを言っても、どこか人間臭くて味があるのだ。2人の競演を観ているだけで、無条件に楽しくなってしまう映画である。ネタがネタなので凄惨なシーンもあるのだが、あくまでも軽~く、むしろ明るいぐらいに描いてしまうので、嫌な感じは全くしない。

ドラマ的な転機は、朋美が裏社会の探偵・本多(永瀬正敏)とともに2人を追及していくところ。それによって、いよいよ小夜子と柏木の悪事が露見しかかる。ただし、そこも勧善懲悪劇のような展開にはしない。実は本多もかなりのクセモノ。彼にも欲望があって、それがもとで思わぬ方向に転がっていく。なんだ?この欲望の連鎖は!

後半のハイライトのひとつは、小夜子と朋美のすさまじい取っ組み合いかもしれない。朋美は別に欲望だけで動いているわけではないが、遺産という問題があるだけに必死だ。女の意地と欲望がぶつかり合い、異様な熱気を生み出している。まるでホントにケンカしているかのようなシーンだが、同時に大阪弁のおかしみもにじむ。

さらに、ラスト近くのドタバタ劇も見応えタップリだ。バカといえばバカな展開だが、スーツケースを使って観客を笑いに引き込む。そのほか下ネタもたくさん飛び出すし(あそこが「スカリツリーやぁ~」とか)、本筋と関係ないところでカワイイおねぇちゃん(樋井明日香)の裸を出したりと、サービス精神も十分。そのあたりは、何やら昔の日本映画を想起させる。

とはいえ、映画的な妙味は少ない。鶴橋監督は、もともとテレビドラマの巨匠で映画の実績がそれほどあるわけではない。そういうこともあって、驚くような場面は少ない。さらにドラマ的に注文をつければ、小夜子があんなふうになった背景をもう少し描いてほしかった気もするのだが。

ともあれ、大人向けのエンターティメント映画として、なかなかよくできている。そして、ただ楽しいだけではなく、考えさせられるところもある。このドラマの背景には、高齢者の婚活ブームという現実の社会現象がある。そして登場人物の多くが金に踊らされている。欲望に取りつかれて、右往左往している。そんな、しょーもない人間たちを観ているうちに、何やら物悲しい気持ちになってくるのである。

オレも将来、小夜子に手玉に取られた老人たちのようにならないとも限らない。くれぐれも気をつけよう。あ、オレにはお金がないから、その心配は無用だったわ(笑)。

●今日の映画代1500円(ユナイテッド・シネマの会員料金。)