映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「シン・ゴジラ」

シン・ゴジラ
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2016年8月25日(木)午後12時45分より鑑賞。

日本が誇るゴジラである。ハリウッドでもリメイクされたゴジラである(前に製作されたハリウッド版は散々だったけど、一昨年公開されたギャレス・エドワーズ監督の「GODZILLA ゴジラ」はけっこう評判よかったみたい)。そして、「ゴジラ FINAL WARS」(2004年)以来12年ぶりに東宝が製作したオリジナルのゴジラ映画「シン・ゴジラ」(2016年 日本)の登場だ。

羽田沖から海水が噴出し、東京湾アクアトンネルが崩落する。各閣僚が出席した緊急会議では、海底火山が原因とされるが、内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)は未知の巨大生物の可能性を指摘する。まもなく、巨大生物が姿を現わし、“ゴジラ”と名付けられる。ゴジラは東京の街を破壊していくのだが……。

この映画、一応、総監督と脚本が庵野秀明、監督と特技監督樋口真嗣とクレジットされているが、これは完全に庵野秀明の映画だと思う。だって、映像や演出が「エヴァンゲリオン」そっくりなんだもん。エヴァの作戦がヤシオ作戦で、シン・ゴジラの作戦がヤシオリ作戦って、そっくりすぎて笑っちゃいます。それだけでなく、演出も映像も完全にエヴァなのである。

冒頭は前フリも何もなし。いきなり羽田沖で海水が噴出して、海底トンネルが崩落。そして、その後に延々と描かれるのは政府の会議。いろんな会議を重ねて、現状把握や出現したゴジラへの対処法を考えるものの、指揮命令系統が不明確だったり、責任をなすり合ったりして何も決められない。膨大な登場人物があれやこれやとセリフをしゃべりまくるだけ。ついでにおびただしい数のテロップも流れる。

これって完全に東日本大震災原発事故を意識してるよなぁ。単なる怪獣映画にとどまらず、予期せぬ危機に襲われた際の日本社会のありようを描き出しているわけだ。もともと最初のゴジラは、ビキニ環礁の水爆実験をきっかけに生まれたもの。それをふまえて、本作も社会性を強く押しだしているのだろう。さらにゴジラの傍若無人な暴れっぷりや音楽の使い方などには、昔のゴジラ映画へのリスペクトも感じられる。

中盤になるとゴジラはいったん海に戻る。その間に、ゴジラ放射能と強く関係した生物であることが明らかになる。いわば歩く原発みたいなものだろうか(しかも、破壊された)。これもまた東日本大震災原発事故を意識させる展開である。

そして再び上陸したゴジラ自衛隊に加え米軍も攻撃を加えるものの、まったく効果なし。やがてアメリカが国連決議をもとに、核兵器ゴジラを攻撃しようとする。それに対して内閣官房副長官・矢口蘭堂を中心とするグループは、血液凝固剤をゴジラに注入する作戦を計画する。

中盤以降も、危機に対する日本人や日本社会の姿を描く姿勢は不変。日米同盟だの、核兵器だの、現実の世界を背景にリアルに見せていく。怪しげな日本語を駆使する石原さとみ演じるアメリカの要人も絡んできたりして(でも、なんか浮いてますよね。この人)。

同時に怪獣映画としての魅力も、次第に大きくなっていく。今回のゴジラ。最初に登場した時は「何じゃそりゃ?」と拍子抜けするセコさだ。それが次第に進化して、強力で、凶暴なものになっていく。この設定がとても効果的だ。

容赦なく街を破壊しつくすゴジラ。迫力の戦闘シーン。さらに落ちこぼれの役人たちを集めた矢口グループの意外な活躍(特に市川実日子がいい味出してます)。ヒーロー&ヒロインVS怪獣というエンタメ映画の王道をきっちりと押さえた展開である。

クライマックスの作戦決行のシーン。そして、ラストの矢口の未来への決意を込めた表情。今は凍りついているゴジラの姿。というわけでエンディングも余韻が残る。

ただし物足りなさもある。なにせ描かれるのは政治家や官僚ばかり。国を救う矢口たちにしてもエリート層。それが愛国的に行動するだけなのだ。確かに政治家や官僚が一義的には国を動かしているのであり、そこにあえて焦点を絞ったのだろうが、個人的には民衆の側ももっと描いてほしかったと思う。

まあ、それでも怪獣映画ファンは満足できるはずだし、社会性にも富んだ作品ということで、一見の価値があるのは間違いないだろう。

ちなみに、キャストには総勢328人が出演しているとか。ワンシーンだけ出演する有名人もテンコ盛りだ。そのほとんどを50音順で紹介するエンドロールにもビックリ。規格外の作品である。

●今日の映画代1200円(ユナイテッド・シネマ会員のクーポンを使わせていただきました。)