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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「サバイバルファミリー」

「サバイバルファミリー」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年2月16日(木)午前11時45分より鑑賞(スクリーン5/自由席)。

2011年3月11日の東日本大震災の時、オレはあまりの揺れの激しさに思わず家から外へ飛び出した。するとアスファルトの地面もグラグラ揺れていて、頭の中が真っ白になった。このまま地球が終わるのではないか。そんな恐怖感まで頭をもたげた。

その後の東京では、スーパーやコンビニの店頭から物が消え、携帯電話がつながりにくくなるなど、かなりの混乱が起きた、便利さを究極まで追求した現代社会のもろさが露呈した形だ。もちろん被災地の混乱ぶりは、その比ではなかったわけだが。

そんなあの日のことを想起させた映画が「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」などでおなじみの矢口史靖監督による「サバイバルファミリー」である。

東京に暮らす鈴木家。仕事一筋の父(小日向文世)、のんびり屋の母(深津絵里)、無口な大学生の長男(泉澤祐希)、おしゃれとスマホに夢中の高校生の長女(葵わかな)の4人家族。ところが、ある日、いきなり電気が消滅する。電化製品はもちろん、電車や自動車、ガス、水道、乾電池などがすべて止まり、最初はすぐに復旧すると楽観視していたものの、1週間たっても元に戻らなかった。水も食料もままならずに困った父は、東京を離れて母の父(柄本明)が住む鹿児島へ行くことを宣言する。家族は渋々それに従い、飛行機も飛ばないため自転車での旅を始めるのだが……。

鹿児島を目指す100日近い旅の途中で、鈴木一家は様々なことを経験する。どんどん減っていく水や食料。慣れない野宿。高速道路は徒歩で脱出する人でいっぱいだし、トンネルは真っ暗で案内人なしでは歩けない(そこを有料で案内するおばあさんたちが笑える)。サバイバル生活をポジティブに楽しむ家族や、養豚農家のおじさんとの出会いもある。

そうした中で、家族は少しずつ成長していく。映画の冒頭で魚さえさばけなかった家族が、豚を解体処理するシーンが印象的だ。そして数々の経験を通して、最初は身勝手でバラバラだった家族が絆を強めていく。

というわけで、この映画は家族の成長と再生を描いたロードムービーなのだが、それだけでは終わらない。劇中では突然襲った異常事態の中、電気や水道、物流、交通機関などがストップして人々は右往左往する。水や食料にも事欠いて、スーパーやコンビニに行っても十分に手に入らない。法外な値段でそれらを売りつける人々も現れる。

これは完全に、阪神淡路大震災東日本大震災のあとの状況ではないか。しかも矢口監督は、手持ちカメラを多用して、それをますますリアルに見せていく。だから、観客はスクリーンの中の出来事が、けっして絵空事に思えないのである。

終盤は様々なピンチが家族を襲う。はたして一家は生き延びて、鹿児島に着くことができるのか。

矢口監督の過去の作品は、明るく楽しいコメディー映画が多い。しかも、突き抜けた笑いが特徴だ。だが、そのイメージでこの作品を観ると、期待を裏切られるかもしれない。全体がコメディー仕立てだし、笑えるところもあちこちに挟まれてはいるのだが、突き抜けた楽しさはない。その代わり、観客にいろいろなことを考えさせる。

映画の最後に登場するのは、2年半後にようやく元に戻った東京の夜景。まばゆい人工の明りが輝いている。一方、映画の前半では停電によって真っ暗になった東京の夜景が描かれる。そこでは星が美しく輝き、天の川が夜空にくっきりと浮かぶ。

もしかしたら、この対比こそが矢口監督が描きたかったものなのかもしれない。東日本大震災から6年が経つ今、震災直後の節電モードもどこへやら、人々の生活は相変わらず電気に頼りっぱなしで、そのために原発再稼働もどんどん進められている。そういう便利さだけを追い求める生活モードに対して、疑問を投げかけていると見るのは考えすぎだろうか。

蒸気機関車の中で、顔を真っ黒にしながら笑い合う家族の表情も心に残る。停電前にはなかった笑顔だ。多少の不便さの中でも、幸せは見つけられるということだろうか。

前作『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』では、危機に立つ林業をテーマにした矢口監督。明るく楽しいだけではなく、リアルで深刻な問題もきっちり取り上げようとする姿勢がより強まった気がする。矢口監督の新境地を感じさせる映画である。

●今日の映画代、1500円。ユナイテッド・シネマの会員料金。一般より300円安くてポイントが貯まります。年会費は確か500円。