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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」

「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」
TOHOシネマズシャンテにて。2017年4月14日(金)午前11時40分より鑑賞(スクリーン2/E-11)。

どう考えてもマトモとは思えないアメリカ大統領が登場したことによって、過去の偉大な大統領の話が語られる頻度が増えた気がする。そんな時によく名前が上がるのが、第35代大統領のジョン・F・ケネディだ。

だが、彼については「実はそんなに大したことはやっていないんじゃないの?」「実績を上げる前に暗殺されてしまったのでは?」という声もよく聞く。あまりにも過大評価されているというわけだ。

だとすれば、どうしてそうなったのか。映画「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」(JACKIE)(2016年 アメリカ・チリ・フランス)は、その一つの回答といえるかもしれない。

この映画は、ジョン・F・ケネディ元アメリカ大統領の妻ジャッキーことジャクリーン・ケネディの伝記映画だ。伝記映画といっても、焦点が当てられるのは大統領暗殺から葬儀までの4日間。その間に起きた出来事を描く。

1963年11月22日、ジョン・F・ケネディ大統領が、テキサス州ダラスでのパレード中に何者かに射撃され命を落とす。目の前で夫を殺害された妻ジャクリーン(ナタリー・ポートマン)は悲しむ間もなく、葬儀の準備や代わりに大統領に就任するジョンソン副大統領への引き継ぎ、ホワイトハウスからの退去など様々な対応に追われる。そんな中、夫が「過去の人」として扱われることが我慢できない彼女は、夫を後々まで語り継がれる存在にしようと決意するのだが……。

映画全体の構図は、ジャッキーがジャーナリストのインタビューを受けるというもの。ただし、このインタビューはジャッキーが主導して実現したものだ。それまでの夫の記事に満足できない彼女は、自分が意図した記事を書かせようとしてジャーナリストを招いた。客観的な事実ではなく、そのジャーナリストが言うところの「あなたから見た事実」である。その中で語られる4日間の出来事が再現される。

では、そこでどんなことが語られたのか。夫の暗殺直後、その亡骸とともにワシントンに帰る飛行機の中で、代わりに大統領に就任するジョンソン副大統領の宣誓式が行われる。それを見たジャッキーは、「なんでこんなとこで宣誓式なんかするのよ!」と怒りに震える(もちろん口には出さないのだが)。そして、「このままじゃ夫が忘れられちゃうじゃないのよ!」と危機感を覚える。

夫を絶対に忘れられない存在にしなければならない。そう決意したジャッキーは、しばらくの間夫の暗殺時に着用していた血染めのスーツを着続ける。また、周囲に逆らって、夫をケネディ家の墓ではなくアーリントン墓地に埋葬しようとする。さらに、葬儀はリンカーン大統領の葬儀をお手本にして、棺とともに行進する盛大なものにしようとする。

とはいえ、ジャッキーの心は千々に乱れる。何しろ彼女がやるべきことは葬儀や埋葬の準備だけではない。ジョンソン副大統領への引き継ぎ、ホワイトハウスから退去する準備、そして最も難しい幼い子供たちへの説明など、様々なことをしなければいけない。そうした中で、夫を失った悲しみにさいなまれ、スタッフや義弟のロバート・F・ケネディと対立するなど、混乱のるつぼに叩き込まれていく。

肝心の葬儀にしても、暗殺犯とされたオズワルドが射殺されたというニュースを聞き、当初予定していた盛大な行進をいったんは中止しようとする。まあ、とにかく彼女の気持ちはあっちに行ったり、こっちに行ったりと乱れまくるのだ。

それをいくつものエピソードを積み重ねつつ描く展開だ。しかも、その間にはかつてジャッキーが案内役になって、ホワイトハウスの内部を紹介したテレビ番組の映像が流される。また、このインタビュー後に彼女が司祭と交わす会話も挿入される。そこでは、彼女の死への願望まで語られる。

こうしていろんな要素を詰め込んだことによって、地味なドラマが観応えあるものになったのは事実。その一方で、全体にまとまりがなく散漫になった印象がどうしてもぬぐえない。そのため、観客がジャッキーに感情移入するのは相当にハードルが高いかもしれない。

ただし、そこで光るのがジャッキーを演じたナタリー・ポートマンの演技である。まるで一人芝居のようなシーンもあるのだが、それも含めて様々に変化し、上下左右に揺れ動きまくるジャッキーの心理を見事に表現している。今回製作を手がけたダーレン・アロノフスキーが監督した「ブラック・スワン」に劣らない圧巻の演技だ。本作でアカデミー主演女優賞候補になったのも当然だろう。

アカデミー外国語映画賞候補作「NO」のチリ人監督パブロ・ララインも、そんなナタリーの演技を生かすべく、彼女のアップを多用する。これはまさしくナタリー・ポートマンのための映画である。そこに注目せずしてこの映画を観る価値はないだろう。

この映画の描くところによれば、ジャッキーはケネディの名声を高めた立役者であり、名プロデューサーといえそうだ。彼女がいなければ、ケネディが現在まで語り継がれることはなかったかもしれない。そういう意味でも興味深い映画である。

●今日の映画代、1100円。毎月14日はTOHOシネマズデイ。誰でも安く観られます。