映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~」

「人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~」
2021年10月11日(月)新宿シネマカリテにて。午後2時15分より鑑賞(スクリーン2/A-6)

~香港の失恋女性の再起物語。いろんな要素がギッシリと

最近、中国映画は元気だけれど香港映画はどうなんだろう。と思っていたところに公開された香港映画。「人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~」。恋人に裏切られ仕事まで失った女性が、バス運転手となって再起を図る姿を描いたドラマだ。監督・脚本は、香港に生きる男女のラブストーリーを多く手がけてきたパトリック・コン。

序盤は主人公のソック(イヴァナ・ウォン)の失恋までの経緯を綴る。冒頭で彼女は元カレのジーコウ(エドモンド・リョン)の結婚式に出席して、一騒動に巻き込まれる。なぜそうなったのか。ジーコウはチリソース店の三代目だが、正直言って仕事は無能。それに代わって、恋人のソックが商売に辣腕をふるっていたのだ。

そんな中、店に中国本土進出の話が舞い込む。ケイケイ(ジャッキー・ツァイ)という女性が持ち込んできた話で、ソックは最初乗り気でないものの、ジーコウが積極的でケイケイも熱心に計画を推進する。ジーコウは多忙になり、ソックとすれ違うことが多くなる。そんなある日、ソックはジーコウとケイケイの浮気現場に遭遇してしまう。

こうしてジーコウと別れたソックはバス運転手となり(香港名物2階建てバス!)、新たな人生を踏み出す。ところが、そこにケイケイの元カレだというレイ・ザンマン(フィリップ・クン)という男が現れ、復讐話を持ちかけてきたからさあ大変……。

というのがメインとなるストーリーだが、それ以外にも、たくさんのエピソードが描かれる。例えばソックの両親の離婚話、レイ・ザンマンと元妻との関係、病弱の妻を持つバス運転手のエピソードなどなど。次々にいろんなことが起きて、ノンストップで話が進んでいく。

しかも、タッチもめまぐるしく変わる。ストーリーだけを聞くと温かなヒューマンドラマを連想するが、それだけではない。ラブロマンス、爆笑コメディ、人情ドラマなど様々な要素がテンコ盛りで詰まっているのだ。

誰にもわかりやすいようにすべてをセリフで説明したり、場面に合わせてBGMをコロコロ変えたり。よく言えばサービス精神満載。悪く言えば過剰に詰め込み過ぎ。そこには何が何でも観客を楽しませようとする姿勢が見える。ある意味、香港映画らしい香港映画といえるかも。

そんな中、さすがに恋愛映画を多くつくってきた監督だけに、ロマンス絡みの部分はそれなりに情感が漂う。

中盤から復讐話が始まると、話はさらにハジケだす。ソックのもとに復讐話を持ち込んできたレイ・ザンマンは、「サイコパスかよ!」とツッコミを入れたくなるほどの変人。彼が行う復讐もハンパではない。最初のうちは笑って見ていたが、いくら何でもやり過ぎでしょう。

そんな復讐劇には逆転劇も用意されている。とはいえ、それがまあバタバタと忙しない。そして、いよいよラストへ突入。

ラストはソックとジーコウの新しい関係を描いて大団円。かと思いきや、最後にもうひとネタがあるのだ、これが。うーむ、ホントにサービス精神満載だな。

教訓めいたものもしっかり入れ込んでいる。人生はバスに乗ることと似ている。乗り間違えても降りて正しいバスに乗ればいい。必ず目的地に着く……。当たり前ではあるけれど、納得の教訓である。

主演のイヴァナ・ウォンは香港のシンガーソング・ライター。年齢を見ると40歳を超えているのに、童顔でとてもそうは見えない。俳優としてのキャリアもかなりあるようで、しっかりした演技を披露していた。

上映時間1時間45分のこの映画。いろんなものを詰め込んでいるから、お腹いっぱいです。深みこそないものの、気楽に観るには十分な娯楽作でしょう。

ちなみに、ソックの父が経営するレコード店が閉店間際で大賑わいする場面があるのだが、その時に父親が「香港人はこうだからなあ。もっと早くから来てくれればいいものを」というようなセリフを吐く。これって、もしかして香港の民主化運動のことを言っているのだろうか。こんなことになる前に、もっと前から熱心に活動しとけばよかったのに、と。まあ、個人的な邪推ですが。

 

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◆「人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~」(阿索的故事/THE CALLING OF A BUS DRIVER)
(2020年 香港)(上映時間1時間45分) 2020
監督・脚本:パトリック・コン
出演:イヴァナ・ウォン、フィリップ・クン、エドモンド・リョン、ジャッキー・ツァイ、スーザン・ショウ、マン・シューイー、ダニー・サマー、ナタリー・トン、ボブ・ラム、ベン・ユエン
*新宿シネマカリテほかにて公開中
ホームページ http://jinsei-driver.musashino-k.jp/

 


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