映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」

ナミヤ雑貨店の奇蹟
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年9月25日(月)午後3時30分より鑑賞(スクリーン3/自由席)。

日本のロックの開拓者の1人であるミュージシャンのPANTA。1970年に結成されたバンド「頭脳警察」でデビューしたものの、過激な歌詞が災いして、ファーストアルバムが発売中止、セカンドアルバムが放送禁止になるなど数々の「伝説」を残す。「頭脳警察」解散後はPANTA & HALやソロとして活動し、1990年以降は断続的に「頭脳警察」の活動を展開。60代半ばを越えた現在も精力的に活動を続けている。

オレはそんなPANTAの大ファンだ。数えきれないほどライブに通い、アルバムもほとんど持っている(あんまり数が多いので全部じゃないです。スイマセン)。それどころか、ひょんなことから頭脳警察のインタビュー本の制作を手伝ったこともある。

実は、そのPANTAは時々役者としても活動している。そのきっかけは、桑田佳祐初監督作品の映画「稲村ジェーン」(1990年)への出演。最近も佐藤寿保監督の「眼球の夢」、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙―サイレンス―」、片嶋一貴監督の4時間超の長尺映画「いぬむこいり」などに出演して、抜群の存在感を発揮している。

このほど公開になった東野圭吾のベストセラー小説の映画化「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(2017年 日本)にも、PANTAは出演している。

ドラマは1969年の街頭からスタートする。その街にあるナミヤ雑貨店は一見ありふれた雑貨店。子供たちがひっきりなしに訪れている。だが、その店には大きな特徴があった。店主の浪矢雄治(西田敏行)が、寄せられた人生相談の手紙に対して、ていねいに返事を書いていたのだ、

そこから時代は一気に2012年に飛ぶ。敦也(山田涼介)、翔太(村上虹郎)、幸平(寛一郎)の幼なじみ3人組が、悪事を働いて一軒の廃屋に逃げ込んでくる。そこは、かつてのナミヤ雑貨店だった。そんな中、突然、シャッターの郵便受けに一通の手紙が落ちてくる。それは1980年に書かれた悩み相談の手紙だった。店内に落ちていた雑誌で、かつてのナミヤ雑貨店を紹介した記事を読んだ3人は、戸惑いながらも浪矢に代わって手紙に返事を書く……。

というわけで、この物語はいわゆるファンタジーである。現在と過去がごく普通につながって描かれる。2012年の3人の青年たちが隠れる廃屋の郵便受けに向かって、1980年の青年が手紙を投函するシーンが何度も繰り返されるのだ。最初は観ていて違和感ありありだったのだが、そういう物語だと割り切るしかない。

3人組が受け取った手紙は、松岡克郎というミュージシャン志望の魚屋の長男からの進路に関する相談だった。手紙をやり取りするうちに、3人は松岡が作った曲を自分たちの知り合いのシンガーが歌っていることに気づく。いったいそこには、どんな秘密があるのか。

それがこのドラマの柱になるエピソードかと思ったら、意外にあっさり真相が明らかになってしまう。そうなのだ。なにせ人生相談だから、相談者はまだまだいっぱいいるのだ。ほかにもいろんなエピソードがテンコ盛りなのだ。

ちなみに、門脇麦演じるシンガーが歌うのは、本作の主題歌でもある山下達郎の『REBORN』という曲。なかなか良い曲で門脇麦が頑張って熱唱しているのだが、途中で挿入される奇妙な浜辺のダンスは何なのだ? ミュージックビデオ? 

ともあれ、その後は様々な相談者が登場する。現在と過去がつながった中で、未婚の母になるべきかどうか迷う女性は、やがて事故死してしまう。それを知った浪矢は大いにショックを受ける。

一方、「愛人になれば店を持たせてやる」と言われたクラブホステスの相談に対して、3人組の一人・敦也は、未来を予言しつつ(といっても彼にとっては80年代や90年代の既知の事実)、彼女が幸せになれるようにアドバイスを送る。

そんな中、自らの死期が迫っていることを覚悟した浪矢は、自分の33回忌に一日だけナミヤ雑貨店の相談を復活するように、息子に対して遺言する。おまけに、そこにはかつて浪矢と駆け落ちしたという女性も登場する(もちろん現実の存在ではありません)。

そんなふうに現在と過去が交錯し、たくさんのエピソードとたくさんの人物が次々に登場するので、原作未読のオレは話についていくのがやっとだった。とても感情移入するどころではなかったのが正直なところ。

とはいえ、原作が面白いであろうことは容易に想像がつく。特に一見無造作にばらまかれたような様々なエピソードが、実はある養護施設につながっていく展開は、さすがに東野圭吾という感じだ。今さらだが、事前に原作を読んでから観たほうがよかったかもしれない。

この映画の監督は廣木隆一。先日公開になった「彼女の人生は間違いじゃない」のようなインディーズ作品では、作家性を前面に出したエッジの利いた映画を撮るのだが、同時に「余命1ヶ月の花嫁」のようなメジャーな映画では、きっちりと制作側の意図をくみ取ってそつのない仕事をする。

今回も基本的には、自らの作家性は前面に出していないが、それでもセリフ以外の表情の長回しなどで、人物の心理を切り取ろうとしているあたりには、廣木監督らしさを感じることができたのである。

まあ、それより何より、個人的にこの映画で最も楽しめたのはやっぱり役者たちの演技だ。山田涼介(Hey! Say! JUMP)、村上虹郎寛一郎という3人の青年もいいのだが、西田敏行萩原聖人小林薫吉行和子尾野真千子などの豪華な脇役陣が、いずれも素晴らしかった。

そんな中で、養護施設の園長という役どころで出演したPANTAだが、これだけの共演者たちの中でも十分に存在感を発揮していた。「いぬむこいり」では、冷酷な部族長を熱演していたが、今回は正反対の人情味あふれる役。そして、なんと林遣都のバックでギターを弾くシーンまで用意されている。何とも心憎い仕掛けである。

●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入済み。

◆「ナミヤ雑貨店の奇蹟
(2017年 日本)(上映時間2時間9分)
監督:廣木隆一
出演:山田涼介、村上虹郎寛一郎成海璃子門脇麦林遣都鈴木梨央山下リオ、川辺映子、手塚とおるPANTA萩原聖人小林薫吉行和子尾野真千子西田敏行
丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ http://namiya-movie.jp/