映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「殿、利息でござる!」

「殿、利息でござる!」
@ユナイテッド・シネマとしまえんにて。5月22日(日)午後12時15分より鑑賞。

昔は時代劇なんて見向きもしなかった。どうせ過去の時代の、どうでもいいような話をドラマにしているだけだろうと思っていた。それが現代に生きるオレたちに何の関係があるのか。

そんな見方が変わるきっかけは、女友達だった。歌舞伎役者の中村吉右衛門のファンだった彼女は、テレビドラマの「鬼平犯科帳」を熱心に観ていた。とても面白いという。そこで、ホントかなぁ~、と半信半疑で観たわけだが、これが実に面白かった。登場人物が魅力的だし、人間の奥底にあるものをきちんと描き出しているではないか。

その後は、黒澤明の映画の数々を観るなどして、「時代劇もバカにできないものだ」と実感するようになった。

それから時を経て、今ではテレビでは時代劇をほとんど目にすることがない。せいぜいNHKの大河ドラマぐらいである。なにせ時代劇は金がかかる。近年のテレビ局事情を考えれば、おいそれと手を出しにくい。

では、映画はどうなのか。こちらはテレビよりはまだましだ。年に数本は時代劇がつくられる。だが、金がかかるのは同じであり、よほど観客を集めなければペイできない。というわけで、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』のような良質の時代劇よりも、観客迎合で中身がスカスカで、ただ楽しいだけの超エンタメ映画が目立つようになってきた気がするのは、オレの勘繰りすぎだろうか?

え? 具体的にどんな映画か? いや、具体名は挙げませんよ。『超高速!参勤交代』とか。て、挙げとるやんけ!!!

さてさて、そんな中、またぞろ新たな時代劇が登場した。『殿、利息でござる!』。公開前のパブリシティを見たら、どう考えても爆笑オバカ時代劇。しかも主演が阿部サダヲ。頭痛ぇ~。観たくねぇ~、と思いつつ、他に観る映画もなかったので行ってしまったのである。

ところが、あなた、これ爆笑時代劇なんかじゃないですよ。コメディタッチではあるものの、様々な要素をバランスよく配して本格的なドラマを展開しているのだから。

原作は、『武士の家計簿』の原作者としても知られる歴史家の磯田道史の本。話の大筋は実際にあった歴史上の出来事らしい。時代は江戸時代中期。仙台藩の宿場町・吉岡宿では、お上から課せられた重い負担によって、人々が困窮している。そんな中、久しぶりに町に戻ってきた茶師の菅原屋篤平治(瑛太)が、「藩に金を貸して利息を取る」という前代未聞のアイデアを打ち出す。以前から町の行く末を案じていた造り酒屋を営む穀田屋十三郎(阿部サダヲ)は、この計画を聞いて、何とか実現させようと努力する。

前半はそのための資金集めの様子が描かる。十三郎の呼びかけに、町の有力者たちが資材を投げうって出資。そこには葛藤や対立などもある。十三郎の弟で、実家を継いだ浅野屋甚内(妻夫木聡)も絡んで、様々なドラマが生まれる。

後半は、集まったお金を使ってお上に働きかけを行うものの、あっさりと却下。しかし、そこで十三郎と甚内の亡父で先代の浅野屋甚内(山崎努)の秘話が描かれ、実はこの計画が今に始まったものではないことが明らかにされる。はたして人々の計画は成功するのか?

サスペンス、ホラー、感動ドラマと多彩な映画を撮ってきた中村義洋監督にとって初の時代劇。しかし、心配は無用。史実がもととはいえ話が出来すぎていたり、都合よすぎの展開があったりするが、それをあまり感じさせない演出が見事。わかりにくい歴史的な専門知識をナレーションやテロップで端的に説明するあたりの手際も鮮やかだ。

ちなみに、この映画のエピソードは「無私の日本人」という、いかにも日本万歳みたいな雰囲気ぷんぷんのタイトルの本に入っているが、この映画には偉人伝的なところや説教臭さは皆無。むしろ権力やお金に対する批判精神のようなものを感じさせる。そのへんも大いに好感が持てる。

ラスト近くでは、フィギュアスケーター羽生結弦選手が殿様役で登場。なかなかサマになっているではないか。

適度な笑い(けっして爆笑ではありません)と涙で味付けされたエンタメ時代劇。別に傑作というほどのものではないが、観て損のない出来になっている。さすが中村監督である。

今日の教訓。世の中は昔も今もやっぱり銭なのか!?

●今日の映画代0円(ユナイテッド・シネマのポイントが6ポイントたまったからタダよ~ん。ウフフフフ)