映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「無頼」

「無頼」
2020年12月19日(土)池袋シネマ・ロサにて。午後12時50分より鑑賞(シネマ・ロサ2/D-9)

~ヤクザの成り上がり物語と裏側から見た昭和史

パッチギ!」「ガキ帝国」などでおなじみの井筒和幸監督。8年ぶりの新作映画が「無頼」である(なぜに8年も映画を撮っていなかったのか?はたまた撮れなかったのか?その理由は知らない)。

あるヤクザの親分を中心とした群像劇である。ドラマのスタートは1956年。井藤正治松本利夫)は甲斐性なしの父親のもとで極貧生活を送っていた。やがて父親は死亡し、正治は誰にも頼ることなく、生きるために何でもするようになる。ヤクザの道に足を踏み入れた彼は、21歳の時に兄貴分のヤクザから「シマを持たせてやる」とそそのかされて、敵対するヤクザがいるバーに斬り込んでいき刑務所送りになる。出所した正治は、そのままヤクザの道を突き進んでいくのだったが……。

常に時代のアウトローを描いてきた井筒監督らしい作品だ。ドラマの基本は正治の成り上がり物語だ。仲間と組をつくり、対立組織と抗争を繰り返して勢力を拡大する。銀行への嫌がらせに糞尿をまいたり、対立する組幹部の家にトラックで突っ込んだりと大暴れし、武闘派として名をはせる。

その一方で正治は、ヤクザ同士で盃を交わして親子兄弟の契りを結び、配下の者たちを親身に世話する。家族を求める孤独な彼の姿が、そこからうかがえる。組には、不良や暴走族はもちろん、全共闘くずれまでが集う。そんな疑似家族とともに、裏社会を駆け上がっていく。

ヤクザの成り上がり物語とはいえ、そこには社会の在りようも投影される。ドラマの随所にはその時代の出来事が挿入される。東京五輪学生運動石油ショックロッキード事件リクルート事件バブル崩壊……。正治たちもその波にもまれていく。ある意味、本作は裏側から見た昭和史ともいえる映画である。

バブル経済が崩壊した後、正治は不動産金融や証券会社を配下にし、何とか生き延びようとする。だが、ヤクザたちの活動を規制する暴対法が1991年に施行。「ヤクザは生きるなってことだろ。生まれた時から引きずっている境遇があんのにな」。そう言って正治はある決断をする。

なにせ長い昭和時代を描くだけに、個々のエピソードが薄味で深みがないのは事実。正治のヤクザ者としての苦悩も十分に描かれているとはいえない。

最後の正治の決断も賛否両論ありそうだ。あれほど武闘派として鳴らした人物にしては、急に良い人めいてしまうのはどうなのか。

とはいえ、これだけ本格的なヤクザ映画は今どき貴重な存在。井筒監督の心意気は十二分に伝わる映画だった。

ちなみに正治たちが仕切るイベントで、虎vsライオンというとんでもない戦いがあったり、正治たちの組でクマを飼ったりと、動物が大活躍するのも本作の特徴。宗教団体の巨大なご本尊や戦後の街の様子など、映像の本気度も高めの映画である。

役者は3000人以上のオーディションを経て選ばれたとのことで、いやぁ~、見るからに悪そうなやつが揃ってますな。

それに対して中村達也ラサール石井小木茂光升毅、木下ほうか、隆大介らの有名役者はさすがの演技。チラリとしか出てこない人も多いのだが、存在感たっぷりの演技を披露。最後に付けたしみたいに出てくる三上寛、外波山文明もいい味を出している。

主演はEXILE松本利夫EXILE? どこからどう見ても本物のヤクザだろう。そのぐらいハマり役だった。彼の妻役の柳ゆり菜もまだ若いのに貫禄十分の演技。「純平、考え直せ」の時とは違う顔を見せている。

いわば井筒版「ゴッドファーザー」とでもいうべきこの作品。かつてのヤクザ映画専門館「昭和館」のあった新宿K’s Cinemaで公開されているのが興味深い。まさに井筒映画の集大成である。

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◆「無頼」
(2020年 日本)(上映時間2時間26分)
監督:井筒和幸
出演:松本利夫、柳ゆり菜、中村達也ラサール石井小木茂光升毅、木下ほうか、清水伸、松角洋平、遠藤かおる、佐藤五郎、久場雄太、阿部亮平、火野蜂三、木幡竜、隆大介、三上寛、外波山文明、森本のぶ
*新宿K’s Cinemaほかにて全国公開中
ホームページ http://www.buraimovie.jp/