映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「カラオケ行こ!」

「カラオケ行こ!」
2024年1月16日(火)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時25分より鑑賞(スクリーン7/E-8)

~ヘンなヤクザと合唱部長の中学生。爆笑のカラオケレッスン

山下敦弘監督の作品は、「バカの箱舟」「リアリズムの宿」など初期のダメ人間映画(と、私が名づけている)からずっと観ている。2005年の「リンダ リンダ リンダ」は青春映画の大傑作だと思っている。2007年の「天然コケッコー」も素晴らしい青春映画だった。今では多彩な作品を送り出している山下監督だが、どこかに初期のオフビートな笑いやダメ人間を温かく見つめる視線が残っていて、ファンにとってはうれしいところ。

「1秒先の彼」に続く今回の新作「カラオケ行こ!」は、和山やまの人気コミックが原作(ただし私は未読)。ヤクザと中学生の交流をユーモラスに描いている。脚本は「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」などのテレビドラマでおなじみの野木亜紀子

雨の中、全身ずぶ濡れの男がやってくる。シャツ越しに背中に入れ墨が入っているのがわかる。ヤクザの成田狂児(綾野剛)。彼が顔を上げると、そこは合唱コンクールの会場の前。

その頃、会場の中では、ステージでは岡聡実(齋藤潤)が部長を務める中学校の合唱部が歌っていた。コンクールの結果、聡実の学校は優勝を逃す。落胆していた聡実の前に狂児が現れて、「素晴らしい合唱だった」と褒める。そして、狂児は言うのだった。「カラオケ行こ!」。

狂児が所属する組では、組長主催のカラオケ大会があり、そこで最下位になると入れ墨初心者の組長の手で、変な入れ墨を入れられてしまう罰ゲームが待っているという。罰ゲームを逃れるために、どうしても歌が上手くなりたかった狂児は、聡実に歌のレッスンを依頼したのだ。こうして嫌々ながらも狂児のカラオケに付き合い、レッスンを行うハメになる聡実だったが……。

まあ、とにかく笑える映画だ。ヤクザの狂児は常にコワイわけではなく、普段は紳士的。だが、その端々でヤクザらしさが炸裂する。対する聡実は表面的にマジメでおとなしい優等生。しかし、実はけっこう毒舌だったりする。このキャラクターが秀逸。

映画のかなりの部分は、カラオケ店での2人のレッスン風景だ。大したことは起きない。それでも2人のキャラが化学反応を起こして、笑いの種をバラまいていく。

最初のレッスン風景からして爆笑。無理やりカラオケ店に連れて行かれて恐怖に震える聡実の前で、狂児が歌ったのはX JAPAN「紅」。裏声で大げさなジェスチャー付きで熱唱する。それを聞いた聡実は「裏声が気持ち悪い」とバッサリ。

その後、何度かレッスンを重ねた後に、今度は狂児の組のメンバーたちの前で彼らの歌を評することになった聡実。見るからに恐ろしそうな面々を相手に、辛口の評価を次々に下す。この逆転現象が何ともおかしい。

笑いの大半はベタな笑い。特に斬新なものではない。それでも山下監督の持ち味のオフビートな笑いも交えつつ、絶えず笑いを巻き起こす。

狂児の命名の由来となったエピソードや、聡実の家庭の描写(おしゃべりな母親と無言の父親の対比がいい味を出している)などは、そんなオフビートな笑いの代表格だろう。

さて、こうして笑えるのは笑えるのだが、その一方で人間ドラマは薄味。聡実は変声期でソプラノはもうそろそろ歌えなくなる。それを中心に大人への階段を駆け上る彼には、大きな葛藤があるのだが、そこは描き方が突っ込み不足に思える。

聡実が「映画を見る部」(そんな部があるなんて素晴らしい!)の幽霊部員で、放課後に数々の名画を見るという設定で、映画の内容に合わせて彼の心情を吐露するあたりは、なかなか考えられた設定ではあるのだが。

終盤はようやく大波乱が起きる。とはいえ、その行く末は予想通り。「それはないよ」と思いつつ、もともとリアリティのある話ではないからまあいいか。ここも笑えるのはかなり笑えるし。

ちなみにエンドロールの後にも、後日談的なものがあるので最後まで席を立たないように。

綾野剛は安定の演技。シリアスなヤクザとは違うユニークさをうまく出していた。ちなみに歌は「虹」以外にも何曲か披露していて、どれもなかなかにうまい。ただし、どうしても「虹」から離れられないらしく、間に「虹」のシャウトを入れるのでまた爆笑。

その綾野と対する齋藤潤は、オーディションで選ばれたらしいが、堂々たる演技。基本は等身大の演技なのだろうが、マジメさの裏に、それとはちょっと違う面を潜ませるあたり、なかなかの素質の持ち主だ。

他のキャストもハマリ役だったが、その中でもヒコロヒーが存在感を発揮していた。短時間しか登場しないのだが、ヤサグレた母親を好演。ダメ人間らしい加藤雅也の父親といいコンビだった。

人間ドラマに物足りなさは残るものの、これだけ笑わせてくれれば鑑賞料金の元は取れそう。笑いたい人にはおススメの映画。観ればカラオケに行きたくなるかも。そして行けばチャーハンを注文したくなる!?

◆「カラオケ行こ!」
(2023年 日本)(上映時間1時間47分)
監督:山下敦弘
出演:綾野剛、齋藤潤、芳根京子橋本じゅん、やべきょうすけ、吉永秀平、チャンス大城RED RICE、八木美樹、後聖人、井澤徹、岡部ひろき、米村亮太朗、坂井真紀、宮崎吐夢、ヒコロヒー、加藤雅也北村一輝
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://movies.kadokawa.co.jp/karaokeiko/

 


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