映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「星屑の町」

「星屑の町」
テアトル新宿にて。2020年3月6日(金)午後12時20分より鑑賞(A-13)。

~味わいあるオジサン役者たちと、のんによる化学反応が生み出す笑いとペーソス

実は個人的に悲しい出来事があって、ひたすら楽しい映画を観たいと思った次第。そこで「星屑の町」(2019年 日本)を公開初日に鑑賞。

内山田洋とクールファイブ黒沢明ロス・プリモス和田弘とマヒナスターズ……。昭和の時代に活躍した、いわゆるムード歌謡コーラスグループは、リードボーカルの横で数人の男たちが「ワ、ワ、ワー」などとコーラスをする演奏スタイルが一般的だ。

彼らはリードボーカルに比べて圧倒的に存在感がない。それを見て「あの人たちは不要ではないのか?」と大いなる疑問を抱いた子供は私である。しかし、そんな存在感のない男たちだって、様々な過去を背負い、様々な人生を生きているわけだ。

映画「星屑の町」(2019年 日本)は、売れないムード歌謡コーラスグループの悲哀を描いた劇作家・演出家の水谷龍二による人気の舞台「星屑の町」シリーズを映画化した作品。登場するムード歌謡コーラスグループは「山田修とハローナイツ」。もちろん架空のグループである。

「山田修とハローナイツ」は、大手レコード会社の社員だった山田修(小宮孝泰)をリーダーに、歌好きの飲み仲間たちによって結成された。山田以外のメンバーは、リードボーカルの天野真吾(大平サブロー)をはじめ、市村敏樹(ラサール石井)、込山晃(渡辺哲)、西一夫(でんでん)、青木五郎(有薗芳記)。ちなみに、このキャストは舞台版と同じだとのこと。

彼らはグタグダのオッサンたちの集まりだ。様々な過去を持ち、みんなワケありらしい。そのステージは曲と曲の間をつなぐのに、漫才をしたり、コントをしたり(停電ネタがなかなか笑える)とユーモラス。なかなか個性的なオッサンたちなのだ。

とはいえ、それだけで売れるのは難しい。彼らは結成から十数年が経つものの、これといったヒット曲もなく、ベテラン女性歌手のキティ岩城(戸田恵子)らと地方を回って細々と活動を続けていた。

そんな中、ある日、ハローナイツは修の生まれ故郷である東北の田舎町へ巡業に訪れる。その町で母が営むスナックを手伝いながら歌手を夢見ていた地元の娘・愛(のん)は、ハローナイツに入りたいと直訴するのだが……。

もはや疲れ果て輝きを失ったオッサンたちの周辺が、ちょっと変わった若い女の子の出現でにわかに騒がしくなり、それぞれが押し隠していた心理や軋轢が露わになる。そして、内紛、ついには解散騒動まで巻き起こる。そのドタバタ騒動をユーモアとペーソスあふれるタッチで描いた作品である。

本作の元ネタは、すでに述べたように舞台劇。手持ちカメラを多用するなどして、舞台劇とは違う側面も打ち出しているが、基本的な構図は変わらない。特に中盤はハローナイツの公演会場である中学校の教室に舞台が限定される。しかし、だからこそベテランの芸達者な役者たちの本領が発揮される。彼らの「ああ言えばこう言う」のやりとりが味わい深く、自然におかしみが伝わってくる。

彼らの顔が実にいい。それぞれの顔を見るだけで、何となくそれぞれの人生が垣間見えるもの。若い役者じゃこうはいかないもの。

さらに、メンバー周辺の人々も味わいがある。リーダー・山田の弟の英二(菅原大吉)が話す地元に伝わる恐怖の事件の顛末は、まるで横溝正史シリーズのようなおぞましさで、あまりの大仰さにただ笑うしかない(その事件の再現映像に登場する愛の祖父を演じるのは柄本明)。

ベテラン歌手・キティ岩城、愛の母(相築あきこ)などもいい味を出している。おしなべて中高年の役者たちがキラキラと輝く映画なのだ。

ただし、それだけでは物足りない。そこに、絶妙のブレンドを加えるのが、のんである。ハローナイツのオッサンたちとのんが化学反応を起こし、このドラマを盛り上げる。なにせテレビドラマ「あまちゃん」でコメディエンヌとしての才能を開花させたのん(当時は能年玲奈)だけに、今回のような作品はうってつけ。「あまちゃん」と同じ東北を舞台に、方言全開のドラマだというのも面白い。

そして本作の魅力の一つが歌。ハローナイツ、愛、キティ岩城が昭和歌謡の名曲の数々をタップリ披露する。特に、のんが歌う昭和歌謡が意外にハマっている。彼女がハローナイツとともに歌う「MISS YOU」というオリジナル曲は文句なしの名曲。聴いていてグッと来てしまった。「シャボン玉」という曲も良い。これ、サントラ的なものは出ないのかしらん?

終盤はちょっと駆け足の展開で、愛の悩みや決断の背景が十分に描き切れていないのが残念。死んだと教えられた父親への思いや、人生の岐路などいろいろあるのだが。そこはまあ、主役が愛ではなく、あくまでもハローナイツの面々なので、仕方ないところだろうか。

本作の杉山泰一監督は、故・森田芳光監督が1981年に手がけたデビュー作「の・ようなもの」のその後を描いたコメディー「の・ようなもの のようなもの」が印象深い。今回も舞台劇をそつなくまとめていて、誰でも楽しめそうな作品に仕上げている。

何せネタがムード歌謡コーラスグループなので、若い人にはピンと来ないかもしれないが、予備知識がなくても楽しめるはず。気楽に笑ってください。

ちなみに、のんは「海月姫」以来約6年ぶりに実写映画出演(その間にアニメ「この世界の片隅に」の声優を務めたが)。祝!銀幕復帰。

f:id:cinemaking:20200307204558j:plain

◆「星屑の町」
(2019年 日本)(上映時間1時間42分)
監督:杉山泰一
出演:大平サブローラサール石井小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記、のん、菅原大吉、戸田恵子、小日向星一相築あきこ柄本明
テアトル新宿ほかにて公開中
ホームページ https://hoshikuzu-movie.jp