「帰ってきたヒトラー」
TOHOシネマズ新宿にて。6月17日(金)午前11時40分より鑑賞。
政治の世界がメチャクチャだったりすると、「超すげぇ~指導者でも出てきてくれんかなぁ~」などと思ってしまうのは人の常だろう。だが、はたしてそれでいいのか? むしろ危険なことなんじゃないのか? 「超すげぇ~指導者」に全権委任的なことをしてしまうのは、非常に危険なことだと思う。
そもそも今のアベなんとかいう総理大臣だって、「超すげぇ~指導者」的な待望論の中で登場して、その波に乗って高支持率を維持しているわけで。実際のところマトモなことなんて、ほとんどしていないにもかかわらずだ。アベちゃん程度でこうなんだから、もっとカリスマな指導者とか出てきたら、超ヤバイんじゃないのかな。今の世の中。
てなことを考えつつ、ドイツ映画『帰ってきたヒトラー』を観たら、ますます今の世の中が危うく見えてきた次第である。
1945年に自殺したアドルフ・ヒトラー(オリヴァー・マスッチ)。だが、なぜか2014年のベルリンにタイムスリップしてよみがえるというお話。やがて彼をモノマネ芸人と勘違いしたリストラされたテレビマンにスカウトされ、テレビのバラエティー番組に出演。カメラの前で堂々と過激な演説をする彼に視聴者は度肝を抜かれ、モノマネ芸人として大ブレイクするのだが……。
けっして小難しい映画ではない。全編がブラックな笑いに満ちたコメディーだ。現代のヒトラーは、テレビとネットで人気を獲得していく。テレビ局をリストラされた男にスカウトされ、視聴率至上主義の女性局長のプッシュでテレビ出演。さらにネットでも話題になる。周囲の人々は、みんな彼をモノマネ芸人だと思っているわけだが、実際はホンモノ。そのギャップがたくさんの笑いを生み出す。
それにしてもヒトラー役のオリヴァー・マスッチのなりきりぶりがすごい。舞台を中心に活躍していて、ドイツでもそんなに有名ではないらしいが、人をたらしこむ話術や行動が見事すぎる。変な言い方だが、ヒトラー本人よりもヒトラーらしく感じてしまう。ぶっ飛んだ演出もあって、無条件にゲラゲラ笑ってしまう映画だ。
いったん表舞台から姿を消したヒトラーが、本を書いてベストセラーになり、映画化されるという構成も面白いところ。さらにクライマックスでは、ヒトラーの運命をめぐってハラハラの展開を用意し、いったん終わったかと思わせて、最後にどんでん返しを用意して楽しませてくれる。
ただし、この映画、だんだん笑ってばかりはいられなくなる。それというのもこの映画の大きな特徴は、基本はドラマでありながら、ところどころにドキュメンタリーを挟み込んでいるところ。マスッチ扮するヒトラーが、実際に街に出て何も知らない人たちと触れ合う。
それを観ていてオレの背筋はゾクゾクしてきた。人々はヒトラーに対して意外なほど好意的で、自撮りやツイートをして騒ぐ。もちろん、ニセモノだと思っているから、そういう行動ができるのだろうが、それにしてもだ。ヒトラーに乗せられたのか、政府の悪口や移民に対する非難を口にする人も多い。
ヒトラーは極右団体にまで乗り込む。いつもの話術で彼らを激怒させたりする。ヤツらとてヒトラーにはかなわない(ニセモノだけど)。
この映画がただのコメディー映画ではないことが決定的になるのが終盤だ。ヒトラーの「私は怪物ではなく、みんなの一部分だ」「国民が私を選んだのだ」というセリフ。さらにエンドロールの途中で挟まれる現実の移民排斥運動の映像。これらを観ているうちに、オレはますますコワくなってきた。
この映画のつくり手たちの主張は明確だ。「あれ? 今のドイツってヒトラーのころとなんか似てない? これってヤバくない?」。そして、それはドイツだけでなく今の日本にも共通するものではないのだろうか。
ゲラゲラ笑いながらも、最後には色々なことを考えさせられる。面白くて、やがてコワ~イ映画なのだった。
本日の教訓 独裁者はもっともなことを言って近づいてくる。気をつけましょうね。
●今日の映画代1500円(ムビチケを購入しておいたのだが、明日からはTOHOシネマズのマイレージ会員キャンペーンとやらで、もっと安く観られたのだ・・・。)