「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」
ヒューマントラストシネマ渋谷にて。2017年11月24日(金)午後1時20分より鑑賞(スクリーン2/H-9)。
スティーヴン・キングの小説はたくさん映画化されている。しかし、ホラー映画に関しては、それほど成功したと思える映画はない(興行的に、ではなく映画の質として)。わずかに、ブライアン・デ・パルマ監督の「キャリー」や、スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」あたりが成功例だろうか。「スタンド・バイ・ミー」や「ショーシャンクの空に」は素晴らしい映画だったが、あれはホラーではなかったし。
そんな中、新たに登場したのが「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」(IT)(2017年 アメリカ)である。スティーヴン・キングのベストセラー小説を、ギレルモ・デル・トロ製作総指揮の「MAMA」で評判になったアンディ・ムスキエティ監督が映画化した。
タイトルにある「IT」=「それ」とは何だろう? 実は、すぐにその答えがわかってしまう。
冒頭に描かれるのは、内気で病弱な少年ビルと弟ジョージーのエピソードだ。ビルはジョージーのために紙で船を作ってあげる。ジョージーは雨の中、それを持って外で遊ぶ。しかし、激しい雨に流されて船は道端の排水溝に消える。ジョージーがのぞくと、そこにいたのは不気味なピエロ。言葉巧みにジョージーの心をつかみ、その後彼に襲いかかる。そうである。こいつこそが「それ」なのだ。
「こんなに早く正体をばらしていいのか?」と思ったのだが、心配は無用だった。その後も様々な仕掛けで観客を怖がらせてくれる。わかっていても、怖くなってしまうのだから大したものである。冒頭のジョージーの失踪に関しても、一度地下室に彼を行かせて恐怖体験をさせながら、そこでは何事も起こさずに、タメをつくる心憎さだ。
さて、ジョージーはおびただしい血痕を残して姿を消す。ビルは彼の失踪に責任を感じる。そんな彼と仲良しなのは、不良少年たちにいじめられている子供たち。彼らは病気や親との関係などそれ以外の問題も抱えている。
というわけで、ビルは仲間とともにジョージーや行方不明になったその他の子供たちを見つけ出し、事件の真相を探ろうと動き始める。それを通して、少年少女の冒険&友情&成長物語を描いていくのが、この映画のドラマ的な見どころだ。それは、あたかも「スタンド・バイ・ミー」とも共通する世界である。
そして、ビリーたちには、新たな仲間が加わる。父親から虐待を受ける少女、両親が焼死した黒人少年、いじめられている転校生の少年。
これだけたくさんの少年少女が登場するにもかかわらず、それぞれのキャラをきちんと描いているのもこの映画の特徴だろう。ベバリーという大人びた少女とビルとの初々しいロマンスも、さりげなく盛り込まれている。また、転校生の少年は図書館でこの町の歴史を調べるうちに、27年に一度奇怪な事件が起きている歴史を知ってしまう。そうしたエピソードが、ドラマに厚みを加えている。
ただし、この映画最大のセールスポイントは、やっぱりホラーの要素だろう。ビルは目の前に現れた「それ」を見てしまい恐怖にとりつかれる。いやいや、ビルだけではない。仲間たちも、自分の部屋、学校、町の中など何かに恐怖を感じるたびに、現実なのか、はたまた幻覚なのかわからない恐怖体験をする。
それは、ベバリーが体験する血だらけのバスルームをはじめ、強烈なインパクトの体験ばかりだ。怪奇現象のバリエーションといい、飛び出す絶妙のタイミングといい、本当に巧みに構築されている。そして、その背後には必ず「それ」がいるのだ。
そんな恐怖のヤマ場は、井戸のある廃屋敷での場面だ。ビリーたちはそこに入り込み、家の中を探る。はたして、そこに行方不明の子供たちはいるのか。「それ」が隠れているのか。
そこでの恐怖は完全にお化け屋敷の世界だ。次々に恐ろしい現象が子供たちを襲い、あわやの場面が連続する。ここで観客の恐怖感は最高潮に達することだろう。
しかし、ヤマ場はもう一つある。一度は喧嘩別れしながらも、再び結集した子供たちは、勇気を出してもう一度問題の屋敷に乗り込む。
つまり、後半は廃屋敷での恐ろしいヤマ場が二度も用意されているのである。しかも、二度目のヤマ場は、一度目を上回る壮絶さだ。
それにしても、例の「ペニーワイズ」という不気味なピエロの怖いこと。「アトミック・ブロンド」にも出演していたビル・スカルスガルドが演じているのだが、その動きからしておぞましく、憎らしい。ホラー映画にはピエロがたびたび登場するが、その中でも群を抜いた怖さだろう。
とはいえ、ただ怖いだけの映画なら吐いて捨てるほどある。この映画はそうではない。登場する少年少女は、いじめや家庭の問題などで恐怖を抱えたまま身動きがとれないでいる。そんな中で、それとは別の究極の恐怖を体験することによって成長を果たすという構図が、実に効果的な映画である。スティーヴン・キング原作のホラーものの映画化の中では、成功の部類といってもいいのではないか。全米で大ヒットしたのも納得の作品だと思う。
ただし、「それ」の素顔は不明。本当に現実なのかさえわからないままだ。そんな中途半端な終わり方でいいのか?
と思ったら、この映画の最後には「第1章」というテロップが……。どうやら登場人物の大人時代を描いた続編が用意されている模様である。だが、「少年少女の冒険&友情&成長」という魅力的な要素がなくなったなら、ただ怖いだけのホラーになるのではないだろうか。うーむ、何だか嫌な予感がするなぁ。
●今日の映画代、1000円。TCGメンバーズカードの金曜サービス料金。
◆「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」(IT)
(2017年 アメリカ)(上映時間2時間15分)
監督:アンディ・ムスキエティ
出演:ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド、ジェレミー・レイ・テイラー、ソフィア・リリス、フィン・ウォルフハード、ワイアット・オレフ、チョーズン・ジェイコブズ、ジャック・ディラン・グレイザー、ニコラス・ハミルトン、ジャクソン・ロバート・スコット
*丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにて全国公開中
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