「パンク侍、斬られて候」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年7月1日(日)午前10時45分より鑑賞(スクリーン9/F-13)。
~パンク魂にあふれた何でもありの暴走時代劇
芥川賞作家の町田康がパンク歌手だったのをご存知だろうか。「INU」というバンドで1981年にアルバム『メシ喰うな!』でデビューしている。その独特な歌詞がけっこう話題になったものである。当時は町田町蔵と名乗っていた町田は、現在もバンドをやっていて、そのバンド名は「汝、我が民に非ズ」という。
そして、石井岳龍という映画監督がいる。日本映画のファンの間でカルト的な人気を持つ監督で、石井聰亙と名乗っていた1980年代に「狂い咲きサンダーロード」「爆裂都市 Burst City」「逆噴射家族」など、ぶっ飛んだ映画を次々に送り出して話題を集めた。
その石井岳龍が、町田康が2004年に発表した小説を映画化した。しかも、それを脚色したのはあの宮藤官九郎だ。とくれば、これはもうぶっ飛んだ映画になるのは間違いのないところ。「パンク侍、斬られて候」(2018年 日本)である。
「超人的剣客」を自称する浪人・掛十之進(綾野剛)が街道に現れて、物乞いの老人をいきなり斬り捨てる。居合わせた地元の黒和(くろあえ)藩の藩士に十之進が語ったところでは、その老人は“腹ふり党”なる新興宗教団体のメンバーだという。十之進は腹ふり党から藩を救うために、自分を仕官させろと説く。(ちなみに、この刃傷沙汰はラストの伏線になっているので、よ~く覚えておきましょう)。
おりしも黒和藩では、内藤帯刀(豊川悦司)と大浦主膳(國村隼)の両家老が権力闘争を繰り広げていた。内藤は十之進がハッタリをかましていると見抜きながら、大浦を追い落とすために彼を抱き込む。
冒頭こそオーソドックスな時代劇風。だが、すぐにあらぬ方向へ暴走し始める。登場人物が話すのは、言い回しこそ時代劇風ではあるものの、基本的には現代の言葉。「ウィンウィン」や「プロジェクト」といった横文字が普通に語られたりするのだ。全編に挟まれるナレーションも、いかにも大仰で冗舌すぎる。
しかも登場するのは、お調子者のフリーターの十之進をはじめ、いずれも強烈かつ奇妙奇天烈な人物ばかり。ドラマの鍵を握る腹ふり党の教義が「世界は巨大なサナダムシの腹の中だ!」だったりして、悪ふざけとしか言いようのない設定が次々に飛び出す。それを照れることもなく徹底的にやっているから、もはや笑うしかないのである。
社会風刺的な要素もある。今の権力者たちや世間のありようをチクリと皮肉る。特に終盤、腹ふり党の伸長に重ねて、自分でものを考えずにひたすら流行に付き従う庶民を揶揄するあたり、なかなかの反骨心である。
主人公の苗字が「掛=カケ」というのも、何だか意味深。「お前なんかインチキだ」「この詐欺師が」などと罵られるのだが、もしかして、カケってあのカケのことなのか?
とはいえ、もちろん基本は破天荒な暴走エンターティメントだ。内藤によって左遷させられた大浦は、なぜか藩のはずれの村で猿回しを手がけることになる。家老が猿回しだと?(ちなみに、これまた終盤の伏線になっている)。
一方、すでに腹ふり党は解散していることが判明すると、内藤は自らの立場を守るべく腹ふり党の元幹部・茶山半郎(浅野忠信)をたきつけて「ネオ腹ふり党」を組織し、藩内で騒動を起こさせようと画策する。
そこで登場する茶山半郎の顔を見て、笑わない人はいないだろう。まるで天才バカボンのようなメイクで浅野忠信が怪演を見せる。これも、どこからどう見ても悪ふざけなのだが、ここまで堂々とやられたらアッパレとしか言いようがない。
そんな中、茶山半郎の身の回りの世話をする、ろん(北川景子)という女が、終盤のドラマの大きなカギを握る。
その北川景子の珍妙なダンスをはじめミュージカル的なところもあるし、人形劇も飛び出すし、ド派手なCGも飛び出すしで、まさに何でもあり状態。もちろんチャンバラもある。そして終盤はド迫力の合戦絵巻が繰り広げられる。
ただし、それはただの合戦ではない。ヤラセのはずだったネオ腹ふり党は、とんでもない暴徒の集団と化し、大混乱に突入する。それに対するのは黒和藩の武士たち……だけでは心もとないと助っ人が現れる。猿将軍・大臼延珍(永瀬正敏)である。おいおい、サルだよ、サル!! なんじゃ、こりゃ? 猿の惑星か?
終盤は世紀末的なカオスの世界だ。壮絶な合戦では超能力も飛び出し、花火まで上がる(何の花火かは、自分の目で確かめてください)。腹ふり党の人々も天に昇っていく。CG全開で描かれる黙示録的でSFチックな世界である。そして最後に訪れる復讐劇。なーるほど。やっぱりね。
しかし、まあスゴイ映画である。ジャンルレス、やりたい放題、暴走しまくり、破天荒、悪ふざけ。いろんな形容詞がありそうだが、やっぱり「パンク」という言葉が一番ピッタリかも。何しろエンドロールで流れるのはセックス・ピストルズの『アナーキー・イン・ザ・U.K.』なのだから。
過去の石井作品を多少なりとも知っている者としては、けっして違和感は持たなかったが、人によってはあきれて仰天するかもしれない。それでも尋常でないエネルギーに直撃されることは請け合いだ。この過激すぎる世界を一度お試しあれ。
◆「パンク侍、斬られて候」
(2018年 日本)(上映時間2時間11分)
監督:石井岳龍
出演:綾野剛、北川景子、東出昌大、染谷将太、浅野忠信、永瀬正敏、村上淳、若葉竜也、近藤公園、渋川清彦、國村隼、豊川悦司
*新宿バルト9ほかにて全国公開中
ホームページ http://www.punksamurai.jp/