「ウィーアーリトルゾンビーズ」
池袋シネマ・ロサにて。2019年6月16日(日)午後1時25分より鑑賞(シネマロサ2/D-7)。
~ぶっ飛んだ映像で描く“感情を失くした”子供たちのバンド冒険譚
タイトルだけで、ほぼ一発で映画の内容がわかってしまう作品もあれば、そうでない作品もある。「ウィーアーリトルゾンビーズ」(2019年 日本)(上映時間2時間)は、間違いなく後者だろう。どう考えてもタイトルを見ればゾンビ映画だ。だが、実際はそうではない。自分たちをゾンビみたいだと思っている子供たちの冒険譚なのである。
その子供たちとはヒカリ(二宮慶多)、イシ(水野哲志)、タケムラ(奥村門土)、イクコ(中島セナ)の4人。いずれも13歳だ。映画は火葬場から幕を開ける。ヒカリは両親を亡くす。そんな中、ヒカリは、火葬場で同じ境遇のイシ、タケムラ、イクコと出会う。
この映画は実にユニークな作風の作品だ。全体の構成はRPGゲームのスタイルを取っている。いくつものSTAGEがあったり、アイテムをゲットしたりする。ただし、最新のゲームというよりは少し前のゲームの感じだ。
そして、それ以上に驚くのが映像である。全ての映像がポップでぶっ飛びまくっている。例えば、人物が冷蔵庫を覗くシーンでは冷蔵庫の中から人物の顔を映す。あるいはヒカリが飼う観賞魚を巨大にして画面に登場させたりする。そんなふうに現実をデフォルメしたり、非現実の世界を現出させたり、登場人物の空想や妄想を映像化したりとアートのような映像が飛び出すのだ。色彩も鮮やかなのを通り越して凄まじいほどだ。まるで全編がトンガッたCMかMVのようである。
この映画の長久允監督はもともとCMを手がけていたという。その後、「そうして私たちはプールに金魚を、」で第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門グランプリを受賞し、本作が長編デビュー作となる。
そんな経歴から連想したのは「下妻物語」「嫌われ松子の一生」「来る」などの中島哲也監督だ。中島監督もCM出身で、ぶっ飛びまくった映像で衝撃を与えた。とはいえ、長久監督の映像はそれを上回る鮮烈さかもしれない。
さらに、今どきの子供らしさはあるもののなぜか棒読み調のセリフや、無表情の役者の演技なども、他にはあまり見られない本作のユニークな特徴である。
さて、4人の子供たちが知り合ったのち、今度はそれぞれの家を巡りつつ彼らの事情が明かされる。ヒカリの両親はバス事故で亡くなっていた。イシの親はガス爆発で焼死。タケムラの親は借金苦で自殺。イクコの親は他殺だった。それにもかかわらず、彼らは悲しいはずなのに全く泣けない。そして、自分たちを感情を失ったゾンビのようだと思うのである。
まもなく彼らは、ゴミ捨て場で「LITTLE ZOMBIES」というバンドを結成する。そこで撮影した映像は社会的に大きな話題を呼ぶ。ゴミ捨て場で知り合った望月(池松壮亮)という男がマネージャーになり、彼らはライブ、テレビ出演、アルバム発売と活躍を続けていく。
4人が集いバンドを始めた原点には、大人社会への違和感や反抗心があるように思われる。突然両親を亡くし、自分の思惑とは裏腹に進むべき道を強制されたことから、それを嫌って自分たちだけで冒険に出たわけだ。
同時にその冒険は、自分たちの心を取り戻すための冒険でもある。彼らの感情を失わせたものも、家族をはじめとする大人社会に違いない。ならば、その手から離れて自由になれば、心も取り戻せるのではないか。そう考えたのかもしれない。
そして、この点に関して面白いことがある。無表情で棒読みのセリフを話す4人の子供たちは一見、本当に感情を失くしているようだ。だが、よくよく見ているとその表情や言動の端々からは、確かな感情の存在が感じられる。つまり、彼らは感情を失くしているのではなく、その表現の仕方がわからないだけではないのか。観ていて、そんなふうに感じられた。
それに対して、周囲の大人たちは見事に自分の役割を演じている。葬式の場面では、当然ながら悲しみに暮れた態度を示す。ヒカリたちとは正反対だ。だが、彼らはどこまで本当に悲しんでいるのか。そうした様々な大人たちの言動に対して、ヒカリたちが違和感を抱くのは当然かもしれない。
大ブレイクした「LITTLE ZOMBIES」だが、やがてその活動は突然終焉を迎える。それもまた大人社会の事情によるものだ。しかも、そこには現代社会を象徴するように、ヒカリの両親の事故をめぐるSNSでの騒動が絡んでくる。
やたらに映像が目につく映画ではあるが、そうした子供たちの反抗と挫折、成長の軌跡が、社会の現状も織り込みつつ描かれているのである。
とはいえ、さすがに終盤はやや疲れてしまった。全編ああいう映像が続くと厳しいものがある。個人的には、もう少しメリハリをつけた方がよかったと思う。そのほうが、子供たちの心理ももっと深く掘り下げられたのではないか。
それでもラストはなかなか印象深い。社会との距離を少しだけ縮め、生まれてきたことの喜びや日常の大切さを見つめ直す4人。そう。4人はわずかながら確実に成長したのだ。それを美しい緑の風景を使ってキッチリと見せる後味の良い結末だった。長久監督は間違いなく、彼らに対して温かな視線を送っている。
4人の子供たちの演技に加え、超豪華脇役陣の顔ぶれもこの映画の魅力。下記にあるように、大量にクレジットされたバラエティーに富んだ出演者の中には、チラリとしか登場しない人も多い。誰がどこに出ているのか探すのも一興だろう。
この映画は、第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーション(14plus)部門でスペシャル・メンション賞(準グランプリ)、第35回サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック・コンペティション部門で審査員特別賞オリジナリティ賞を受賞したとのこと。確かに才能のある監督だと思う。今後さらに素晴らしい作品が生まれることを期待したい。
◆「ウィーアーリトルゾンビーズ」
(2019年 日本)(上映時間2時間)
監督・脚本:長久允
出演:二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中島セナ、佐々木蔵之介、工藤夕貴、池松壮亮、初音映莉子、村上淳、西田尚美、佐野史郎、菊地凛子、永瀬正敏、康本雅子、夏木ゆたか、澤本嘉光、利重剛、シシヤマザキ、五月女ケイ子、山中崇、並木愛枝、佐藤緋美、水澤紳吾、黒田大輔、忍成修吾、るうこ、長塚圭史、池谷のぶえ、戌井昭人、虹の黄昏、赤堀雅秋、清塚信也、山田真歩、湯川ひな、松浦祐也、渋川清彦、かっぴー、いとうせいこう、CHAI、菊地成孔、今田哲史、森田哲矢、柳憂怜、ぼく脳、三浦誠己、前原瑞樹、吉木りさ(声の出演)
*TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
ホームページ https://littlezombies.jp/