映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」

「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
2024年6月25日(火)イオンシネマ板橋にて。午後3時10分より鑑賞(スクリーン4/D-7)

~居残り3人組の変化と成長。アレクサンダー・ペイン監督の熟練の語り口が光る

 

東京都知事選挙は、結局、蓮舫に投票することに決定。最初にゼロベースで考えて、小池と田母神はあり得なかったし、やや新鮮に映った石丸にはあの維新と(極右で知られる)アパホテル会長がついているうえ、なんと統一教会とも深い関係にあることが判明。なんだ、ちっとも新らしくないじゃん。 

というわけで勇んで期日前投票に行ったら、うちの区の近くの投票所ははまだやってなかった。やれやれ(笑)。

政治ネタはこのへんにして(映画や音楽のブログに政治の記事を載せると読者が引くらしい。ホンマか?)、体調が少し回復したので約2週間ぶりに映画館に行ったのでその報告を。

観た映画は「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」。「ファミリー・ツリー」「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」「サイドウェイ」のアレクサンダー・ペイン監督の6年ぶりの新作映画だ。第96回アカデミー賞では作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞編集賞の5部門にノミネートされ、ダバイン・ジョイ・ランドルフ助演女優賞を受賞した。

1970年12月、ボストン近郊の全寮制のバートン校では、クリスマス休暇を迎えて生徒と教師の大半が学校を後にした。そんな中、古代史の教師ポール(ポール・ジアマッティ)は寮の留守番を押しつけられて、帰省できない生徒を監督するハメになる。当初は5人のはずだった生徒だが、途中で1人の生徒の父兄に連れられて4人が学校を出て、アンガス(ドミニク・セッサ)のみが取り残される。彼と寮の料理長メアリー(ダバイン・ジョイ・ランドルフ)とともにクリスマスと新年を学校で過ごすことになるポールだったが……。

アレクサンダー・ペイン監督の作品と聞いて、それなりに期待していたのだが、その期待を上回る映画だった。

まず良いのが3人のキャラクター。ポールは偏屈で融通が利かず、生徒に対しても容赦なく落第を宣告する教師。おまけに斜視で体臭が強く、生徒からも同僚からも煙たがられている。

一方、生徒のアンガスはクラスの問題児。スキー旅行を楽しみにしていたのに再婚したばかりの母親に「帰ってくるな」と言い渡されて、ふて腐れている。

この2人が一緒に過ごすのだから大変だ。頭ごなしに押さえつけるボールと反発するアンガス。当然のようにその関係はぎくしゃくして、摩擦が絶えない。

そんな2人の緩衝材になるのが料理長のメアリー。だが、こちらもいつも不機嫌そうだ。

3人はいやいや顔を突き合わせていく。そして少しずつ打ち解けていく。その描写が絶品なのだ。様々なエピソードを通して彼らは変わっていく。それはけっして大きな変化ではない。ほんの少しずつ、しかし着実に変わっていくのだ。だから、観客が不自然に感じることもない。魔法にかかったように、いつの間にか彼らの変化を受け入れている。その加減が素晴らしい。ペイン監督の演出に加え、デビッド・ヘミングソンの脚本も巧みだ。

ペイン監督の過去作と同様に、ユーモアが全編に満ちあふれているのも本作の特徴。特に3人の毒舌合戦にはクスクスと笑ってしまった。

しかし、それでは終わらない。その合間合間に彼らの心の傷も忍ばせていく。ポールは大学時代のある出来事が今も大きな心の傷になっている。アンガスには実父に関するある秘密がある。そして、メアリーは息子をベトナム戦争で亡くし、今もその傷に苦しんでいる。単なる良い話ではなく、そうやって苦みも利かせた映画なのだ。それもまた本作の大きな特徴だ。

ちなみにベトナム戦争の影はかなり色濃く、ポールが金持ちが生き残って貧乏人が死んでいく当時の社会を批判する場面もある。ただし、それを前面に押し出さず、あくまでもドラマの背景にとどめているのも心憎いワザだ。

キャット・スティーブンス、ザ・オールマン・ブラザーズ・バンド、バッドフィンガーなどの当時の音楽をふんだんに使うなど、時代の雰囲気もうまく再現している。

終盤は「社会見学」として学校を飛び出した3人が繰り広げるドラマ。そこでの出来事がポールとアンガスのその後に大きくかかわってくる。

最後まで観ると、最初は嫌なヤツだった3人が、とびっきり素敵に思えてくるからあら不思議。3人とも人間としてちゃんと成長しているのだ。だから、後味はとても心地よく深い余韻が残った。

ポール・ジアマッティは、「サイドウェイ」(2004)以来のペイン監督とのタッグだが、こういう役が本当に似合う。「オッペンハイマー」のキリアン・マーフィーとタイプは違うが、こちらも主演男優賞ものの演技だった。

一方、アンガスを演じた新人のドミニク・セッサも、若々しさの裏に潜んだ憂鬱さを見事に表現した素晴らしい演技だった。

アカデミー賞助演女優賞を受賞したダバイン・ジョイ・ランドルフの奥行きのある演技も印象深い。セリフは少ないものの感情豊かな演技だった。

地味だけれど、味わい深い映画だ。ペイン監督の熟練の語り口が心に染みた。

◆「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」(THE HOLDOVERS)
(2023年 アメリカ)(上映時間2時間13分)
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ポール・ジアマッティ、ダバイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ、キャリー・プレストン、ブレイディ・ヘプナー、イアン・ドリー、ジム・カプラン、ジリアン・ヴィグマン、テイト・ドノヴァン
*TOHOシネマズシャンテほか公開中
ホームページ https://www.holdovers.jp/

 


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