「あの人が消えた」
2024年9月24日(火)イオンシネマ板橋にて。午後1時30分より鑑賞(スクリーン1/F-9)
~あなたも絶対騙される!? 不可思議なミステリーが爆笑のコメディーに転化。そしてさらに……
前回取り上げた「ぼくが生きてる、ふたつの世界」を9月25日(水)に新宿ピカデリーで、もう一度鑑賞した。前回はちょっと手話の字幕が見にくかったのだが、今回はそれもすべてクリアになり、より親子の情愛がくっきりと浮かび上がってきた。そして出演している聾者の演技の達者なこと。大がパチンコ店で知り合った女性など、存在感十分の演技だった。本当に良い映画だと思う。
閑話休題。9月24日、皮膚科のクリニックに出かけて診察が終わったのが午後12時ちょうど。薬局に寄って12時20分。さて、このまま帰るのはもったいない。かといって観たい映画は時間が合わない。うーむ。時間的に都合がいいのは「あの人が消えた」か。まあ、これでいいか。
というのでイオンシネマ板橋に出かけ、サブウェイのサンドイッチで急いで昼食を済ませて、「あの人が消えた」を鑑賞。食後の腹ごなし程度の期待しかなかった。
謎のマンションを舞台にしたミステリーだ。主人公は配達員の丸子(高橋文哉)。コロナ禍で職を失い配達員になったものの、思うようにいかない。彼の担当地域には「次々と人が消える」という噂のマンションがあった。ある日、そのマンションのある部屋に荷物を届けると、住人は丸子が愛読するウェブ小説の作者・小宮(北香那)だった。彼女のことが気になる丸子。そんな中、挙動不審な住人・島崎(染谷将太)に、小宮のストーカー疑惑が持ち上がる。丸子は先輩配達員の沼田(田中圭)に相談しながら、疑惑の真相を確かめようとするのだが……。
前半は不気味で不可解なミステリー。コロナ禍での物流業界の事情などを導入部に織り込みつつ、主人公の配達員・丸子がウェブ小説の作者・小宮の身の上を気遣い、マンションの住人の正体を探ろうとする。
これがまあ、みんな怪しいのだ。猫を抱いた長谷部(坂井真紀)、几帳面そうな巻坂(中村倫也)、ちょっとヤバそうな沼田(袴田吉彦)、常に不在の男までいる。極めつけは島崎。芸人でテレビの企画で事故物件の部屋に住んでいるなどと言うが、どうも怪しい。盗聴器を備え、小宮にストーカーしている形跡がある。
いったい何がどうなっているのか。丸子は疑惑が膨らみ交番の警官に通報するものの、全く相手にされない。ただし、「あのマンションは次々と住人が消える噂がある」と告げられる。
そんな謎めいたドラマの一方で、丸子と先輩の沼田とのやりとりが笑いを誘う。沼田はウェブ小説を投稿しているが、丸子はちっとも面白くない。その代わりに小宮の小説に夢中になったわけだ。2人のやりとりはまるで漫才。沼田がボケまくる。小宮が消えたのは「神隠しじゃないか?」と言う。実は小宮は「千尋」という名前なのだ。だから「千と千尋の神隠し」。くだらなすぎて笑うしかない。
ところが、この「笑い」こそが後半の大きなポイントになる。後半は、前半で起きたことの真相が明らかになり、次々と伏線が回収される。そこでは小宮と島崎の驚くべき正体が明らかにされ、事件は政治テロへと発展する(詳細は伏せるが)。そして、なんとそこには笑いが満載のコメディー的展開が待ち受けているのだ。
特に笑えるのが島崎の大袈裟な演技。「パーソナルトレーナー」の発音を聞いただけで笑ってしまう。小宮もなかなかのコメディエンヌぶりを発揮する。こちらも漫才のようなやりとり。ついでに彼らの上司の寺田(菊地凛子)も登場する。あれ? これってもしかして夫婦共演か? 染谷と菊地は。
さらに、ある電話番号に電話するとあの大物俳優につながるという奇想天外な展開。これ、言っちゃダメなのか? キャストにも書かれていないし。まあ、いいや。「夢芝居」を歌う人です。彼が登場するに至ってはもはや大爆笑。ついでに猫ちゃんの名演技にも大爆笑。
いろいろと不自然に感じられるところもあるが、それなりによくできたミステリーじゃないの。腹ごなしにはちょうどいいし。などと思っていた前半。ところが、この予想もつかない後半の展開で、一挙に得した気分になれたのだった。
ところが、ところが、なんとまあその先にはさらに驚きがあった。え? まさかそんな。なんだこのシリアスで苦い展開は。とにもかくにも、地縛霊で観客を感動に引き込んでジ・エンド。
ではなかった。最後の最後に今度は小宮のウェブ小説を生かして、転生物の話で締めくくるのだから参ったもの。これって、絶対に原作があるよな。原作は誰が書いたんだ?
えええ! これ、水野格監督のオリジナルなの? 大ヒットドラマ「ブラッシュアップライフ」の演出を手掛け、「劇場版 お前はまだグンマを知らない」で長編デビューしたらしいが、どっちもよく知らないゾ。しかし、こんな奇想天外で、予想もつかない話を思いつくとはスゴイ……。
役者たちもノリノリの演技を披露している。みんな楽しそうだものなぁ。それも、この映画を面白くしている要因。
エンタメ映画として実によくできている。すっかり騙されてしまいました。ここまでやってくれたら文句はない。降参です。
◆「あの人が消えた」
(2024年 日本)(上映時間1時間44分)
企画・監督・脚本:水野格
出演:高橋文哉、北香那、坂井真紀、袴田吉彦、菊地凛子、中村倫也、染谷将太、田中圭
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
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