映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生」

「5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生」
角川シネマ有楽町にて。2018年1月14日(日)午後1時35分より鑑賞(G-8)。

子供の頃から視力が弱かったのだが、最近はますますひどくなった。両目とも眼底出血を起こして、左目は注射(1本4万6000円だっ!)でどうにか回復したものの、右目は注射が効かなかったため視野の中央がゆがんでよく見えないのだ。とはいえ、日常生活に大きな支障はないし、眼鏡をかければ映画の字幕も読めるので贅沢は言えない。

それに比べたら、「5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生」(MEIN BLIND DATE MIT DEM LEBEN)(2017年 ドイツ)の主人公は、すべてがぼんやりとしか見えないのだから大変だ。何しろ邦題通りに、普通の人の5%しか視力が残っていないのだ。

白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」のマルク・ローテムント監督による本作は、ドイツの一流ホテルで実際にあった感動の実話を映画化した伝記ドラマである。

主人公はスリランカ人の父とドイツ人の母を持つ青年サリヤ(コスティア・ウルマン)。彼はとても頭が良く明るい性格の青年だ。そして、かつて父の母国のスリランカのホテルに滞在した経験から、将来は一流ホテルで働きたいという希望を持っている。

ところが、ある日突然、目がよく見えなくなる。病院で診てもらった結果、先天性の病気であることがわかる。手術をして、何とか普通の人の5パーセントの視力は残ったものの、95%の視力を失って弱視になってしまう。

父親は盲学校への転校を進めるが、サリヤは断固として拒否する。そして、抜群の記憶力と努力によって卒業を果たす。

となれば、次はいよいよ憧れのホテルへの就職だ。だが、目の障害を素直に告げて願書を出すもののすべて不採用になってしまう。そこで、サリヤは弱視であることを隠してミュンヘンにある最高級5つ星ホテルを志望。母と姉の献身的な協力もあって見事に研修生に採用される。

そんなサリヤに襲いかかる数々の困難と、それを乗り越えようとする奮闘ぶりをウェットに、あるいはシリアスに描くかと思いきや、そうではなかった。ユーモアにあふれた会話や個性的なキャラの活躍で、笑いどころが満載の映画なのだ。全体のテンポも抜群に良い。

前半に描かれるのは、弱視を隠して研修課題をこなしていくサリヤの姿である。客室の掃除、フロント業務、レストランやバーのスタッフなど、ホテルの業務をいろいろと経験していく。ただし、さすがに一人では課題をクリアできない。そこで彼をサポートするのが、同じ研修生のマックス(ヤコブ・マッチェンツ)だ。

彼はお調子者でいい加減な男。サリヤとは正反対のキャラだ。ただし、本質的にはとってもいいヤツ。だから、サリヤの目のことを知ったマックスは、何かと彼をサポートする。この2人の凸凹コンビぶりも、笑いを生み出す大きな要因である。

しかも、サリヤはただサポートされるだけではなく、逆にマックスをサポートすることもある。研修生としてけっして優秀でないマックスは、何度もサリヤの頭の良さに救われるのである。

他にもサリヤを助ける人物がいる。アフガンから逃れてきた皿洗いの男だ。実は、彼はアフガンでは外科医だった。そのため皿洗いではなく別の仕事をしたいのだが、移民に対する様々な規則があって思うようにいかない。そんな彼をサリヤがサポートする。

このように、障害者を健常者がサポートするというのではなく、おたがいにサポートしあう設定が秀逸だ。そうである。このドラマは病気や障害というテーマを超えて、より広い人と人とのつながりを描いた作品なのだ。

映画の中盤で、サリヤの前にはある女性が現れる。ホテルに出入りする農場のシングルマザーのラウラ(アンナ・マリア・ミューエ)だ。やがてサリヤは彼女と付き合うようになり、その息子とも交流するようになる。しかし、目のことは隠したまま。このことが、のちの波乱を巻き起こす。

順風満帆の研修生活を送っているかに見えたサリヤだが、やがてどんどん追い詰められて破綻が訪れる。この映画では、冒頭からしばしばサリヤ目線のぼやけた風景が挟み込まれる。これが効果的だ。サリヤが抱えた困難がいかに大きなものであり、そう簡単には乗り越えられないことを予感させる。

ついにウソで固めた研修生活に破綻をきたしたサリヤ。そこで彼は、あることに気づく。そして、再びチャレンジを始める。

そのあたりの詳細はネタバレになるので伏せるが、それを通して伝わってくるのは、人間は助け合って生きる存在だという事実である。自分を偽ったり強がるのではなく、自分の弱さを素直に認めて、足りないところは誰かの助けを借りればいいじゃないか。作り手たちのそんなメッセージが自然に伝わってきた。当たり前でも、なかなか気づかないこのことこそが、本作のテーマではないだろうか。

正直なところ、都合よすぎの場面も多いし、そもそも「世の中あんなに良い人ばかりではないでしょう」と言いたくなるような善人揃いのお話である。意地悪で厳しい指導係も最後に温情を見せたりする。でも、それはあえてやっていることなのだろう。そのあたりは、テンポの良い描き方もあって、それほど気にならなかった。

障害者差別や移民問題などもチラリと織り込み(ほんのチラリとだが)、たっぷりの笑いと押しつけがましくない感動を届けてくれる作品。多くの人が温かな心持ちで映画館を後にできるはずだ。

●今日の映画代、1300円。TCGメンバーズカードの会員料金にて。

f:id:cinemaking:20180117211437j:plain

◆「5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生」(MEIN BLIND DATE MIT DEM LEBEN)
(2017年 ドイツ)(上映時間1時間51分)
監督:マルク・ローテムント
出演:コスティア・ウルマン、ヤコブ・マッチェンツ、アンナ・マリア・ミューエ、ヨハン・フォン・ビューロー、アレクサンダー・ヘルト、ミヒャエル・A・グリム、キダ・コードル・ラマダン、ニラム・ファルーク、ジルヴァーナ・クラパッチュ
新宿ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ http://5p-kiseki.com/