映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「カツベン!」

「カツベン!」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2019年12月13日(金)午後2時10分より鑑賞(スクリーン2/E-9)。

活動弁士の魅力が満載の周防正行監督による極上のエンタメ映画

多作ではないものの、痛快エンタメ映画から社会派映画まで様々な映画を撮ってきた周防正行監督。それらに共通するのは、それまで世間的にあまり注目されなかったネタを積極的に取り上げていることだろう。「シコふんじゃった。」では大学相撲部、「Shall we ダンス?」では社交ダンス、「それでもボクはやってない」では痴漢裁判、「終の信託」では終末期医療、「舞妓はレディ」では舞妓というように。

そして今回取り上げたのは活動弁士。かつて無声映画の時代に、生演奏とともに、個性的な語りや説明で観客を魅了した職業である。その後、映画はトーキーの世界になり、活動弁士の活躍の場はほとんどなくなったが、今でも数こそ少ないものの活動を続けている弁士たちが存在する。

序盤に描かれるのは主人公の俊太郎の幼少時代。友達とともに活動写真(映画)の撮影現場に遭遇した俊太郎は、いたずらをして警察官に追われる。その追走劇をまるでチャップリンキートンの喜劇映画のようなタッチで見せる。ここから早くも周防監督らしいこだわりが全開だ。

こだわりと言えば、本作には冒頭から数々の無声映画が登場する。実は、これ、すべて周防監督が今回自ら撮ったもの。名作の再現とオリジナル作品、合わせて10数本を撮り下ろしたという。キャストに名を連ねた出演者には、この劇中映画のみに登場する俳優も多い。何という凝りよう!!

ちなみに、この時の活動写真の撮影では、役者が「いろはにほへと」とセリフをしゃべったり(どっちみち音声はナシなので)、太陽が隠れると撮影できなかったり、女性の役も男が演じていたりと、当時の映画界の事情がよくわかる。そういう豆知識が学べるのもこの映画のお楽しみだ。

そしてこの幼少時代に、俊太郎は活動写真小屋で見た活動弁士に憧れるとともに、幼なじみで初恋相手の梅子と強い絆を結ぶ。その絆を象徴するアイテムのキャラメルが、本作のラストで巧みに使われる心憎い仕掛けも用意されている。

続いて描かれるのは10年後。成長した俊太郎(成田凌)は、いつのまにかニセ弁士として泥棒一味に引き込まれている。だが、隙を見て逃げ出し、小さな町の映画館の靑木館で雑用係として働き始める。そこには、館主夫婦や先輩弁士をはじめ個性の強い人々がいた。やがて梅子(黒島結菜)と再会した俊太郎は、靑木館がライバルのタチバナ館の攻勢で窮地に陥る中で、ついに弁士デビューのチャンスをつかむ。だが、俊太郎が泥棒から奪った大金を狙う元仲間や刑事が現れて……。

活動弁士を描いた映画だけに、その技が嘘くさかったら話にならない。だが、本作に登場する弁士はいずれも様になっている。主人公の俊太郎はもちろん、大酒飲みで落ち目の弁士・山岡秋聲(永瀬正敏)、スター気取りの人気弁士・茂木貴之(高良健吾)、汗かきの弁士・内藤四郎(森田甘路)など、本格的な弁士の話芸が披露される。

もちろんコメディー仕立ての映画だけに、笑いも満載だ。何せ脇役たちのキャラが強烈。前述の弁士たちに加え、靑木館の館主夫妻(竹中直人渡辺えり)、楽士たち(徳井優田口浩正正名僕蔵)、映写技師(成河)、ライバル館の社長(小日向文世)、その令嬢(井上真央)、泥棒一味の元リーダー(音尾琢真)、泥棒を追う映画好きの刑事(竹野内豊)などが、それぞれの個性を生かした笑いを生み出していく。

コントまがいの笑いもある。特に俊太郎と茂木が演じるタンスの引き出しの一件には大爆笑させられた。ドリフのコントのタライならぬ看板落下のシーンなども、ベタではあるものの笑えてしまう。

ライバル館が登場してからは活劇の要素も強まる。俊太郎をつけ狙う泥棒一味の元リーダー、社長令嬢などが交錯し、梅子の誘拐事件まで起きる。それを背景に、クライマックスでは俊太郎の活動弁士としての最大の見せ場が訪れる。つぎはぎだらけの意味不明なフィルムに対して、彼はどんなことを語るのか? ハラハラドキドキの展開が待っている。

本作にはロマンスもある。俊太郎と梅子のロマンスだ。その純な恋を駅での待ち合わせという古典的な仕掛けで盛り上げるあたりも、思わずニヤリとさせられる展開。さらにエピローグでは序盤に登場したキャラメルを効果的に使い、2人の絆の強さを見せつけて、清々しい余韻を残してくれる。

都合のよすぎる設定やベタな展開も満載の映画。だが、それに目くじらを立てる必要はない。なぜなら、それこそが古き良き時代の無声映画の世界。それをきちんと踏襲しているのだから。

周防作品ではいつもそうなのだが、知らない間にスクリーンに感情移入させられてしまう。特に今回は映画館が舞台ということで、自分も劇中の熱気あふれる映画館に引きずり込まれ、その観客とともに活動弁士の語りに魅了され、泣いたり笑ったりさせられてしまった。

というわけで、本作には映画愛があふれている。ただし、それは「これでもか!」という過剰な映画愛ではない。様々な要素をバランスよく配した極上のエンタメ映画であり、その根底には常に温かな映画への愛が流れているのである。

最後に映される説明にぜひ注目してほしい。日本には活動弁士がいたことで、厳密な意味ではサイレント映画はなかったという主旨の説明だ。そうである。本作はまさしく日本独自の芸である活動弁士讃歌なのである。

 

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◆「カツベン!」
(2019年 日本)(上映時間2時間7分)
監督:周防正行
出演:成田凌黒島結菜永瀬正敏高良健吾音尾琢真徳井優田口浩正正名僕蔵、成河、森田甘路酒井美紀、シャーロット・ケイト・フォックス、上白石萌音城田優草刈民代山本耕史池松壮亮竹中直人渡辺えり井上真央小日向文世竹野内豊
*丸の内TOEIほかにて全国公開中
ホームページ http://www.katsuben.jp/

「マリッジ・ストーリー」

「マリッジ・ストーリー」
シネ・リーブル池袋にて。12月8日(日)午前10時25分より鑑賞(シアター1/G-10)。

ノア・バームバックが離婚を目前に揺れ動く夫婦の心理を繊細かつリアルに描く

またNetflixかよ!

というわけで、巨匠マーティン・スコセッシ監督の「アイリッシュマン」に続いて、今度はノア・バームバック監督の「マリッジ・ストーリー」(MARRIAGE STORY)(2019年 アメリカ)がNetflixにて配信。

ノア・バームバック監督といえば、「イカとクジラ」「フランシス・ハ」「ヤング・アダルト・ニューヨーク」など、いわばインディーズ映画を中心に活躍してきた俊英。メジャーからインディーズまで何でも取りそろえるのだから、Netflix恐るべし。

それでも「アイリッシュマン」同様に、配信に先立ってミニシアターを中心に一部で劇場公開してくれたわけで、素直に感謝です。ありがたやありがたや。やっぱり映画は映画館で観ないとね。

タイトル通りに結婚の話……ではなくて離婚の話である。冒頭、女優である妻のニコール(スカーレット・ヨハンソン)と夫で劇作家・演出家のチャーリー(アダム・ドライヴァー)が、それぞれの素晴らしいところを紹介し合う手紙を朗読する。

なるほど、こんなに仲の良かった夫婦が次第に険悪な関係になっていくのね、と思いきや、続いて登場するのは離婚の話し合い中の2人。何のことはない、冒頭の手紙は離婚をスムーズに進めるために調停人の勧めで書かされたものだったのだ。この夫婦、すでにもう駄目なのである。

どうやらニコールは積年の不満が募って離婚を決意したらしい。結婚当時、ニコールはテレビドラマで売り出し中の女優。それがニューヨークでチャーリーと出会い、彼の劇団の舞台に出るようになった。それをきっかけにチャーリーはそれなりに有名になり、一方ニコールは「私の才能が吸い取られ、自分は何者かわからなくなった」と思うように。そんな不満が募っての離婚劇。どこぞの芸能人夫妻で聞いたような話である。

ニコールはテレビ出演の誘いを受けて、幼い息子とともにロスにある実家へ行く。そこにチャーリーが来てのすったもんだが描かれる。離婚を望むのはニコールだが、それでもその心は微妙に揺れている。まだチャーリーへの思いが完全に消えたわけではない。妻から一方的に離婚を切り出されたチャーリーに至っては、心はただ混乱するばかりだ。そんな微妙な2人の関係性がセリフを中心にリアルに描かれる。

このセリフがなかなかに良く書けている。ニコールが弁護士相手に自身のことを述べる件など、長い一人語りのパートなどもあって、まるで舞台劇のような雰囲気さえ漂う。

ただし、どんなに良いセリフでも、演じ手が下手では興ざめだ。しかし、心配はご無用。夫妻を演じているのは、スカーレット・ヨハンソンアダム・ドライヴァーなのだから。それぞれの微妙な心理の絢、すれ違い、微かな触れ合いなどを繊細に表現している。

バームバック監督の過去作の多くは、ユーモアとシニカルさが特徴。本作もけっしてシリアス一辺倒なドラマではない。笑いもたくさんある。2人を取り巻く脇役のキャラが個性的でそれが愉快な笑いを生み出していく。特にニコールの母と姉が絵に描いたようなお調子者で笑えてしまう。チャーリーの劇団の劇団員もユニークだ。

離婚話が出た当初は、弁護士を立てずに円満な協議離婚を望んでいた2人。だが、それまで溜め込んでいた様々な感情があらわになり、ニコールはついに弁護士を立ててしまう。この弁護士が切れ者の女弁護士で(ローラ・ダーンが適役!)、彼女の登場によって何やら雲行きが怪しくなってくる。

それに対してチャーリーも弁護士を立てざるを得なくなる。最初に雇ったロートル弁護士(アラン・アルダ)、それに代わって登場するギラギラ系弁護士(レイ・リオッタ)。この弁護士同士の親権や財産をめぐる対決によって、事態は2人が考えていたのとは全く違う方向へ。お互いを非難し合い、過去を暴露し合う激しい争いに突入する。

そんな中で、2人だけで話し合うことの必要性を感じたニコールとチャーリー。だが、結局、さらに険悪な雰囲気になってしまう。このあたりの2人のジレンマも手に取るように伝わってくる。「こんなはずでは」と思いつつ、もはやどうにもできないのだ。その姿が何とも切なく痛々しい。

切ないといえば、終盤、チャーリーと息子の様子を見るために、裁判所の調査員がやってくる場面も切ない。そこでチャーリーは良き父親を演じるものの、誤って自分の腕をナイフで傷つけてしまう。これまた切なくて物悲しすぎる場面である。

ラスト近く、ニューヨークに戻ったチャーリーは、劇団員とともに行った店で歌を歌う。これが哀切漂う素晴らしい歌声なのだ。アダム・ドライヴァーって、こんなに歌がうまかったのかぁ。

結局、裁判によってある一定の結論が出されるのだが、ドラマの主眼はそこではない。あくまでも2人の感情の移ろいこそが、この映画の本丸なのだ。そこで冒頭に登場した手紙を効果的に再度使い、観客を泣かせる構成が心憎い。いや、観客だけでなく、劇中のチャーリーも、ニコールもまた涙する。

そして見逃せないのがラストである。詳しくは伏せるが、ニコールがチャーリーに取ったある行動が、温かな余韻を残してドラマは終わる。安直な絆の再生など期待しないが、それでもニコール、チャーリー、そして息子は新たな良い関係を築くのでは? と思わせられてしまった。ここは紛れもない名シーンである。

女優と劇作家・演出家の夫婦などというと、特殊なケースに思えるかもしれないが、けっしてそんなことはない。様々な夫婦に共通する要素のある普遍的なドラマだ。結婚した経験のない(もちろん離婚経験もない)自分にとっても、心にグッとくる良質な作品だった。

◆「マリッジ・ストーリー」(MARRIAGE STORY)
(2019年 アメリカ)(上映時間2時間16分)
監督・脚本:ノア・バームバック
出演:スカーレット・ヨハンソンアダム・ドライヴァーローラ・ダーンアラン・アルダレイ・リオッタ、ジュリー・ハガティ、メリット・ウェヴァー、アジー・ロバートソン、ウォーレス・ショーン、マーサ・ケリー、マーク・オブライエン
アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて公開中
ホームページ https://www.netflix.com/title/80223779

「アイリッシュマン」

アイリッシュマン」
シネ・リーブル池袋にて。2019年12月6日(金)午後1時15分より鑑賞(シアター1/G-6)。

~スコセッシと三人の名優がタッグを組んだ骨太で重厚なマフィア映画

動画配信サイトには加入していない。うちのテレビ画面は小さいし、だいいちネットにつなげられない。さらに小さなパソコンの画面で映画を観たところで、そんなものは魅力半減ではないか。

そんなオレにとって受難の時代が到来している。Netflixなどがオリジナルの秀作映画を次々に製作しだしたのだ。巨匠マーティン・スコセッシ監督の「アイリッシュマン」(THE IRISHMAN)(2019年 アメリカ)もNetflixによる製作・配信。この話題作をオレは観ないままに過ごすのか!?

しかし、である。オレの無念の思いが通じた……なんてことはないだろうが、Netflixはこの映画を劇場でも公開してくれたのだ。ミニシアター中心の小規模公開とはいえ、贅沢は言うまい。さっそく映画館へGO!!

簡単に言えばマフィア映画である。冒頭、ある施設の中を長回しで映していく。たどり着いた部屋にいるのは、主人公“アイリッシュマン”ことフランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)。年老いた彼の一人語りによってドラマが進行する。

かつてフランクは冷凍牛肉を運ぶトラック運転手だった。だが、牛肉を盗んで横流ししたことをきっかけに、裏社会とのつながりができる。やがて伝説的マフィアのラッセル・バッファリーノ(ジョー・ペシ)に仕えるようになった彼は、裏仕事に手を染めるようになる。借金取りから始まり、車や建物の爆破、そしてついに殺しにも手を染める。「ペンキ屋」(つまり壁を血で染めるという意味)として、どんどんのし上がっていくのである。

フランクがマフィアによくあるイタリア系ではなく、アイルランド系だという違いはあるにせよ、基本的には典型的なマフィア映画だ。そこには成り上がり、友情、裏切り、暴力、転落など、人生の様々な要素が詰め込まれている。しかも、それを描くのはマーティン・スコセッシである。骨太で濃密すぎる空間が創出されている。

フランクは、やがてもう一つの舞台でも存在感を発揮するようになる。組合運動だ。当時の全米トラック組合の委員長ジミー・ホッファ(アル・パチーノ)は、エルヴィス・プレスリーや「ザ・ビートルズ」よりも人気があったといわれる労働運動におけるカリスマ的指導者。フランクは、彼に取り立てられ頼りにされるようになる。2人の間には絆が生まれていく。

それにしてもなぜマフィアが組合運動? 実は、ホッファもマフィアとのつながりがあったのだ。労働者の味方としての表の顔の一方、裏ではマフィアとつながり、かなりあくどいこともやり、私腹を肥やしていた。そんな2人がつながるのは、ごく自然なことだったのかもしれない。

本作の大きな特徴は、裏社会の人々の暗躍を政治や社会の出来事と結び付けているところ。ケネディ大統領の誕生、ピッグス湾事件などの歴史的な出来事に、マフィアたちを絡ませて描いていく。当時、マフィアがそれだけ力を持っていたことを示すとともに、スコセッシらしいスケール感に満ちた重厚な描き方である。

また、この映画にはおびただしい数の人物が登場するが、その登場時には後の死亡日時と死因が添えられる。そのほとんどはろくでもない死に方だ。それがあるからこそ、虚勢を張って羽振りの良さを誇示する現在の彼らの姿には、何やらもの悲しさが漂うのである。

そしてこのキャスト! ロバート・デ・ニーロアル・パチーノジョー・ペシ。いずれもキャラが濃すぎる。24年ぶりのスコセッシの長編作への主演となるロバート・デ・ニーロは貫禄の演技。殺し屋としての冷徹さだけでなく、人間味もきちんと表現している。鋭い眼光が印象的なジョー・ペシの圧倒的な存在感も素晴らしい。そしてスコセッシ作品初登場らしいアル・パチーノは、感情の起伏の大きな人物を巧みに演じ分けていた。

この大御所三者の演技バトルだけでも、観る価値がある作品だ。若い頃の彼らを描くのに、若い役者を使うのではなくCGを駆使しているのだが、そんなことを可能にしたのも彼らの演技力のなせる業。どんなに外見を変えても、中身が年をとったままでは不自然極まりない。しかし、彼らはそれをきちんと演じているのである。

終盤、いったん刑務所に入ったホッファは出所後に復権をもくろんで猛進する。それによってマフィアとの関係が悪化する。そんな中、ホッファとマフィアとの間に挟まれてフランクは苦悩する。そして……。

劇中何度も挟み込まれるのがフランク夫妻とラッセル夫妻によるドライブの場面だ。奥さんたちがしょっちゅうタバコ休憩するなど、ユーモラスなところもあるのだが、実はそれが終盤のホッファの一件とつながる。このあたりも、なかなかよく考えられた構成だ。

結局のところフランクをはじめ悪党たちは、刑務所に入ったり殺されたりするわけで、まさに因果応報といったところ。だが、フランクにとってとりわけ痛手だったのは、娘との確執だろう。以前からけっして関係はよくなかったが、晩年は完全に拒絶される。それでも後悔していないと言い切り、真実を墓場まで持っていくフランクの姿には、哀切が漂うばかりである。

上映時間は3時間29分。だが、少しもその長さを感じなかった。巨匠と名優たちがタッグを組んで実現させた見事な映画だ。これが配信中心での公開というのは、時代を感じさせますなぁ。でも、家によほどデカいテレビを持っているならともかく、観るならやっぱり劇場がオススメですヨ。

◆「アイリッシュマン」(THE IRISHMAN)
(2019年 アメリカ)(上映時間3時間29分)
監督:マーティン・スコセッシ
出演:ロバート・デ・ニーロアル・パチーノジョー・ペシ、レイ・ロマノ、ボビー・カナヴェイルアンナ・パキンスティーヴン・グレアムハーヴェイ・カイテル、ステファニー・カーツバ、キャスリン・ナルドゥッチ、ウェルカー・ホワイト、ジェシー・プレモンス、ジャック・ヒューストン、ドメニク・ランバルドッツィ、ポール・ハーマン、ルイス・キャンセルミ、ゲイリー・バサラバ、マリン・アイルランドセバスティアン・マニスカルコ、スティーヴン・ヴァン・ザント
アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて公開中
ホームぺージ https://www.netflix.com/title/80175798

 

「殺さない彼と死なない彼女」

「殺さない彼と死なない彼女」
新宿バルト9にて。2019年11月29日(金)午後1時より鑑賞(シアター2/D-9)。

~高校生たちの風変わりな恋愛から見える人と人とのつながり

小林啓一監督の長編デビュー作「ももいろそらを」(2013年公開)は、大金を拾った女子高生と友人たちの騒動を全編モノクロ映像で描いた瑞々しい青春ドラマだった。続く「ぼんとリンちゃん」(2014年公開)は、腐女子の女子大生と幼なじみのアニオタ浪人生を主人公にした青春ドラマ。「逆光の頃」(2017年公開)は、男子高生と幼なじみの女の子による青春ドラマ。

というわけで過去の監督作はすべて青春映画だったわけだが、今回公開になった「殺さない彼と死なない彼女」(2019年 日本)もこれまた青春映画である。小林監督ったら、どんだけ青春映画が好きなのだ!? まあ、オレも青春映画好きではあるのだけれど。

原作は世紀末という人がTwitterに投稿した4コマ漫画とのこと。小林監督自身が脚本を書いてそれを映画化した。ジャンル分けすれば青春恋愛映画だが、いわゆる「キラキラ系」とは全く違う。

冒頭に映るのは高校の教室。どう見ても退屈そうな男子高生・小坂れい(間宮祥太朗)がいる。その時、教室のごみ箱に捨てられたハチの死骸を拾う女子高生・鹿野なな(桜井日奈子)に遭遇する。興味を抱いた小坂は鹿野を追う。何をするのか聞くと「土に埋めてあげる」という。

そうやって、虫の命は大切に扱う鹿野だが、彼女自身は「死にたい」が口癖でリストカット常習犯だった。一方、小坂は「殺すぞ」が口癖。そんな風変わりな2人はなぜか気が合い、一緒の時間を過ごすようになる。

この小坂と鹿野のラブロマンスが本作のドラマの柱だ。空虚な心を抱える2人が本音で話すうちに変化していく。同時に他の高校生たちの姿も描かれる。男を次々と替えるきゃぴ子(堀田真由)と親友の地味子(恒松祐里)、八千代(ゆうたろう)と彼が好きでつきまとう撫子(箭内夢菜)である。

彼らも含めて、すべての登場人物の言動が突飛なドラマだ。入り口はかなり風変わり。だが、それを通して描かれることは実にマトモである。彼らの不安定で揺れ動く心情がリアルに描写され、それがヒシヒシと痛いほど伝わってきてたまらなくなる。

特に感心するのが、口とは裏腹の彼らの心理描写だ。「殺すぞ」「死にたい」などと言いながら、その言葉の裏で真剣に互いを思いやる小坂と鹿野。例えば、リストカットしようとする鹿野に対して「どうせ死ねない」と小坂が言い、それを聞いて屋上から飛び降りようとした鹿野を小坂が慌てて制止する。2人の関係性がよく見て取れる場面である。

それ以外の人物描写も同様だ。セリフに加え、独白、空想などを巧みに織り込みつつ、彼らの言葉とは微妙に違う心情をあぶりだしていく。はるか昔にああいう時代を過ごした自分にとっても、共感しまくりのドラマである。過去作でも感心したのだが、小林監督はどうしてあの年代の子たちの心理を、こんなにきちんと描けるのだろうか。一度聞いてみたいものである。

彼らの言動の背景も描き込まれる。キャピ子は相手から別れを切り出されるのが怖くて、自分から次々に男を振る。その背景には幼い頃のトラウマがある。あるいは、どんなに撫子に「好き」と言われてもそれに答えない八千代には、過去の恋愛にまつわる心の傷がある。小坂の空虚さにもある挫折が影響していることがわかる。

恋愛映画らしく、胸にグッとくる場面も随所にある。撫子と八千代の初デートシーンは、こちらが気恥ずかしくなるぐらい初々しいし、キャピ子が本当に好きな男に別れを告げられる場面は切なくてたまらない。小坂と鹿野の糸電話での会話や、火のつかない花火のシーンなども印象深い。

だが、本作は単なる恋愛ドラマに留まらないと思う。ここで描かれる登場人物同士の心のすれ違いやふれあいは、通常の人間関係でも起こることだろう。わかり合いたいけれどわかり合えない。それでもどうにかして少しだけ心を通わせる。まさにこの映画の高校生たちと同じではないか。

中盤以降、小坂と鹿野をはじめ高校生たちに変化が訪れる。様々な欠落や空虚さを抱えた彼らにも、ようやく未来が見え始める。

ところが、終盤に用意されていたのは驚きの展開だ。劇中で何度か、学校で起きたらしい殺人事件の犯人の動画が映される。それは高校生たちの死に対する実感のなさを表現するためのものかと思ったら、それだけではなかったのだ。

そういえば、すべての高校生のドラマは同時進行していると思っていたのだが、よくよく考えれば、小坂と鹿野の場面は、他の場面とは微妙に違っていたことに気づいた。

ネタバレになるので詳しくは書かないが、そこで起きるのは予想もしない悲劇である。それによってロマンスとしての切ない感動が高まるのはもちろん、生者と死者との関わりについても考えさせられた。生者は死者によって生かされているのであり、それゆえ前を向くべきだ。小林監督が意図したものかどうかはともかく、そんなことまで考えさせられた。

ここに至ってこの映画で描かれる人と人とのつながりは、生者同士だけではなく、生者と死者とのつながりにまで広がったのである。

大学生になった鹿野が登場するエピローグも心に残る。そこで彼女は撫子と出会う。そのやり取りを聞いて、それまでの撫子の言動が改めて納得できた。前向きで温かな余韻を残すエンディングだ。

間宮祥太朗桜井日奈子をはじめ、恒松祐里、堀田真由、箭内夢菜、ゆうたろうら、高校生役の若いキャストがいずれも生き生きとした演技を見せている。小林監督の脚本、演出に加え、それもまた本作の魅力だろう。風変わりではあるが、単なる青春恋愛映画を超えた普遍的で魅力的な映画だ。

 

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◆「殺さない彼と死なない彼女」
(2019年 日本)(上映時間2時間3分)
監督・脚本:小林啓一
出演:間宮祥太朗桜井日奈子恒松祐里、堀田真由、箭内夢菜、ゆうたろう、金子大地、中尾暢樹佐藤玲佐津川愛美森口瑤子
新宿バルト9ほかにて公開中
ホームページ http://korokare-shikano.jp/

「夕刊フジロック PLUS2 頭脳警察50周年3rd Right Left the Light~ど真ん中から叫んでやる~」

夕刊フジ」。「日刊ゲンダイ」と並ぶ夕刊紙。ゲンダイが反権力的な論調なのに対して、フジはその逆。世間的に言えばゲンダイは左、フジは右というところだろう。その夕刊フジのイベント「夕刊フジロック」に頭脳警察が出演すると聞いて違和感を持った人も多いのではないだろうか。1970年前後の全共闘運動盛んなりし頃に、過激な歌詞で発売禁止を食らうなど左のイメージが強いバンドなのだから。

だが、しかし、頭脳警察、その中心人物PANTAの軌跡をたどれば、左右などという区分に関係なく、どんな場所にあっても自身に正直な心の叫びを歌に込めてきたのではないか。ならば、夕刊フジのイベント出演も不思議なことではないだろう。何しろイベントタイトルは「Right Left the Light~ど真ん中から叫んでやる~」なのだ。

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斯くして2019年11月25日(月)、渋谷duoにて「夕刊フジロック PLUS2 頭脳警察50周年3rd Right Left the Light~ど真ん中から叫んでやる~」は開催された。開演前には来夏に新宿K′s Cinemaにて公開予定の頭脳警察ドキュメンタリー映画「zk」の未編集映像が流れ気分を盛り上げる。

そしてオープニングアクトの岳竜が登場。頭脳警察のギター・澤竜二とベース・宮田岳によるユニットだ。元々は活動休止中の黒猫チェルシーのメンバーであるだけに、気心は知れているわけで、絶妙のアンサンブルを聞かせてくれる。アコースティック・セットでありながら紛れもなくロックしているのが、何よりも印象深いステージだった。

続くオープニングアクトは玲里。日本を代表するキーボード奏者・難波弘之のお嬢さんだ。キーボードの弾き語りで、透明感がありつつ力強い歌声を聞かせてくれた。楽曲もどれも素晴らしかった。最後には自身はギターに持ち替えて、お父さんがキーボードを担当。PANTAのソロ曲「真夜中のパーキングロット」と自身の曲「シュガー・ベイビー」をメドレーで披露した。

さて、次なるステージは、戸川純avecおおくぼけい。そう、あの戸川純が、おおくぼけいのピアノをバックに歌うのだ。何でもシャンソンを歌うためのユニットらしく、越路吹雪でもおなじみの「愛の讃歌」を高らかに歌ったりもするのだが、それでもそれは紛れもない戸川純独自の世界だ。人間は年をとれば当然ながら外見や心持ちが変化する。だが、どんなに変化しても変わらない魂を持ち続けている人がいる。PANTA戸川純もまさにそうだ。戸川純の内にはパンクの魂が息づいている。圧倒的な唯一無二の存在感だ。頭脳警察戸川純の共演と聞けば、一瞬戸惑う人も多いかも取れないが、よくよく考えればこれは必然だったのだ。

トリに登場したのはもちろん頭脳警察フランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションの「Who Are The Brain Police?」が流れる中、登場するPANTAとTOSHI。PANTAのギターが最初のコートをかき鳴らした瞬間、会場が大きな歓声に包まれた。「世界革命戦争宣言」。1969年に共産主義者同盟赤軍派日本委員会が出した宣言を曲に載せて叫んだものだ。これを「日刊ゲンダイ」でも「週刊金曜日」でもない「夕刊フジ」のイベントで歌うのが頭脳警察の真骨頂だろう。まさしく、ど真ん中から叫んでやる!

曲の終わり近くに、他のメンバーが登場する。澤竜次(G)、宮田岳(B)、樋口素之助(Ds)、おおくぼけい(Key)。「赤軍兵士の詩」「銃をとれ」へとなだれ込む。革命の時代らしい初期頭脳警察の代表曲だ。

だが、頭脳警察は過去の懐メロバンドではない。現在進行形のバンドだ。それを証明するかのように、9月に発売されたばかりのニュー・アルバム「乱波」の曲が演奏される。今年4月に新宿・花園神社の野外テントで上演された水族館劇場の芝居のために書かれた「揺れる大地1」そして「揺れる大地2」。この2曲では水族館劇場のキャストたちが舞台の扮装そのままに登場して、演奏に加わった。

「乱波」の曲が続く。澤の12弦ギターをフィーチャーした「紫のプリズムにのって」、石垣秀基の力強い尺八が加わった「乱波者」、心に染みるバラード曲「戦士のバラード」、小気味いいロック「ダダリオを探せ」。

この日のステージはほぼMCなし。間髪を入れずに曲が続く。PANTAの声は力強くいつにもまして艶やかだ。TOSHIの変幻自在のパーカッションも快調。澤竜次、宮田岳、樋口素之助、おおくぼけいの演奏も、いつも以上に気合に満ちた熱い演奏だった。

終盤は「乱波」に納められたロックンロールメドレー。「麗しのジェットダンサー」「メカニカル・ドールの悲劇」「プリマドンナ」「やけっぱちのルンバ」。「やけっぱちのルンバ」では美しきSAX奏者ASUKAが加わる。このあたりでは会場の盛り上がりも最高潮。会場全体が大きなうねりの中に巻き込まれたかのようだった。

本編最後の曲は「さようなら世界夫人よ」。頭脳警察永遠の名バラードで「乱波」では吉田美奈子がコーラスを担当したが、この日は玲里が担当。ゴスペル色の強い吉田とはまたひと味違う素敵なコーラスを響かせていた。

そしてアンコール。再登場した頭脳警察のメンバーが奏でたのはパッヘルベルの「カノン」。PANTAがそれに乗せて囁くように歌う。そして呼び込まれた戸川純頭脳警察との共演による「パンク蛹化の女」だ。この日は終始椅子に座って歌っていた戸川が、ここの時ばかりは(予定外だったようだが)立ったままでシャウトしまくる。その壮絶なステージには背筋ゾクゾクものであった。

ラストは戸川純に、石垣秀基、ASUKA、玲里も加わって、「コミック雑誌なんか要らない」。

もう言葉はいらない。最高の時間だった。歴史的な夜だった。頭脳警察結成50周年にまつわるライブは数々あったが、その中でも個人的には間違いなく最高の一夜だった。来年2月でとりあえず50周年の活動にはピリオドが打たれるらしいが、その後もぜひ活動を続けて欲しいと思う。頭脳警察は確実に現在進行形のバンドであることが、改めて確認できたのだから。

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「影踏み」

「影踏み」
シネ・リーブル池袋にて。2019年11月23日(土)午後12時55分より鑑賞(シアター2/G-6)。

~ミステリー+ファンタジー。事件の謎に迫る泥棒が抱えた過去の出来事

山崎まさよしといえばミュージシャンして知られているわけだが、実は過去に何度か俳優業を経験している。1996年の「月とキャベツ」、2005年の「8月のクリスマス」では主演も務めている。そのうちの「月とキャベツ」でコンビを組んだ篠原哲雄監督と再びタッグを組んだ主演作が「影踏み」(2019年 日本)である。「64 ロクヨン」「クライマーズ・ハイ」などの映画化作品でも知られる作家・横山秀夫の小説の映画化だ。

冒頭、主人公の真壁修一(山崎まさよし)が野良猫に餌をやっている。彼の優しさと同時に孤独が浮かび上がる場面である。実は、修一は住人が寝静まった深夜の民家に侵入して盗みを働く、通称「ノビ師」と呼ばれる泥棒で、その鮮やかな手口で警察から“ノビカベ”と呼ばれていたのだ。

そんなある日、彼は県議会議員・稲村の自宅に忍び込む。だが、そこで就寝中の夫に火を放とうとする妻・葉子(中村ゆり)の姿を目撃し、思わず止めに入る。すると、すぐに現場に現われた幼なじみでもある刑事の吉川(竹原ピストル)に捕まり、刑務所送りとなってしまう。それから2年後、出所した修一は、彼を慕う若者・啓二(北村匠海)とともに事件当夜のことを調べ始める。そんな中、吉川が死体となって見つかる。

こうして修一は吉川の死をめぐる事件の真相を探る。これがこのミステリードラマの中心的な謎である。そこでは、どうやら葉子の周辺の人物が怪しいことがわかる。稲村家の競売をめぐって暗躍したヤクザ、裁判所の執行官、判事などだ。修一は得意の泥棒の技も駆使しつつ、彼らの身辺を洗う。

その一方、本作にはもう一つの謎がある。それは修一の過去だ。映画の序盤で、燃え上がる住宅の映像が突如として登場する。やがて、それが修一の家であることがわかる。修一が泥棒になったのは、そうした過去が関係しているらしい。そんな修一の過去には、修一を慕う女性・安西久子(尾野真千子)も絡んでくる。

篠原監督の演出はオーソドックスで、奇をてらったところはない。その分、安心して楽しめる作品に仕上がっている。そして、おそらく監督が最も描きたかったのは、2つの謎のうちの後者だろう。

前者については、犯人がわかってしまえば「なぁ~んだ」となってしまう。この手のミステリーにありがちな犯人らしくない人物が犯人なのだが、驚くほどの仕掛けやトリックがあるわけではない。犯行動機も弱い。ミステリーとしての醍醐味はあまり感じられなかった。

一方、後者の謎についてはけっこう深いものがある。特に注目すべきは彼の双子の弟の存在だ。その弟と母はあの業火によって焼死したらしい。いったい何があったのか。

その謎に絡んで、やがて衝撃の事実が明らかになる。出所直後から彼を慕う若者・啓二とは何者なのか。予想もしない正体が明らかになる。原作を読んでいる人なら驚きはないのかもしれないが、未読の身にとってはまさに驚愕の事実だった。本作が「映像化不可能とされてきた作品」とPRされているのは、そこに理由があるのだろう。

いわばミステリーとファンタジーが融合したこの仕掛け。これを素直に受け入れられるかどうかで、この映画に対する評価は変わってきそうだ。個人的には驚きはあったものの、特に違和感はなかった。

そこでポイントになるのは双子という存在だ。劇中にはもう1組の双子が登場する。久子にプロポーズした男と兄である。その2人の間に起きた出来事が、修一兄弟のエピソードに重なり合い、双子の不可思議さ、難しさを浮き彫りにする。この双子にまつわる人間ドラマが本作の肝と言ってもいいだろう。

こうして自身の過去と向き合い、葛藤を乗り越え、過去を清算する修一。そして傍らに寄り添う安子。いかにもハートウォームなエンディングは、篠原監督らしい世界だと思う。

この手の原作ものの映画にありがちな突っ込み不足のところも目立つ。弟と母の事件に至る経緯は描写不足で、特に母と修一との関係性が見えてこない。だから、家族をめぐる悲惨な事件が、修一に与えた影響が今一つリアルに伝わってこない。せっかく母役に大竹しのぶを配しているのだし、そこはもう少し何とかならなかったものか。

それでもミステリー&人間ドラマとして、よくまとまった作品になっていると思う。原作の魅力も伝わってきた。とはいえ、まだ原作を読んでいない人は、読む前に映画を観たほうがいいかも。あの仕掛けが事前にわかっていると興ざめでしょう。

山崎まさよしは、過去を抱えた男という役柄が意外にハマっていた。また、尾野真千子中村ゆり北村匠海滝藤賢一鶴見辰吾らの脇役が存在感を発揮している。鶴見慎吾もそうだが、下條アトム真田麻垂美田中要次ら、過去の篠原作品に出演経験のある役者が多いのも、この映画の安定感につながっているのかもしれない。

 

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◆「影踏み」
(2019年 日本)(上映時間1時間52分)
監督:篠原哲雄
出演:山崎まさよし尾野真千子北村匠海滝藤賢一鶴見辰吾大竹しのぶ中村ゆり竹原ピストル中尾明慶藤野涼子下條アトム根岸季衣大石吾朗高田里穂真田麻垂美田中要次
テアトル新宿ほかにて公開中
ホームページ https://kagefumi-movie.jp/

 

「ゾンビランド:ダブルタップ」

ゾンビランド:ダブルタップ」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2019年11月22日(金)午前10時50分より鑑賞(スクリーン2/D-8)

~おバカで爆笑の唯一無二のゾンビ映画。まさかの10年ぶりの続編登場!

いつもいつも真面目な映画ばかり観ているわけではない。時にはおバカな爆笑映画だって観たくなるのだ。映画好きだもの。

というわけで、「ゾンビランド:ダブルタップ」(ZOMBIELAND: DOUBLE TAP)(2019年 アメリカ)を鑑賞。ハリウッドもネタ切れ気味なのか、「今さら」感がある続編が突然登場したりする。本作も、2009年にヒットした「ゾンビランド」の10年ぶりの続編だ。しかし、「今さら」感とは無縁。これがまあ前作に負けないほど面白い映画なのだ。

ゾンビランドというタイトルからもわかるように、ゾンビ映画である。ゾンビ映画とくればコワ~い映画を連想するが、前作に引き続き今作も爆笑のゾンビ映画だ。最初に映るコロンビア映画のオープニングロゴ。コロンビアレディが襲い掛かるゾンビを殴り倒す。早くもここから笑いの波状攻撃が始まる。

いわば疑似家族の4人が、ゾンビと戦ってサバイバルを図るドラマだ。爆発的なウィルス感染によって地球上の人類がゾンビ化した世界で、コロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)、タラハシーウディ・ハレルソン)、ウィチタ(エマ・ストーン)、リトルロックアビゲイル・ブレスリン)の4人は、コロンバスが作り上げたルールに従って生き延びてきた。

そして10年経った今、彼らはホワイトハウスを根城に、さらなる進化を遂げたゾンビたちと戦っていた。そんな中、コロンバスはウィチタへプロポーズする。一方、年頃のリトルロックは、父親のように過保護なタラハシーに反発心を募らせていく。

本作の笑いの源泉は、何といっても登場人物の個性的なキャラにある。「生き残るための32のルール」を実践する引きこもり青年のコロンバス、爆裂暴力オヤジのタラハシー、美人だけどけっこうキツいウィチタ、その妹のリトルロック。彼らのユニークな言動が笑いを誘う。同時にギャグやパロディも満載。おバカで、ちょっとお下品な笑いが炸裂する。

今回は新キャラも登場する。ウィチタがリトルロックと家を出た隙に入り込んできたマディソン(ゾーイ・ドゥイッチ)だ。ピンクの服に身を包み、頭空っぽのキャピキャピ女。これまた強烈キャラで周囲を混乱させる。

やがて一行は、ヒッピー男と一緒にどこかに消えたリトルロックを捜すためにホワイトハウスを旅立つ。そこからは爆笑のロードムービーになる。彼らがたどり着いたのは、エルヴィス・プレスリーの本拠地メンフィスのグレイスランド。そこでも新キャラが登場する。粋でカッコいい女性ネバダロザリオ・ドーソン)だ。

そして驚くべきことに、独自のルールを実践する青年と爆裂暴力オヤジというコロンバスとタラハシーそっくりのコンビまで登場する。

ちなみにコロンバスのルールは、今回、32から72にまで膨れ上がっている。「有酸素運動」「必ずシートベルト」などの従来のルールに加え、「二度撃ち」は「九度撃ち」になり、「ジップロック」「ウェットティッシュ」など、どうでもいいようなルールまで披露される。それらのルールを記したロゴを画面のあちこちに配置するスタイルも健在だ。

グレイスランドでは、タラハシーによるエルヴィスの物まねも見もの。純白のジャンプスーツを着て、なかなかの歌を聞かせてくれる。そして相変わらずコロンバスやウィチタと、どうでもいいようなやり取りを繰り広げる。そのあたりもまったく笑いが途切れない。

最後に彼らが向かったのは、ヒッピーのコミューンであるバビロンという場所だ。そこは武器を持って入ることができないところ。ヒッピーらしくラブ&ピースの暮らしなのだ。そこでリトルロックと再会したのを機に、タラハシーはいったん一人で旅立つのだが、新種のゾンビの大量襲来を知り、バビロンに戻ってくる。

この新種のゾンビは、なんと「T-800」。言うまでもなく「ターミネーター」シリーズに登場するアンドロイドのパロディだ。その他にも、IQが高いホーキングなどユニークな新種ゾンビが登場する。

クライマックスは迫力のバトル。本作はアクションも大きな魅力だ。冒頭近くのホワイトハウス前でのバトルをはじめ、何度かそうしたアクションシーンが登場する。クライマックスのバトルは、武器を使えないだけに、その中でもかなりのスリリングさ。タラハシーが絶体絶命に追い込まれる場面もある。

そこで意外な助っ人が突然登場するなど都合よすぎの展開もある。それどころか、中盤ではいったんゾンビ化して殺されたはずの人物が再登場するなど、「そんなバカな」というシーンも目立つ。だが、それもまた愛嬌。ここまで堂々とやられたら、ただ笑うしかないのである。

ラストの大団円は、いかにもこの映画らしいところ。小難しいテーマなど本作には無用だ。とはいえ、コロンバスの独白によって「ホームとは場所ではなく、人なのだ」とさりげなく味わい深い結論を導き出すあたり、実に小憎らしいではないか。

もちろんゾンビ映画らしく血しぶきが舞い、首が吹っ飛び、顔がぐしゃりと潰れる凄惨な場面もある。登場人物が大量にゲロを吐くあたりは完全なB級オバカ映画の世界。同時にアクション映画であり、ロードムービーでもある。そして何よりも圧倒的な笑いがある。とにかくお楽しみ要素がテンコ盛りの映画なのだ。

いったんドラマが終わっても、席を立つのは厳禁だ。エンドロールには楽しい仕掛けが待っている。前作で本人役で出演し、殺されてしまったビル・マーレイの登場だ。何をやっているかといえば……猫かよッ!!

前作に出演したウディ・ハレルソンジェシー・アイゼンバーグアビゲイル・ブレスリンエマ・ストーンが、そのまま再登場しているのがうれしいところ。それなりにみんな変化しているが、一番変わったのはやっぱりアビゲイル・ブレスリンだろう。可愛らしい少女がすっかり大人に。

そんな役者たちは、この10年でそれぞれオスカー級に成長したが、監督のルーベン・フライシャーは「ヴェノム」でメジャーになり、脚本のレット・リース&ポール・ワーニックは「デッドプール」で売れっ子になった。それが再結集したのだから奇跡のようなものだろう。

また続編ができないかなぁ~。

 

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◆「ゾンビランド:ダブルタップ」(ZOMBIELAND: DOUBLE TAP)
(2019年 アメリカ)(上映時間1時間39分)
監督:ルーベン・フライシャー
出演:ウディ・ハレルソンジェシー・アイゼンバーグアビゲイル・ブレスリンエマ・ストーンロザリオ・ドーソン、ゾーイ・ドゥイッチ、ルーク・ウィルソン、トーマス・ミドルディッチ
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://www.zombie-land.jp/