「スノーデン」
TOHOシネマズ新宿にて。2017年2月1日(水)午前9時50分より鑑賞。(スクリーン5/E列10番)
もしかしたらオレのことを誰かが監視していて、ヘタなことをするとすぐにとっ捕まるのではないか……。などと荒唐無稽なことを思ったことが何度もある(自意識過剰でスイマセン)。しかし、それがあながち荒唐無稽なことといえないという事実が発覚した。2013年6月のことだ。イギリスのガーディアン誌が報じたスクープによって、アメリカ政府が極秘に構築した国際的監視プログラムの存在が発覚し、世界を驚かせたのである。
まあ、要するに犯罪人でなくとも、世界のすべての人の個人情報が監視されてしまう恐ろしいプログラムなわけだ。その中にはオレも入っているのだろうか。それともさすがにオレのような小物は相手にしないのだろうか。いや、別に監視されたって何にもありゃしないんですけどね。やっぱり気持ち悪いじゃないですか。
そんな恐ろしい機密情報をリークしたのが、NSA(アメリカ国家安全保障局)の職員であるエドワード・スノーデンという青年である。これまでもドキュメンタリー映画になったりしたこの事件だが、初の劇映画として登場したのが、その名も「スノーデン」(SNOWDEN)(2016年 アメリカ)という作品だ。
軍への入隊を志願したものの、訓練で負傷し除隊を余儀なくされた青年エドワード・スノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。その後、コンピュータの知識を生かしてCIAの採用試験に合格し、指導教官コービン・オブライアンからも一目置かれる存在になる。一方プライベートでは、SNSで知り合ったリンゼイ・ミルズ(シェイリーン・ウッドリー)と親しくなる。そんな中、ジュネーヴのアメリカ国連代表部に派遣された彼は、全世界の個人情報が監視されている事実を知り愕然とする……。
冒頭は、香港のホテルでガーディアン誌の記者やドキュメンタリー作家とおち合ったスノーデンが、いよいよ情報を提供するところ。そして、そこから過去の彼の人生が語られ始める。
9.11テロ以降国家の役に立ちたいと考えるようになったスノーデンは、2004年に軍への入隊を志願するものの訓練で足を負傷し除隊に追い込まれる。その後、コンピュータオタクの特徴を生かして、CIAの採用試験に合格。そこで出会ったのが指導教官のオブライアン(リス・エヴァンスがいい味を出している)。彼に目をかけられたスノーデンは、重要な仕事をするようになる。
一方、プラスベートでは、SNSで知り合ったリンゼイ・ミルズという女性と恋人になる。国家に忠誠を尽くしたいと思っていたスノーデンに対して、リンゼイはリベラル派で当時のブッシュ政権に反対している。そんな彼女にスノーデンは大きく影響を受けるようになる。
2007年にスノーデンはスイス・ジュネーヴにあるアメリカの国連代表部に派遣される。そこで彼は、一般市民のメール、チャット、SNSからあらゆる情報を収集する極秘検索システムの存在を知る。政府はそれを使った情報収集を行っている。その後、スノーデンはCIAを退職するが、今度はIT企業の出向者としてNSA(米国国家安全保障局)の仕事をするようになり東京の横田基地に勤務、さらにハワイのCIA工作センターへと赴任する。そうした中で、ついに情報を暴露することを決意する。
この映画のオリヴァー・ストーン監督は、社会派の硬派な映画で知られているが、実はエンタメ性豊かな作品もたくさん撮っている。例えば2006年の「ワールド・トレード・センター」は、9.11テロの際に崩落した世界貿易センタービルから生還した警察官の感動ドラマ。「テロの深層を描いていない」という批判もあったが、監督本人は「これはエンタメ映画であり、テロをきちんと描くならもっと違う映画にする」という主旨の発言をしていた。
この映画も基本はエンタメ映画である。前半から中盤にかけては、スノーデンの人物像に焦点を当て、恋人のリンゼイとの関係も織り込みながら、もともと国家に忠誠を尽くしていた彼が、どうして機密情報を暴露するに至ったかを描く。
ただし、それは単純明快な図式ではない。CIA長官が監視の事実を否定するなど、いくつもの要素が重なった末の行動だ(もちろんリンゼイとの関係も大きく影響する)。劇的でないがゆえに、よけいにリアルに感じられる。
終盤は現在進行形と過去の2つのドラマがスリリングに交錯する。現在進行形のドラマでは、スノーデンがマスコミに情報提供し、それがギリギリのせめぎあいの中で公開され、その結果彼は政府のお尋ね者になってしまう。一方、過去のドラマでは、周囲の目を盗んで情報を外部に持ち出そうとするスノーデンが描かれる。そこでは、彼が映画の冒頭で手にしていたルービックキューブが効果的に使われる。
スノーデンが機密を暴露したとわかった瞬間、ニコラス・ケイジ演じるCIA職員が快哉を叫ぶ。いかにもエンタメ映画らしいシーンだ(ニコラス・ケイジはこういう地味な役が意外に似合ったりする)。この映画には、その他にも様々な見せる工夫が施されている。映像的にはリンゼイが撮影した写真や、ドキュメンタリー監督が撮影した動画、オバマ大統領をはじめ実際のニュース映像なども使って観客を飽きさせない。また、わかりにくいITに関する話も、あえて深く踏み込まずにシンプルに描く。
ラストは、ロシアに亡命したスノーデンがネット中継に登場するシーン。そして、彼のおかげで少しは状況が改善されたこと、それにもかかわらず彼は今もアメリカに帰れないことが告げられる(リンゼイもロシアに渡った)。
というわけで、この映画はヒューマンドラマやサスペンス、ラブストーリーなど様々な要素を持つエンタメ映画であると同時に、権力の暴走に対する警鐘を鳴らす社会派の側面も持つ(それはアメリカだけでなく、日本をはじめ世界のすべての国にも関係することだろう)。とにかく観応え十分の映画だ。何よりも、スノーデンになりきったジョセフ・ゴードン・レヴィットの演技が見事。変な言い方だが、本人より本人らしいと思えるほどの演技だった。
で、オレは本当にアメリカ政府に監視されているのだろうか?
●今日の映画代、1100円。毎月1日は映画サービスデー。1100円で鑑賞できます。