映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ファイティン!」

「ファイティン!」
マスコミ試写(映画美学校試写室)にて。2018年9月20日(木)午後3時30分より鑑賞。

~マ・ドンソクの魅力が炸裂! 腕相撲選手の再起と家族の絆

基本的に自腹で映画を観ているオレだが、試写のお誘いを拒否しているわけではない。世間的に影響力のないオレに対して、誰も試写状を送ってこないだけである。そんな中、珍しくも某映画宣伝会社が試写状を送ってくれた。これは行かない手はない。というので、先日、マスコミ試写に足を運んでみたのだ。

鑑賞したのは今月20日から公開になる韓国映画「ファイティン!」(Champion)(2018年 韓国)。韓国では「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」に次いで初登場2位となり、動員100万人を記録したという。

主演を務めるマ・ドンソクは、日本でも話題になったゾンビ映画「新感染ファイナル・エクスプレス」などで脇役として良い味を発揮していた役者。マッチョな体型ではあるものの、いわゆる韓流イケメン風のルックスではないし、どちらかという武骨なイメージがある。それがこうして堂々と主役を張るところに、韓国映画の幅広さを感じてしまう。何よりも彼ありきの映画なので、彼が好きか嫌いかで、この映画の評価も分かれそうだ。

アームレスリング(腕相撲)の選手のドラマである。アームレスリングといえば、かつてシルベスター・スタローン主演の「オーバー・ザ・トップ」という映画があったが、比較的珍しい素材といえるだろう。

ドラマのスタートはアメリカ・ロサンゼルス。マーク(マ・ドンソク)という男がクラブの用心棒をしている。彼は、もともとアームレスリングの頂点を目指す強豪選手だったのだが、八百長疑惑をかけられて除名されてしまったのだ。

そんな彼に対して、自称スポーツエージェントのジンギ(クォン・ユル)という青年が、韓国で行われる大会に誘う。こうして海を渡って祖国で、再びアームレスリングの頂点を目指すマーク。だが、そこには紆余曲折がある。何しろ彼のマネージャー役を務めるジンギは、大金を稼ぐことに固執していた。そのため彼はサラ金とスポーツ賭博を営むチャンス社長(ヤン・ヒョンミン)に近づき、スポンサーになってもらおうとする。ところが、彼から八百長話を持ちかけられてしまう。

というわけで、本作では、マークが様々な困難を乗り越えてアームレスリングのトップを目指す姿が描かれる。ただし、単純にスポ根ものの映画として観ると物足りなさを感じるかもしれない。この手のスポーツ選手の再起物語では、最初に主人公をボロボロの状態に追い込んでおいた方が、あとあとの輝きが一段と増すことになるのだが、この映画のマークはそこまでボロボロには見えない。

だが、本作にはもう一つの柱がある。“家族”の絆のドラマだ。実はマークは孤独な男だった。幼い頃に韓国からアメリカに養子に出されたものの、養父母は早死にしてしまった。だから、なおさら実母に対して複雑な思いがある。「どうして自分を捨てたのか?」という拭い難い疑問だ。

そこで韓国に来たマークは、恐る恐る実母の家を訪ねる。するとそこには、ジュニョン(チェ・スンフン)とジェニ(オク・イェリン)という幼い2人の子供が住んでいた。そして子どもたちの母親のシングルマザーのスジン(ハン・イェリ)は、マークの妹だというのだ。

こうしてマークが、初めて見る妹とその子どもたちと交流する姿が、じっくりと描かれる。最初はギクシャクした関係で、なかなかコミュニケーションが取れない。それでも子どもたちとは意外に早く打ち解けていく。武骨なマーク、かわいらしい子どもたち。その微笑ましい交流が、実に良い味わいになっている。それにしても韓国の子役はうまい!

一方、しばらくはギクシャクした関係のままだった妹のスジンだが、彼女があるトラブルで警察に捕まったマークの身元保証人になったことをきっかけに、2人の距離も縮まっていく。ずっと孤独だったマークが、初めて家族を持つことになったのだ。

家族のドラマという点では、マークと亡き母との絆も描かれる。亡き母の本当の心根が明らかになり、それがマークの胸を直撃する。実に愛にあふれたシーンだ。また、ジンギと父親との絆も描かれる。なぜジンギが大金を稼ごうとするのか、その理由が明らかになり、父子の絆の深さがさりげなく綴られる。

もちろん、そうした家族のドラマと並行して描かれるのが、アームレスリングの世界でのマークの挑戦だ。何とかマークを売り出して、金を稼ごうとするジンギ。遮二無二トップを目指すマーク。そこにチャンス社長や2人のライバル選手が絡んで、次第にドラマは盛り上がりを見せる。

ちなみに、ライバル選手の1人は刑務所帰りのいかにも悪そうなやつ、もう1人は典型的な好青年という漫画みたいな設定が面白いところ。マークや彼らが戦うアームレスリングの試合シーンは、迫力満点でケレンたっぷりだ。

さて、終盤になってある事実が発覚する。先ほどからマークと妹とその子どもたちとの関係を家族と表現してきたが、実は、そこにはウラがあったのだ。そのことが原因で、彼らは困難な局面に直面する。しかし、それがあるからこそ、クライマックスが一段と盛り上がる。

クライマックスは、マークがかねてから目指していた大会だ。強力なライバルの存在に加え、様々な横やりが入るなどして事態は混沌とするが、それでもマークは頂点を目指す。ただひたすら、子どもたちとの約束を果たすために。

決勝のシーンはこの映画最大の見せ場だ。試合の合間に、過去の出来事なども挿入され、ズンズンと感情が高まっていく。そしてついに……。ラストは素直に感動して、思わずウルウルきてしまった。

スポーツ選手の再起物語に家族の絆ドラマを絡め、迫力、笑い、感動を詰め込んでテンポよく描いた作品だ。エンタメ映画として、なかなか充実した作品だと思う。それにしてもマ・ドンソク。相変わらずいい味出してるなぁ~。

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◆「ファイティン!」(Champion)
(2018年 韓国)(上映時間1時間48分)
監督・脚本:キム・ヨンワン
出演:マ・ドンソク、クォン・ユル、ハン・イェリ、チェ・スンフン、オク・イェリン、カン・シニョ、ヤン・ヒョンミン、イ・ギュホ
*シネマート新宿ほかにて10月20日(土)より公開。
ホームページ http://fightin.ayapro.ne.jp/