「ソウルメイト」
2024年2月23日(金)グランドシネマサンシャイン池袋にて。午後3時25分より鑑賞(スクリーン2/D-4)
~2人の女性の絆を描いたシスターフッド映画。みずみずしさと切なさと
先日、「風よ あらしよ 劇場版」を観た時に予告編が流れてきて、とても気になった映画がある。予告編だけで感情が動いてしまった。韓国映画「ソウルメイト」だ。公開初日にさっそく観に行ってきた。
2人の女性の絆の物語だ。あるギャラリーに絵が展示されている。写実的で写真のような絵だ。その絵は公募展で大賞に選ばれた。作者の名前は「ハウン」とわかっているものの、連絡先はわからなかった。そこで、絵のモデルと思われるミソ(キム・ダミ)が学芸員に呼ばれる。だが、ミソはハウンの連絡先は知らないという。
その時、ギャラリーにジヌ(ピョン・ウソク)という1人の男性が訪れる。ジヌはミソを知っているらしかった。だが、ミソは彼を無視してその場を去ってしまう。
その後、帰宅したミソは、あるブログにアクセスする。それはハウン(チョン・ソニ)という女性が自らの過去を綴ったブログだった。そこにはミソが登場していた。
というわけで、そこからはミソとハウンの過去の日々が描かれる。
韓国・済州島のハウンの通う小学校にミソが転校してくる。彼女は母子家庭で何度も転校を余儀なくされてきた。そのため自立心が強く自由闊達な性格だった。一方、ハウンは温かな家庭に育ち、おとなしくて堅実な性格だった。正反対の性格の2人は、磁石の両極がひかれあうように親しくなり、友情をはぐくむ。
2人の最初のエピソードからして面白い。ミソは母親に反発して学校から脱走する。小高い山のような場所に登ったミソを、ハウンが追いかけてくる。ミソは意気揚々とハウンにも登ってくるように言う。だが、ハウンは高いところは苦手だと尻込みする。ミソは言う。「目をつぶれば平気だよ」。
このエピソードが2人の関係を象徴する。いつもミソはハウンの先を行き冒険をする。そんなミソをハウンはあこがれのような気持ちで見ている。ミソはハウンをなにかと気遣う。それは単なる友情を超えた、まさに「ソウルメイト」とも言うべき関係だ。
そんな2人をミン・ヨングン監督は、生き生きとみずみずしく描き出す。雨の日に拾った子猫などのアイテムや、ジャニス・ジョップリンなどの音楽も巧みに使いながら、2人の青春のキラキラした輝きを映しとる。
絵に関しても2人は対照的だった。ミソは絵を描くことが好きで、性格通りに自由な絵を描く。一方のハウンは落書きをする程度だったが、その絵は写実的で写真のようだった。この設定が映画の随所で効果を発揮する。
そんな2人に転機が訪れたのは、17歳の夏。ハウンに好きな人ができる。それはジヌという青年で、まもなくハウンとジヌは恋人になる。だが、ミソと3人で大学の合格祈願に出かけた時のある出来事から、ミソとハウンは気持ちがすれ違う。
このあたりの描き方もうまい。仲の良かった友人同士の関係に、ほんの些細なことでヒビが入り、それまで表面化していなかった性格の違いが一気に露呈するというのはよくあること。それをノスタルジックな色合いもにじませながら見せる。それゆえ誰もが共感してしまうのだ。
これ以上ハウンといればおかしなことになる。そう思ったミソは済州島を離れてソウルで暮らすことを決意する。ソウルでの暮らしは想像以上に過酷だったが、ミソは絵の勉強をしながら外国を旅しているとハウンに手紙を出す。それは嘘の手紙だった。
それから5年。2人は再会を果たす。しかし、2人で一緒に出かけた釜山旅行で、価値観の違いによってミソとハウンは大ゲンカする。それを機会に2人は疎遠になってしまう……。
長きにわたる2人の関係は、何度か仲たがいしたり、仲直りしたりを繰り返すが、それでも完全に離れることはなかった。しかし、この時ばかりは様子が違っていた。その後にも波乱の出来事が起きて、ミソとハウンの関係は決定的な事態に至る。
終盤は次々に大きな出来事が起きる。ミソの恋人が自殺したり、ハウンが結婚式場から逃げ出したり。考えようによっては陳腐だったり、嘘くさくなりそうな展開だが、そうなる前に寸止めするあたりが巧みな職人ワザだ。
また、直接的ではないが、日本と同様に韓国の女性の生きづらさもドラマの背景として描かれている。
そして、そして、終盤には驚きの展開が待っている。ミソとハウンの絆を再確認するとともに、運命のいたずらともいえる出来事によって、悲しく切なすぎる結末に雪崩れ込むのだッ!!
これもまあ、あざといといえばあざといのだが、ここに至るまでにミソが「27歳で死にたい」と言ったり、ミソの子供らしき幼児をチラチラ出没させたりと、小憎らしいまでの前フリがあるので、素直に感動してしまう。私なんかもう涙腺ウルウルだもの。なに? 年のせいだろう? お黙りなさい!!
ミソとハウンを演じたキム・ダミとチョン・ソニが素晴らしい! 若い頃のきらきらした様子も、成長して色々と変化が訪れた姿も、実に生き生きと演じていた。ちなみに、キム・ダミは大ヒットドラマ「梨泰院クラス」や映画「The Witch 魔女」に、チョン・ソニはドラマ「ボーイフレンド」にそれぞれ出演しているとのこと。
本当に韓国映画は観客の感情を揺さぶるのが巧みだ。わかっていても感動してしまうのだから。ラストシーンの風景の美しさも出色。上質のシスターフッド映画で感涙必至です。
む? なになに? この映画は香港のデレク・ツァン監督(当ブログでも取り上げた「少年の君」の監督)の2016年の中国・香港合作映画「ソウルメイト 七月と安生」の韓国版リメイクらしい。リメイクでこれだけよくできた作品なのだから、ぜひともオリジナルを観なければ!
というわけで、先ほどオリジナル版の「ソウルメイト 七月と安生」を配信で観たのだが、こちらも見事な作品だった。オリジナル版ではウェブ小説だったところを、リメイク版では絵に置き換えている程度で、あとはほぼ同じ。それだけオリジナル版がよくできていたということだろう。主演のチョウ・ドンユイとマー・スーチュンもリメイク版の2人に負けず劣らず魅力的。リメイク版を観たならば、ぜひオリジナル版もご覧くださいませ。
◆「ソウルメイト」(SOULMATE)
(2023年 韓国)(上映時間2時間4分)
監督:ミン・ヨングン
出演:キム・ダミ、チョン・ソニ、ピョン・ウソク、チャン・ヘジン、パク・チュンソン、カン・マルグム、ナム・ユンス、ヒョン・ボンシク、キム・スヒョン、リュ・チアン
*新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://klockworx-asia.com/soulmatejp/
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