映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ゴールド 金塊の行方」

「ゴールド 金塊の行方」
TOHOシネマズ シャンテにて。2017年6月1日(木)午前11時より鑑賞(スクリーン2/E-12)。

「山師」という言葉がある。もともとは山を渡り歩いて地下資源を探す人たちのことだが、目論見通りに発見できるとは限らない。一発当てれば大金持ちだが、空振りに終わる可能性もある。そんな一発屋的なイメージが原因だろうか。いつの頃からか「山師」は、投機的な事業で金儲けを企てる者や詐欺師のことを指す言葉になってしまった。

「ゴールド 金塊の行方」(GOLD)(2016年 アメリカ)は、まさに山師の映画といえるかもしれない。アメリカで実際に起きた鉱山ビジネスを巡る一大スキャンダルを、マシュー・マコノヒーが製作、主演で映画化した作品だ。

1981年。ネバダ州のリノ。ケニー・ウェルス(マシュー・マコノヒー)は、祖父が起こし父が発展させた採掘会社「ワショー社」の経営を任される。その時の彼は若さにあふれ、採掘ビジネスに誇りを持ち、希望に満ちた姿をしている。

ところが、その7年後、ワショー社の事業は振るわず、業績も株価も低迷し、銀行や投資家にも相手にされず倒産寸前に追い込まれている。ケニーは家もなくして、昼は家具店、夜はバーで働く恋人の家に転がり込んでいる。そして、この時の彼の外見は7年前とは一変している。前頭部がハゲあがり、体はデブデブなのだ。おそらくストレスから酒を飲みまくり、その挙句にこんなふうになってしまったのだろう。

そんなにっちもさっちもいかない、ダメ中年のケニーは、ある日夢を見る。それは金を採掘するインドネシアの光景だ。そこでケニーは恋人の時計を勝手に売り払い、旅費を作ってインドネシアに向かう。

そして現地でパートナーに迎えたのが、地質学者のマイケル・アコスタ(エドガー・ラミレス)だ。以前は採掘関係者に注目されていた彼だが、そのもとになった学説が否定され、今はまったく相手にされていない。つまり、ケニーもダメなら、マイケルもダメ。ダメダメ2人組だ。彼らはどうにかかき集めた資金を元手に、インドネシアの山奥で起死回生をかけて金脈探しを始める。

その金脈探しの過程が実に面白い。最初は試掘を繰り返しても、大したものは出てこない。その作業に従事した労働者たちも逃げ出してしまう。おまけにケニーはマラリアにかかって死にかけてしまう。それでもどうにか労働者を呼び戻して、試掘を再開した2人に、やがて朗報がもたらされる。試掘した金は想像を絶するもの。彼らはついに巨大な金脈を掘り当てたのだ!!

こうして一夜にして成功者となったケニー。そのニュースはウォール街を駆け巡り、大量のマネーが群がってくる。ここからはウォール街を舞台にした経済映画と似た面白さが味わえる。生き馬の目を抜くマネーゲーム。虚々実々の駆け引きがスリリングに繰り広げられる。

ケニーは投資銀行の面々を無理やりインドネシアの現場に呼んで、いかにスゴイ金脈なのかをアピールする。ワショー社の株は急上昇し、ニューヨーク株式市場に上場を果たす。投資銀行もワショー社にすり寄ってくる。

こうしてケニーはセレブ生活を送るようになる。まさに一発逆転だ。いかにも成金らしい大盤振る舞い。ただし、勢い余って、苦境を支えてくれた恋人とも別れてしまうのだが。

そんな中、ある投資家がケニーたちの事業に関心を持つ。投資銀行は彼らに事業を売り渡して、一線から退くことをケニーに提案する。ケニーはその代わりに大金を手にして、悠々自適の生活が送れるわけだ。ベンチャー企業が大手企業に買収されるケースと同じようなパターンだろう。

ところがケニーはこれを断る。なぜなら、彼はお金よりも採掘ビジネス自体に興味があるのだ。どんなに事前に調査をしてみても、実際に鉱脈を掘り当てられるかどうかは運次第。そんなギャンブル的なスリルが忘れられないのかもしれない。彼の採掘ビジネスへの熱い思いは、終盤近くの表彰式でのスピーチにも表れている。

こうして投資会社の提案を断った彼は痛い目に遭う。あっという間に投資家に事業を乗っ取られてしまったのだ。そこにはインドネシアスハルト大統領や元アメリカ大統領まで絡んでくる。これまたスリリングで意外な展開である。

しかし、ケニーも黙っていない。今度はマイケルとともに、スハルトが溺愛するバカ息子を抱き込んで、事業を奪い返す。こうして最終勝利者になったかと思いきや、後半約30分には予想もつかない出来事が待っている。

実は、映画の中盤から、ケニーが事情聴取を受けているらしいシーンが、あちこちに挿入される。いったいどうしたのかと思ったら、170億ドルの金塊が一夜にして消える大事件が勃発。はたしてその真相は?

結局のところ、本当のワルは誰だったのか? ケニーなのか、マイケルなのか、それとも……。真相は明確ではないのだが、何にしてもスゴイ世界である。アクの強い人物たちが総登場。二転三転する先の読めない展開。こんなに波乱万丈で面白すぎる話は、マシュー・マコノヒーでなくとも映画化したくなるはずだ。

しかし、まあ、マシュー・マコノヒーの成りきりぶりときたら、相変わらず度を越している。アカデミー主演男優賞を獲得した「ダラス・バイヤーズクラブ」では、エイズ患者になりきるために21キロの大減量をしたが、今回はダメ中年を演じるために大増量&ハゲに変身。ロバート・デ・ニーロはじめ役に応じて変身する役者は、映画史上に何人も登場しているが、その中でも出色の存在といえるだろう。

はたして、次はどんな姿で登場するのやら。

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