映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「オリエント急行殺人事件」

オリエント急行殺人事件
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年12月10日(日)午後1時30分より鑑賞(スクリーン5/G-14)。

アガサ・クリスティーといえば、「ミステリーの女王」と呼ばれたイギリスの推理作家だ。その作品には何人かの名探偵が登場するが、個人的に最も親しみを感じるのはエルキュール・ポアロである。といっても小説をきちんと読んだ記憶はあまりなくて、昔、NHKで放送されていた海外ドラマ「名探偵ポワロ」の印象が強いのだが。

そんなポワロが活躍する名作ミステリーを映画化したのが、「オリエント急行殺人事件」(MURDER ON THE ORIENT EXPRESS)(2017年 アメリカ)だ。監督・製作・主演を務めるのはケネス・ブラナー。もともとはシェイクスピアの舞台劇の俳優で、その後映画にも活動の幅を広げ、名優としての地位を築いている。監督としても、「から騒ぎ」などたくさんの作品を送り出し、最近でも「シンデレラ」を手がけている。

ちなみに、「オリエント急行殺人事件」は、1974年にもシドニー・ルメット監督によって映画化されている。

主人公はおなじみの名探偵エルキュール・ポワロ。映画の冒頭で、彼の生き様を象徴する印象的なエピソードが描かれる。ポワロは朝食の2つのゆで卵の大きさが違っていることが、どうしても許せない。まさに完璧主義者というわけだ。そして自らも宣言するように、「この世の中には善と悪のどちらかしかない」と固く信じているのである。

ポワロは、エルサレムで教会の遺物が盗まれ、三大宗教の指導者に嫌疑がかかった事件を鮮やかな推理で解決する。それを披露するシーンで、早くもケネス・ブラナーならではの舞台劇のような迫力の演技が見られる。

事件解決後、休暇をとろうとしたポワロだが、イギリスでの事件解決を依頼され、急遽、豪華寝台列車オリエント急行に乗車することになる。まもなく列車は出発。その直後にポワロに話しかけてきたのは、アメリカ人富豪ラチェット(ジョニー・デップ)だ。彼は「脅迫を受けているから」とポワロに身辺警護を依頼する。しかし、ポワロはそれをあっさりと断る。

そんな中、深夜に雪崩で列車が脱線し、立ち往生してしまう。そして、その車内でラチェットが何者かに刺殺されているのが発見される。鉄道会社から調査を依頼されたポアロは、列車は雪に閉ざされており、犯人は乗客の中にいると確信し、聞き込みを開始する。

というわけで、名探偵ポワロが疑惑の乗客たちに話を聞くシーンが、このドラマの中心となる。教授、執事、伯爵、伯爵夫人、秘書、家庭教師、宣教師、未亡人、セールスマン、メイド、医者、公爵夫人、そして車掌という13人の乗客たちは、くせ者揃いだ。最初は乗客たちにはアリバイがあり、調査は暗礁に乗り上げるかに見える。だが、ポワロの名推理により、彼らの裏の顔が少しずつ明らかになる。

雪の中に閉ざされた列車内でのやり取りがスリルを高める。そして、ここでもケネス・ブラナーの圧倒的な演技力が、ドラマの展開の推進力になる。

それに対峙する乗客たちも、これまた名優や実力派俳優ばかりだ。ミシェル・ファイファーペネロペ・クルスウィレム・デフォージュディ・デンチジョシュ・ギャッドデイジー・リドリーなどなど。オレが大好きな映画「シング・ストリート 未来へのうた」で主人公が憧れる少女を演じたルーシー・ボイントンも、伯爵夫人として出演している。

何せ13人もいるので、一人ひとりの登場時間は短いのだが、その中できちんと自らが背負ったものを表現するのだから、たいしたものである。ベテランから若手まで、存在感あるキャストを揃えたことが、この映画の最大の勝因だろう。ポワロと彼らとの迫力の対決は観応え十分だ。

映像的にも見応えがある。列車が大自然の中を疾走する風景や、高い鉄橋の上で立ち往生した風景などをはさみこみ、さらに列車の外や屋根の上、さらに橋架の下へとカメラが移動して、観客を飽きさせない。登場人物を頭上からとらえた映像も印象的だ。アクションシーンもところどころに用意されている。

やがてこの殺人事件には、未解決の少女誘拐殺人事件が関係しているらしいことがわかる。そして、ついに明らかになる驚愕の犯人。

それをポワロが告げる波面は、実にケレン味にあふれた見せ場タップリのシーンである。まるで「最後の審判」のように、13人を横一列にテーブルを前に並ばせて、その前でポワロが真相を告げる。これもまた、舞台役者であるケネス・ブラナーにしかできない演出と演技ではないだろうか。

やがて列車は復旧して駅に着く。そこでポワルは大きな決断をする。ここで効いてくるのが、冒頭近くで彼が宣言した「この世の中には善と悪しかない」という信念だ。それが、今回の事件を経て変化したことが如実に示されるラストは、なかなかの味わい深さである。ポワロの人間的成長を、しっかりとスクリーンに刻みつけている。

さらに、最後の最後には気の利いたオマケが用意されている。ポワロにナイルで起きた殺人事件の話が持ち込まれる。とくれば、こちらも名作ミステリーの「ナイルに死す」が思い浮かぶ。なるほど、どうやら続編「ナイルに死す」の製作が、やはりケネス・ブラナーの監督・主演で決定しているらしい。そちらも楽しみである。

●今日の映画代、1500円。ユナイテッド・シネマの会員料金にて。

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◆「オリエント急行殺人事件」(MURDER ON THE ORIENT EXPRESS)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間54分)
監督・製作:ケネス・ブラナー
出演:ケネス・ブラナーペネロペ・クルスウィレム・デフォージュディ・デンチジョニー・デップジョシュ・ギャッドデレク・ジャコビレスリー・オドム・Jr、マーワン・ケンザリ、オリヴィア・コールマン、ルーシー・ボイントン、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、セルゲイ・ポルーニン、トム・ベイトマンミシェル・ファイファーデイジー・リドリー
*TOHOシネマズ日劇ほかにて全国公開中
ホームページ http://www.foxmovies-jp.com/orient-movie/