映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「スペシャルアクターズ」

スペシャルアクターズ」
池袋シネマ・ロサにて。2019年10月24日(木)午後12時50分より鑑賞(シネマ・ロサ1/D-9)。

~旅館乗っ取りを芝居で阻止! 「カメ止め」上田監督最新作

昨年大ヒットして社会現象にまでなった「カメラを止めるな!」。結局のところドンデン返しのネタ一発じゃないか……とは思うものの、色々と細かな工夫をして、楽しい映画に仕上げていたのは確かである。人間ドラマに観るべきものはないが、よくできたエンタメ作品だったと思う。

その「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督による長編第2作が、「スペシャルアクターズ」(2019年 日本)である。なにせ前作があれだけヒットしたのだから、プレッシャーは相当なものだったに違いないが、はたしてどんな作品になっているのか。

主人公は売れない役者の和人(大澤数人)。オーディションには落ちるし、バイトも首になるしで散々な日々。そんな中、数年ぶりに再会した弟から俳優事務所「スペシャルアクターズ」に誘われる。その事務所は映画やドラマの仕事の他に、様々な問題を解決するために役者が日常の中で演じる仕事も請け負っていた。

まあ、早い話がこの事務所、便利屋的な仕事もしているわけだ。例えば、「彼女との距離を縮めたい」という依頼が来れば、役者がチンピラになって依頼主の男にからみ、返り討ちに合ってボコボコにされてしまう。すると、依頼人の株が上がりお悩み解決となる。あるいは、「男と別れたい」女性の依頼があれば、役者が彼女の新たな恋人になって登場し、男に別れを迫ってお悩み解決に持ち込む。

そのスペシャルアクターズに、過去にない大きな依頼が舞い込む。“カルト教団から旅館を守って欲しい”というのだ。綿密な計画と入念な演技練習に取り組む役者たち。まずは信者勧誘のセミナーに潜入し、それを突破口に作戦を進める。

そのあたりまでの展開を観て、「何だかスイスイと話が進み過ぎるなぁ~」という思いが禁じえなかった。脚本にタメがないのだ。例えば、スペシャルアクターズのユニークな仕事について、最初から全部明かしてしまう。途中までは「なんか変な事務所だな」と思わせて、「実は……」とタネ明かししたほうがもっと面白かったのではないか。

いや、それ以上に問題がある。主人公の和人には大きな秘密があるのだ。何と極度に緊張すると気絶してしまうのである。だから、何をやってもうまくいかない。役者としても失敗の連続だ。そんな面白いネタを冒頭から全部明かしてしまう。こちらももう少し引っ張って、グッドタイミングでバラせばもっと盛り上がるのに……。

とはいえ、コメディーとしてそれなりに笑えるつくりにはなっている。中盤からは、スペシャルアクターズの面々が、いったいどんな作戦でミッションを遂行するのかという興味で見せる。そこでは、珍妙な教団の実態が面白おかしく描かれる。Tシャツだの、石だの、謎の装置だのの関連グッズを売りつけて資金を稼ぐ様子など、細かなディテールで笑わせる。「ムスー」なる合言葉とポーズもバカっぽくて笑える。

登場人物も奇妙な人物ばかりだ。パーマ頭で一切言葉を発しない教祖。いかにもインチキ臭いその側近、やたらに胸の大きさで男性会員を集める女など、クセ者たちの行状が笑いのネタになる。彼らに攻勢を仕掛けるスペシャルアクターズの面々も、なかなかに個性派が揃っている。

ちなみに、この映画に有名俳優はまったく出演しない。1500人のオーディションから選ばれた15人のキャストが出演し、脚本は彼らにあて書きで執筆された。だから、どれもキャラが立っているし、役にピッタリとはまっている。これは「カメ止め」とまったく同じ手法である。

やがて教団の「裏経典」の存在が明らかになる。それをめぐって、作戦の新たな段階が始まる。いったん作戦成功と思わせて、意外な落とし穴を用意するあたりもソツのないところ。主人公が愛する「レスキューマン」なる外国のテレビドラマを劇中劇として見せ(これがいかにも……という感じのドラマ)、それを終盤の主人公の大活躍と結び付けるあたりも、心憎い仕掛けだ。

ただし、「カメ止め」に比べればやや大人しい感じ。全体にもっとハチャメチャにハジケても良かったと思う。「裏経典」の内容もありがちで期待外れだった。それに加えて、もう少しテンポが欲しかった気もする。ホラー映画仕立てだった「カメ止め」と違い、ユルユルのコメディー映画ということはあるのだが。

そして、何よりも問題なのは「カメ止め」のような大サプライズがないことだ。さすがに二匹目のドジョウはいなかったか……と思ったら、最後の最後にありました、驚きのドンデン返しが。なるほど、これはさすがに予想できなかった。それまでの全てをひっくり返す「カメ止め」を彷彿させる見事なエンディングである。

大ヒットの前作を受けたプレッシャーから逃れるために、全く別のタイプの映画を撮ることもできただろうに、あえて同じ路線を続けた心意気は素晴らしい。「カメ止め」ほどの衝撃はないし、脚本に難があるとは思うものの、気楽に楽しめる作品に仕上がっている。今後の上田監督の作品にも注目したい。

そして何よりもこの映画、作り手も、演者も楽しそうなのが伝わってくる。エンディングに流れる歌が、どこかの小劇団の芝居のエンディングのようで、思わず微笑んでしまった。「カメ止め」以上に手作り感満載。それが本作の最大の魅力かもしれない。

 

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◆「スペシャルアクターズ」
(2019年 日本)(上映時間1時間49分)
監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:大澤数人、河野宏紀、富士たくや、北浦愛、上田耀介、清瀬やえこ、仁後亜由美、淡梨、三月達也、櫻井麻七、川口貴弘、南久松真奈、津上理奈、小川未祐、原野拓巳、広瀬圭祐、宮島三郎、山下一世
丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ http://special-actors.jp/