映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「嘘を愛する女」

嘘を愛する女
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年1月20日(土)午後2時10分より鑑賞(スクリーン5/G-13)。

長澤まさみの演技を最初に観たのはいつだったろう。彼女のフィルモグラフィーを見ると、どうやら2002年の塩田明彦監督の「黄泉がえり」のようだが、脇役だったこともあって印象は薄い。

彼女の存在感を強烈に印象付けたのは、何といっても2011年の大根仁監督の「モテキ」だろう。女優を撮るのに天才的才能を発揮する大根監督のもとで、彼女の魅力がいかんなく発揮されていた。その後の出演作でも、是枝裕和監督の「海街diary」をはじめ、見応えある演技を披露している。

 

その長澤まさみの最新主演作が「嘘を愛する女」(2018年 日本)である。オリジナルの映画企画を募集する「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」の第1回でグランプリを受賞した企画の映画化。監督はCM監督として活躍してきた中江和仁。これが初の長編映画となる。

主人公は食品メーカーで働く川原由加利(長澤まさみ)。バリバリのキャリアウーマンとしてメディアでも取り上げられる存在だ。

映画の冒頭は、彼女が研究医の小出桔平(高橋一生)と知り合うシーン。それは、東日本大震災が起きた当日。電車がストップし、駅で気分が悪くなった由加利を桔平が助ける。それをきっかけに2人は同棲を始める。

そして5年目を迎えたある日。突然警察が訪ねてきて、桔平がくも膜下出血で倒れたと告げる。しかも、彼の運転免許証や医師免許証はすべて偽造されたものだった。職業も名前も全てが嘘だったのだ。

ショックを受けた由加利は、桔平の正体を突き止めるべく、私立探偵の海原匠(吉田鋼太郎)に調査を依頼する。その調査の過程で、桔平が書き溜めていた700ページもの未完成の小説が見つかる。その内容を手掛かりに、瀬戸内海へと向かう由加利だったが……。

サスペンスと恋愛ドラマがミックスされた作品だ。身の回りの人物の身元が全部ウソだったというのは、けっして珍しくない設定だが(結婚詐欺師ネタをはじめ)、その人物が書いた小説を手掛かりに正体を突き止めるという展開が面白い。

その小説は、夫婦と幼い子供の幸せな日々を描いたもの。どうやら、夫は桔平らしい。では、妻と子供は誰なのか? それがこのドラマの大きな鍵になる。

というわけで、ネタ自体はなかなか面白いのだが、残念ながら脚本(中江監督と近藤希実の共同脚本)が物足りなく感じた。まず由加利をはじめ人物のキャラがステレオタイプすぎる。そのため彼らの口から飛び出すセリフも、ありきたりで今ひとつ面白みがない。

せっかく東日本大震災をドラマの起点にしつつ、それだけで終わっているのも何だかもったいない。震災を起点にするなら、そことリンクさせる何かがドラマに欲しかった。

それより何より物足りないのがサスペンスとしての緊迫感だ。由加利と探偵の海原が真相に迫る経緯は、それなりによく考えられているのだが(一度桔平の正体に迫ったと思わせてアララララ……という展開など)、どうでもいいシーンも多くて盛り上がらない。由加利と海原が旅館で同じ部屋に泊まるエピソードなんて不要だろう。全然笑えなかったし。

恋愛ドラマとしての深みもあまりない。これはセリフのつまらなさとも大いに関係していると思うのだが、由加利と桔平の結びつきの強さや、それが崩れた時のショック、切なさがうまく伝わってこないのだ。

それでも終盤に向かうにつれて、ようやく心が動かされ始めた。桔平の正体がついに判明し、それにまつわる悲しく衝撃的な出来事が提示されるのである。

さらに、その後に明かされるのは、小説自体の根幹にかかわる秘密だ。過去を見ていたと思われた桔平が、実はそうではなかった……という事実。それをふまえて由加利が、昏睡状態の桔平に語りかけるシーンが圧巻だ。文句なしに感動せずにはいられない。ここでの長澤まさみの演技は、さすがだという以外にない。

脚本にはケチをつけたが、一方で演出はなかなかのものである。フラッシュバックの使い方をはじめ、いかにもCM監督らしい鮮烈さを感じさせた。

それより何より、この映画の最大の見どころは役者の演技だろう。進境著しい長澤まさみの演技に加え、探偵を演じた吉田鋼太郎が演技派らしい貫禄の演技を披露している。彼の妻を演じた奥貫薫、徐主役を演じたDAIGOなどの脇役の演技にも、見るべきものがあった。

それに対して、この映画の最大の謎は川栄李奈演じるストーカー女である。あの役には何の意味があったのか。ただの賑やかしにしか思えないのだが。せっかく出すなら、もっとドラマ的に意味のある出し方をして欲しかったのである。

とまあ、けっこう文句は付けたものの、けっしてひどい映画ではないし、恋愛サスペンスとしてそつなくまとまっているので、観ればそれなりに満足できるかもしれない。女性は特に由加利に感情移入できれば、心を動かされるのではないか。

ただし、これが「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」のグランプリというのはどうなんでしょう。映画化したくてもなかなかできない面白い企画が、他にもたくさん埋もれていそうな気がするのだが。ねぇ、TSUTAYAさん。

●今日の映画代、1500円。ユナイテッド・シネマの会員料金で。

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◆「嘘を愛する女
(2018年 日本)(上映時間1時間57分)
監督:中江和仁
出演:長澤まさみ高橋一生、DAIGO、川栄李奈野波麻帆初音映莉子嶋田久作奥貫薫津嘉山正種黒木瞳吉田鋼太郎
*TOHOシネマズシャンテほかにて全国公開中
ホームページ http://usoai.jp/