映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ももいろそらを」

ももいろそらを」
2020年4月13日(月)GYAO!にて鑑賞。

~モノクロ映像で瑞々しく綴る女子高生たちの日常と非日常

新型コロナウイルスの影響で東京近郊の映画館は休館中。映画を観ようと思ったらDVDか動画配信に頼るしかない状況だ。というわけで、しばらくは動画配信で鑑賞した作品のレビューでも書こうかと思う。特に、以前に一度劇場で観て「もう一度観たい!」と思いつつ、そのままになっていた映画を中心に取り上げようかと……。それなら無料でも観られるしね。

今回セレクトしたのは「ももいろそらを」(2011年 日本)。公開は2013年。過去に数多くの青春映画を観てきたが、本作はその中でも自分的にかなりの上位にランクされる作品だ。本作が長編デビューとなった小林啓一監督が、全編モノクロ映像で女子高生たちの日常と非日常を綴った青春ドラマである。

冒頭に映るのは次の言葉。
「何らかの罪を犯した
たぶんこれからも何らかの罪を犯すであろう
善を求めるなら
“全てを受け入れなければならない”
私はいまだに出来ないでいる
           2035年9月 いづみ」

公開時に観た時にはよくわからなかったのだが、どうやらこれは主人公の女子高生が、未来から送った言葉であるらしい。

続いて映るのが、高校1年生の川島いづみ(池田愛)の顔。何やら落ち着かない様子で周囲を気にしている。その足元には財布。いづみが拾って中を確かめると、30万円の大金と学生証がある。いづみは、学生証に記載された住所を頼りに、閑静な住宅街の大邸宅を探し当てる。だが、その表札の名前に見覚えがあったことから、図書館に行き古い新聞の記事を探す。そこには「佐藤宏治 千葉県競馬振興会会長に就任」という記事があった。財布の持ち主は、天下り官僚の息子だったのだ。

もやもやとした気持ちを抱えたいづみは学校をサボり、行きつけの釣り堀に足を運ぶ。そこに知り合いの印刷屋(桃月庵白酒)がやってくる。不景気で仕事がなく、リースの印刷機を引き上げられてしまうと嘆く彼に、いづみは拾った財布を渡そうとする。「市民からかすめ取った金だからいいんだよ」と。印刷屋は一度は断るものの、30万のうち20万円だけ借りると言って、借用書と財布をいづみに渡す。

その後、いづみは友人で別の高校へ通う蓮実(小篠恵奈)、薫(藤原令子)と合流する。まもなく、2人はいづみが拾った財布の存在を知ってしまう。そこに入っていた学生証から、持ち主が一学年上の男子生徒、佐藤光輝(高山翼)だと知った蓮実は舞い上がり、財布を届けにいくと言い出す。結局、3人一緒に返しに行くことになる。そこから話は思わぬ方向に転がりだす。

青春映画のポイントは何といっても瑞々しさにある。素晴らしい青春映画を評する時にいつも「瑞々しい」と書くものだから、「他に言葉はないのか?」と言われることがあるのだが、やっぱり「瑞々しい」という言葉が一番ピッタリくるのだから仕方がない。

本作の特徴も、女子高生たちの瑞々しい描写にある。物語全体の構成はやや平板で盛り上がりに欠ける気もするのだが、それを覆い隠すほどの瑞々しさにあふれている。

特に秀逸なのがセリフだ。まあ、女子高生の会話などほとんど耳にする機会はないのだが、それでもいかにも彼女たちが話しそうに思えるセリフばかり。ほとんどしゃべりっ放しのいづみを中心に、ため口だったり、ケンカ腰だったり、弱気だったり、後悔したり、ユニークな言葉がポンポンと飛び出す。いまどきのリアルな女子高生の会話をベースにしつつも、現実にはありそうもない言葉なども組み込んだ魅力的な会話である。

3人の女子高生たちのキャラも立っている。いづみは、部活をするでもなく、どこか覚めた目で日々を送っている。趣味は新聞記事採点。新聞記事を読んで、「-10点」などと点数を書き込むのである。一方、蓮実は素敵な男子とつきあうことを夢見る女の子。自分の名前が気にいらないからといきなり改名したりもする。また、昔は貧乏だったという薫は、なぜか今はけっこうなお金を持っている。

そんな3人がふとしたことから、思わぬ事態に巻き込まれていく。ドラマの中盤から終盤にかけて、いづみ、蓮実、薫は、男子生徒の佐藤光輝の指令により行動することになる。その様子を手持ちカメラを中心に、光を効果的に使ったモノクロ映像で瑞々しく、そして独特のユーモアを込めて描くのだ。

ユーモアといえば、個人的に一番笑ったのが、いづみが釣り堀で会う印刷屋を、なぜか子分扱いしていること。完全に上から目線で接しているし、いい年したおっさんの印刷屋は、いづみのことを「兄貴」とまで呼んでいる。そして、いづみは彼に「男と男の約束だ」などと言うのだ。なんで、そんなことになっているのかは知らないが、とにかく笑うしかなかった。そんなふうに随所に笑いが散りばめられている。

3人のキャストも素晴らしい。池田愛小篠恵奈藤原令子。あの年頃の女の子たちの生き生きとした姿を等身大で演じている。彼女たちの喜怒哀楽が観ているこちら側にそのまま伝わって、心が揺れ動くだけでなく、懐かしさや切なさもこみあげてきた。ちなみに、池田愛小篠恵奈はそれぞれ今も女優として活動しているようだ。藤原令子も2017年頃までは女優をやっていたみたいだけど、今は何をしているんでしょう?

このドラマの優れたところは、単なる女子高生たちの生態描写に終わらないところだ。終盤になると意外な事実が判明し、思いもしない出来事が起きる。そしてラストの火葬場のシーンで、タイトルにある「ももいろ」が、モノクロ映像によってより鮮やかにスクリーンを彩る。本作がモノクロ映像である必然性が、ここでより明確になるのである。

さらに、いづみの成長もクッキリと見せる。失恋してピュアに泣ける蓮実。母の借金を肩代わりするために金を稼ぐ薫。それに対して自分は何にも熱中せず、いつも覚めた態度でいる。そこに違和感を感じて、自分を変えようと決意するいづみ。

とはいえ、そこもシリアスになり過ぎず、ユーモアを込めて描くところがいかにもこの映画らしい。おまけに冒頭のいづみの言葉を思い起こせば、この後もいづみはジタバタしながら生きていくのだろう。まあ、人間なんてみんなそんなもの。成長したとてまた新たな難題が持ち上がる。それでもそれを糧に、一歩ずつ前に進むしかないのである。

本作は2011年の第24回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞を受賞するなど、数々の賞を受賞している。小林啓一監督は、この後、「ボンとリンちゃん」(2014年)、「逆光の頃」(2017年)、「殺さない彼と死なない彼女」(2019年)と、数年おきに印象に残る映画を監督している。そのすべてが青春映画だというのが面白い。

当時の「今」を生きる女の子たちならではのドラマであるのと同時に、普遍的な魅力も持つ青春映画である。当時の女子高生たちが持っていたガラケーも今ではスマホに変わったが、この映画の輝きが色あせることはないだろう。

*写真は公開時に劇場でもらったハガキ。描かれているのは、釣り堀でのいづみと印刷屋とのシーン。

 

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◆「ももいろそらを」
(2011年 日本)(上映時間1時間53分)
監督・脚本・撮影:小林啓一
出演:池田愛小篠恵奈藤原令子、高山翼、西田麻衣渡洋史桃月庵白酒
Amazonプライム・ビデオほかにて配信。東映ビデオよりDVD発売・レンタル中