映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」

「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」
シネクイントにて。2018年11月22日(木)午後12時15分より鑑賞(スクリーン1/G-6)。

~妻を見守る夫の幽霊。壮大なテーマ性を感じさせる不思議な映像詩

幽霊が出てくるお話といえばホラー映画を思い浮かべがち。だが、「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」(A GHOST STORY)(2017年 アメリカ)は、ホラー映画ではない。実に、不思議な映画なのである。

最初に登場するのは郊外の一軒家に住む若い夫婦。名前は明らかにされないが、公式サイトのストーリーを見るとC(ケイシー・アフレック)とM(ルーニー・マーラ)となっている。そんな2人が仲睦まじく会話を交わす。それはごく普通の夫婦の会話。しかし、どこか不穏な空気に心がざわつく。しかも、この家では時折謎の物音がするらしい。

そして、場面は突如として病院に移る。そこに横たわる遺体。それはCの遺体だった。その直前にほんの短く、交通事故後のシーンが映されるから、おそらくCは交通事故死したのだろう。Mは遺体を確認し、シーツをかぶせて病院を去る。

その直後、やおらシーツが持ち上がる。死んだはずのCが、シーツを被ったまま静かに起き上がったのだ。目のところには穴が開いている。そして、そのまま妻のいる自宅へと戻っていくのだった。つまり、夫のCは幽霊になって甦ったのである。

ここでポイントになるのが、この幽霊は他人だけでなく、妻のMにも姿が見えないことだ。しかも、幽霊は意思を伝えることがうまくできない。幽霊になった夫が妻の前に出現し……といえば、ラブストーリーとして名高い「ゴースト ニューヨークの幻」を思い浮かべるが、意思疎通が困難だからああはならない。家に戻っても、ただひたすら妻を見守るしかないのである。

それでも前半はややラブストーリー的な要素も感じられる。Cの死からまもない頃に、Mは友人が持ってきてくれたパイをひたすら食べまくる。その挙句に吐いてしまう。それをCの幽霊がじっと見守る。Mが抱えた悲しみの深さと喪失感の大きさ、そして何もできないCのつらさが伝わってくる。2人の絆の強さを象徴するシーンだ。

だが、その後、Mは新しいボーイフレンドと現れる。その時の幽霊の態度が面白い。感情を抑えることができずに暴れた結果、書棚の本が落ちる。Mがそれを見ると、開いたページには実に意味深な文字が書かれてある。

そして、その直後、妻のMはどこかに引っ越してしまう。Cの幽霊はガランとなった家の中にたたずむ。どうやら幽霊は、この家から動くことができないらしい(地縛霊か!?)。

ちなみに、シーツをかぶった幽霊は隣家にもいる。その幽霊とCの幽霊は窓越しにお互いに手を振って挨拶をする。隣家の幽霊は誰かを待ち続けているらしい。

かくしてMはスクリーンから消えるが、その代わりCとMが暮らしていた家には、南米系の家族が引っ越してくる。それが気にいらないのか、Cの幽霊は家の中をあちこち歩きまわり、物音をたてて子供たちを怖がらせる。それどころか、皿をメチャクチャに投げつけまくるのだ。

この後もいろいろなことがある。なぜかパーティーらしきものが開かれ、そこではある男が「どうせいずれ人間は滅んで、地球も終わる」などとペシミスティック(厭世的)ともとれる発言をする。うむ? これはいったい何なのだ?

続いて家は荒廃し、取り壊しが始まる。その後は高層ビルが建てられる。そうかと思えば、突如として時代をさかのぼり、CとMが暮らした家が建てられる前の時代が登場する。そうやって時間を自由に行き来しながら、Cの幽霊は様々な事象を目撃する。

それにしても何という静謐な世界なのだろう。あまりにも静かで、寝不足で観たら確実に寝落ちしそうだ。何よりも光を効果的に使った映像が美しい。Cが音楽家(らしい)ということもあって、音楽も巧みに使われる。そしてスクリーンサイズは、スタンダードサイズ。つまり通常の映画より幅が狭い。当然ながらセリフもほとんどない。この独特のスタイルが、観客に様々な想像を促す。

ホラーでもなければ、ラブストーリーでもない。脚本も手がけたデヴィッド・ロウリー監督は、この映画で何を言いたかったのだろうか。個人的に思ったのだが、これは幽霊の実態そのものについて考察した映画ではないのか。つまり、それは、霊魂や死後の人間について思いをはせた映画だとも言えるだろう。さらには、人間存在や宇宙にもベクトルが向けられた映画なのかもしれない。それほど壮大なテーマ性を感じさせる。

というところで、オレは「ツリー・オブ・ライフ」をはじめとするテレンス・マリック監督の一連の作品群を思い浮かべてしまった。壮大なテーマ性や映像詩とも呼べる美しい世界観が、マリック監督の作品と共通しているように思えたのだ。

いずれにしても、不思議な映画である。そして、最後には何とも言えない哀切が漂ってきた。けっしてわかりやすい映画ではないが、この独特の映像表現は一見の価値がある。そこから見えてくるものは、おそらく観客それぞれに違うことだろう。

Mを演じたルーニー・マーラは相変わらず美しい。一方、Cを演じたというか、ほぼシーツをかぶったままのケイシー・アフレックの抑制的な演技も印象深い。ちなみに、デヴィッド・ロウリー監督とこの2人は「セインツ 約束の果て」の監督&主演コンビでもある。

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◆「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」(A GHOST STORY)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間32分)
監督・脚本:デヴィッド・ロウリー
出演:ケイシー・アフレックルーニー・マーラ
*シネクイントほかにて公開中
ホームページ http://www.ags-movie.jp/