映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「さらば愛しきアウトロー」

「さらば愛しきアウトロー
TOHOシネマズシャンテにて。2019年7月23日(火)午後7時45分より鑑賞(スクリーン2/C-11)。

~愛すべき老紳士の銀行強盗。軽やかでオシャレで楽しいレッドフォード引退作

バタバタと忙しかったのに加え、風邪を引いたらしく、1週間以上も体調が悪くて映画館から遠ざかってしまった。

この日もまだけっして完調ではなかったのだが、月に一度集団で(といっても約4名)映画を鑑賞する催しがあり、以前からの約束だったため決死の覚悟で出かけた次第。鑑賞した作品は、ハリウッドを代表するスター俳優、ロバート・レッドフォードが俳優業からの引退を宣言し話題となった「さらば愛しきアウトロー」(THE OLD MAN & THE GUN)(2018年 アメリカ)である。

レッドフォードといえば誰もが認める美男俳優で、正統派のラブストーリーから社会派映画まで様々な役を演じているが、意外にコミカルで軽い感じの役を演じた作品も多い。本作でも、実に軽やかなレッドフォードが見られる。

1980年代初頭のアメリカを舞台に、伝説の老銀行強盗を描いた実話をもとにしたドラマである。74歳のフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)は、2人の仲間(ダニー・グローヴァートム・ウェイツ)とともに、いまだに銀行強盗を続けていた。

ただし、強盗といっても凶悪さはない。自身のオシャレなたたずまいそのままに、その手口はどこまでも紳士的で、拳銃をチラリと見せる程度。誰も傷つけることはない。そして、何よりも彼は金のために犯行を重ねるのではなく、銀行強盗そのものを楽しんでいたのだ。

いくら実話といっても、そんな人物がいるとはにわかには信じられないかもしれない。だが、それをレッドフォードが演じるから説得力が出てくる。スター俳優ならではの貫禄と余裕、そして軽やかさが絶妙にブレンドされ、この稀代の人物を魅力たっぷりに見せてくれる。まさに愛すべきアウトロー。嬉々として銀行強盗を続ける彼を見ているだけで、何だかこちらまで楽しくなってくるのである。

そんなフォレストに魅了されるのは観客だけではない。劇中で彼を追うのは刑事のジョン・ハント(ケイシー・アフレック)。無口で武骨な感じの彼だが、家庭では妻と2人の子供とともに幸せな暮らしをしている。そして、ハントもまたフォレストに単なる犯人を超えた不思議な魅力を感じてしまう。

フォレストとハントが直接対峙するのはダイナーでの場面のみだ。そこのトイレでの2人のやりとりが素晴らしい。何とも心憎く、味わいに満ちた2人の交差ぶりに思わず拍手を送りたくなってしまった。

中盤ではハントの追及によって、フォレストの過去が明らかになる。彼は犯行と逮捕、脱走を繰り返し、その過程では家族も捨てていた。そうした人生の苦みが、フォレストをさらに奥行きある人物に見せるのに貢献する。幸せな家庭を築くハントとの対比も明確になる。それによって、フォレストがああいう生き方しかできなかったことを観客に強く印象付け、人生の哀愁もチラリと示すのである。

とはいえ、基本はやっぱり軽くておしゃれな映画だ。この映画の大きな柱の一つにはロマンスがある。車が故障しているところを偶然助けた未亡人ジュエル(シシー・スペイセク)とフォレストのロマンスだ。冒頭近くで知り合ったばかりの2人が飲食店で向かい合うシーンから、センスの良い、ユーモアとウィットに富んだ会話が爆発する。そして、そこでもチラリとそれぞれの哀愁が見える。若いカップルにはない魅力があふれたロマンスなのだ。

ことさらに前面に出てくることはないが、引退作にふさわしく過去のレッドフォード映画を思い起こさせるような場面もある。また、フォレストとジュエルが場末の映画館で古い映画(モンテ・ヘルマンの「断絶」(1971)らしい)を見るシーンなど、古き良き時代のノスタルジーも感じさせる。

この映画の監督・脚本は、レッドフォードたちが主催するサンダンス映画祭で高い評価を得て、最近では「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」というユニークなラヴストーリーを監督したデヴィッド・ロウリー。新たな才能に引退作の監督を託すあたりに、レッドフォードの心意気を感じさせる。そして、映像美で知られる監督だけに、本作の映像も美しい。

ケイシー・アフレックダニー・グローヴァートム・ウェイツシシー・スペイセクなどの脇役たちの存在感も特筆ものだ。いずれ劣らぬ名優揃いだが、出しゃばり過ぎないツボを心得た演技に徹している。

終盤、フォレストはついに御用となる。はたして彼はまた脱走するのか。そこで新たな人生を示唆しつつ、最後には意外な逆転の展開が待っている。なるほど、やっぱり彼はああいう生き方しかできなかったのだなぁ~、と思いつつ、観終わって思わずニンマリしてしまった。

社会的規範からは外れているが、オシャレで幸せ過ぎた男の一代記だ。無条件で楽しく温かな心持ちになれる。こういう引退作を選んだレッドフォードって、本当に小粋な人ですネ。

 

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◆「さらば愛しきアウトロー」(THE OLD MAN & THE GUN)
(2018年 アメリカ)(上映時間1時間33分)
監督・脚本:デヴィッド・ロウリー
出演:ロバート・レッドフォードケイシー・アフレックダニー・グローヴァー、チカ・サンプター、トム・ウェイツシシー・スペイセク
*TOHOシネマズシャンテほかにて公開中
ホームページ https://longride.jp/saraba/