「素晴らしきかな、人生」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年2月26日(日)午後2時30分より鑑賞。
ユナイテッド・シネマとしまえんは、文字通り遊園地の豊島園のそばにある映画館だ。家から歩いて20分ぐらいで行ける。会員なら1500円で鑑賞可能でポイントも貯まる。6ポイント貯まれば1本無料。そのため、あまり観る気のなかった映画でも、つい観に行ってしまったりするのである。
というわけで、ポッカリ時間の空いた日曜の午後。「素晴らしきかな、人生」(COLLATERAL BEAUTY)(2016年 アメリカ)をフラリと観に行ってしまった。
ストーリーはちょっと変わっている。ニューヨークの広告代理店で成功を収めたハワード(ウィル・スミス)。だが、6歳の愛娘を亡くしたことから悲しみで自暴自棄となり、自分を見失ってしまう。ハワードに頼り切りだった会社は傾き始め、同僚のホイット(エドワード・ノートン)、サイモン(マイケル・ペーニャ)、クレア(ケイト・ウィンスレット)は、ハワードをどうにかして救わなければと考える。そんな中、ハワードの前に、性別も年齢もバラバラな3人の奇妙な舞台俳優(ヘレン・ミレン、キーラ・ナイトレイ、ジェイコブ・ラティモア)が現われる……。
「プラダを着た悪魔」のデヴィッド・フランケル監督の作品だが、あんなにキレキレで弾んだ映画ではない。
冒頭は、ウィル・スミス演じるキレ者広告マンのハワードが、仲間の前でスピーチするシーン。成功者らしく自信満々に、「愛」「時間」「死」をキーワードにビジネスをするというポリシーを披瀝する。これが後の話の伏線になる。
続いて、舞台はいきなり3年後に飛ぶ。ハワードは6歳の娘を亡くして、自暴自棄になり、自分を見失っている。会社には来るものの、巨大なドミノ倒しをつくって時間を潰している(実はそのドミノに理由があることが最後にわかるのだが)。
そんなハワードに対して共同経営者のホイットは困惑する。何しろ会社はハワードが頼り。彼がまともに仕事をしないので、どんどん顧客が離れ、買収話が持ち上がっている。幹部のサイモンとクレアも、何とかしなければと焦る。
そんな中、ハワードの前に「愛」「時間」「死」を名乗る3人の男女が次々に現れ、彼の現状を非難する。さぁて、この謎の3人は誰なんでしょう?
て、バレバレじゃないか! 実はこの3人はある計画を思いついたホイットたちが依頼した舞台俳優なのだ。その依頼に至る経緯がつぶさに描かれる。うーむ、この展開はどうなんだ? 3人の身元は謎のままにして、最後のほうで明かすのがベストなんじゃないのか?
そんなモヤモヤ感を抱えたのだが、最後まで観てようやく理解できた。最初はリアルな存在に思えた3人の舞台俳優だが、そうとは断定できない場面が時々登場するのだ。もしかしたら、彼らは本当に「愛」「時間」「死」を象徴するこの世のものではない存在かもしれない。そんなことまで思わせられてしまうのである。
だとしたら、彼らの正体を最初からバラすほうが正解かもね。何しろ、それが彼らの本当の正体かどうかわからないわけだから。
そんなふうにリアルとファンタジーの狭間でドラマが展開する。現実なのか空想の産物なのかよくわからない3人の舞台俳優との出会いによって、ハワードの心は次第に溶け始める。
同時に彼らを雇ったホイット、サイモン、クレアもそれぞれに、親子関係、病気、孤独といった悩みを抱えていて、それが3人の舞台俳優によって少しずつ違う方向に進み始める。
それにしても地味な映画である。こんなに地味でいいんだろうか?
と思ったら、最後に飛び出した衝撃の事実。え、あの2人ってそういう関係だったのか? いやぁ、全然わからなかった。なるほど、それほどハワードの心の傷は深かったわけか。
何だか小説を読んでいるような映画に思えた。かなり抽象的な素材なのに、脚本、演出とも絶妙のさじ加減で、難解さや押しつけがましさを消している。とはいえ何か物足りない。前半に抱えたモヤモヤ感とは別のモヤモヤ感が最後まで残った。全体に今一つ歯車が噛みあっていない感じがする。ユニークな設定が十分に生かされていないのではないか。けっして悪い映画じゃないんですけどね。
この映画の最大の見どころはやっぱり豪華キャストの演技だろう。極端にセリフの少ない中で、ハワードの心理を繊細に表現したウィル・スミスの演技はもちろん、同僚役のエドワード・ノートン、ケイト・ウィンスレット、マイケル・ペーニャ、3人の舞台俳優を演じたヘレン・ミレン、キーラ。ナイトレイ、ジェイコブ・ラティモアも見事な演技で、この地味なドラマを引き立てている。
まあ、彼らの演技を観るだけで、モトが取れたと思うことにしよう。そしてオレはまたユナイテッド・シネマとしまえんに足を運ぶのだ。たぶん。
●今日の映画代、1500円。ユナイテッド・シネマの会員料金。