映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ウーマン・トーキング 私たちの選択」

「ウーマン・トーキング 私たちの選択」
2023年6月3日(土)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後3時10分より鑑賞(スクリーン2/D-11)

~虐げられた女たちの選択は? 濃密で息詰まる会話劇

不当な圧力にさらされてきた女性たちが、声を上げ始めたのは最近のことだ。それに呼応するような映画が「ウーマン・トーキング 私たちの選択」。第95回アカデミー賞で作品賞と脚色賞にノミネートされ、脚色賞を受賞した。

舞台となるのは自給自足で暮らしてきたキリスト教一派の村。この村では、女たちがたびたびレイプされていた。薬を使われ眠らされていた女たちは、男たちから「悪魔の仕業」「作り話」だと言われてレイプを否定されてきた。だが、女たちはそれが悪魔の仕業や作り話などではなく、実際に起きた犯罪であることを知る。男たちが街へ出かけて不在にしている2日間、女たちは自らの未来を懸けた話し合いを行う……。

濃密な会話劇だ。最初に候補になったのは3つの選択肢。男たちを赦すか、それとも残って闘うか、そしてこの村を去るか。投票の結果、残って闘うか、村を去るかの2択となる。

そのどちらを選択するかをめぐって、大きな納屋のような建物で、女たちが息詰まるような会話を繰り広げる。

キリスト教の教義に基づいて敬虔に暮らしてきた女性たちにとって、レイプされた事実を口にするのはそう簡単なことではなかったはずだ。だが、首謀者とみなされる男が逮捕されたのをきっかけに、ダムが決壊するかのように被害を告白し、そして今後どうするかを話し合う。

強硬に闘うことを主張する者、この村を去ることを主張する者、その間で心が揺れ動く者。激しい対立をしながら、彼女たちは話し合いを続けていく。2日というタイムリミットまでに結論は出るのか。

俳優出身のサラ・ポーリー監督は、その話し合いの模様を丁寧に描写していく。聞けば彼女自身、10代半ばで性的被害にあったものの、そのことをずっと黙ってきたという。最近になってそのことを告発し、ホッとすると同時に、長年沈黙してきた罪悪感が消えないという。そのことを知って観ると、この映画の持つ意味がなおさら大きく感じられる。

閉塞した空間の中の会話劇ではあるが単調になることはない。何しろ話し合う女たちがユニークな面々だ。それぞれ個性的なキャラで年齢もバラバラ。演じるのはルーニー・マーラクレア・フォイジェシー・バックリー、ジュディス・アイヴィ、フランシス・マクドーマンドら。ちなみに。マクドーマンドはブラッド・ピッドなどとともにプロデューサーにも名を連ねていて、出番はそれほど多くないがさすがに貫禄の演技だ。

激しい対立の一方で、ユーモラスな面を見せることもある。会話が予想外の方向に転がることもある。

そして、彼女たちに共通するのはいずれもトラウマを抱えていること。それを映像で見せるなど細かな工夫も施されている。

また、基本的には女性と子供だけが出演するドラマだが、唯一、書記役としてオーガスト・エップ(ベン・ウイショー)という青年を配しているのも面白いところ。彼の母親は村を追放され、彼は母の死後村に戻り教師として働いている。そういう背景もあって彼は女性たちの味方だ。さらに、オーガストは話し合いを続けるオーナ・フリーセン(ルーニー・マーラ)に好意を持っている。

そんな色どりも加えつつ、会話劇が展開していくのだが、ドラマの途中でビックリさせられることがあった。いきなりモンキーズの「デイドリーム・ビリーバー」が流れるのだ。え? このドラマって、大昔の話じゃなかったの?

すっかり勘違いしていたのだが、このドラマは2010年という設定。紛れもなく現代のドラマなのである。原作はミリアム・トウズの小説。2005年から2009年にかけて南米ボリビアで実際にあった事件をもとに執筆された。

そうなのだ。現代にもこんな周囲から隔絶されたような村があり、そこでおぞましいレイプ事件が続発していたのである。何と恐ろしい!

とにもかくにも、女たちは話し合いの末にある結論に達し、それに基づく行動をとる。その後は明確には描かれないが、光に包まれた終幕に未来への希望を感じた。

このドラマはもちろん、近年の女性たちの動きを意識したものではあるが、同時にすべての局面において「話し合うこと」の重要性を強調しているのではないか。話し合えばきっとわかり合えるはずだ、と。

何かというと、武力に頼りたがる最近の世界情勢に異議申し立てしているというのは、私のうがった見方だろうか。

何にしてもポーリー監督はじめ作り手の真摯な態度がうかがえる映画だ。地味ではあるが良作である。

◆「ウーマン・トーキング 私たちの選択」(WOMEN TALKING)
(2022年 アメリカ)(上映時間1時間45分)
監督・脚本:サラ・ポーリー
出演:ルーニー・マーラクレア・フォイジェシー・バックリー、ジュディス・アイヴィ、ベン・ウィショーフランシス・マクドーマンドオーガスト・ウィンター、ケイト・ハレット、キラ・ガロイエン、リヴ・マクニール、ミシェル・マクラウド、シェイラ・ブラウン、シーラ・マッカーシー
*TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
ホームページ https://womentalking-movie.jp/

 


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