映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「検察側の罪人」

検察側の罪人
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年8月25日(土)午後2時10分より鑑賞(スクリーン3/E-17)。

~「正義とは何か」をめぐる木村拓哉VS二宮和也の対決

木村拓哉が特に嫌いなわけではない。だが、どうも彼が出演する映画やテレビドラマは観る気がしない。何しろカッコよすぎるのだ。カッコよすぎて面白みがないのだ。まあ、ただのやっかみなのだが。

そんなキムタクの今までとは違った一面が観られる映画が「検察側の罪人」(2018年 日本)である。おまけに本作では、キムタクVS二宮和也という対決まで観られるのだ。

原作は雫井脩介のミステリー小説。監督・脚本は「クライマーズ・ハイ」「わが母の記」「日本のいちばん長い日」など様々な映画を撮ってきた原田眞人だ。

全体の構成は3章立てになっている。冒頭で描かれるのは検察官の卵たちの研修風景。受講者の中には沖野(二宮和也)がいる。彼らを前にして、講師の東京地検刑事部のエリート検事・最上(木村拓哉)が正義について説く。その言葉が、この映画全体の展開に大きくかかわってくる。

やがて、最上のもとに沖野が配属されてくる。そして、沖野には事務官として橘沙穂(吉高由里子)がつく。

そんな中、都内で老夫婦殺人事件が発生し、最上と沖野はこの事件を担当することになる。そこで最上は、被疑者の一人である松倉(酒向芳)という男に激しく反応する。最上は事件は松倉の犯行だと主張する。それを受けて、沖野は松倉から自白を引き出すべく取り調べに力を入れる。

この映画には、犯人捜しのミステリーの側面もあるが、それ以上に大きなウエイトを占めるのが「正義とは何かを」をめぐる社会派ミステリーだ。殺人事件の犯人が松倉だと確信する最上だが、その背景にはすでに時効を迎えた未解決殺人事件がある。松倉はその重要参考人だった。しかも、その事件は最上の過去と深くかかわっていた。だから、最上はどんな形でも松倉を罰したかったのだ。それが最上にとっての正義だったのである。

本作の最大の注目点は、やはりキムタクVS二宮和也の対決だろう。二宮演じる沖野の最大の見せ場は取り調べシーンだ。最初に最上に命じられて、得体の知れない闇ブローカー諏訪部(松重豊)と虚々実々の駆け引きを展開するシーンから引き込まれる。

その後の松倉の取り調べも観応え十分だ。離れた場所から音声を聞き指示を出す最上の意を受けつつ、冷静沈着に松倉に迫る沖野。だが、最上からの指示がなくなったのちに、彼は感情を前面に出して激しく松倉に迫る。そこは鬼気迫る壮絶なシーンだ。思わず息を飲むほどの迫力だった。いかにもサイコパス的な危うさを漂わせる松倉役の酒向芳の怪演も、印象に残る。

一方、キムタク演じる最上の見せ場は中盤以降に訪れる。どうしても松倉を罰したい最上だったが、どうやら情勢は彼にとって不利になる。そこで最上がとる行動は衝撃的なものだ。己が信じる正義のために、彼はどんどん暴走していく。その表情には狂気さえ感じさせる。

だが、同時にその過程では、精神的な弱さや自らの決断に対するためらいなどもチラチラと垣間見せる。そう。彼は根っからのワルではない。自らの信念が、良心のタガをはずし、自分で自分を止められない状況に陥っていくのだ。そこに人間の複雑さと弱さが見える。

例えば、役所広司あたりがこういう役をやるなら驚きはない。だが、ヒーローイメージの強いキムタクが演じる意外性もあって、その演技に思わず引きつけられてしまう。こちらも観応えは十分だ。

そんな最上の様子から異変を感じ取った沖野は、ついに彼と決別する。彼が追求したかったのは、あくまでも「真実」なのだ。こうして最上の正義と沖野の真実がぶつかっていく。

終盤は松倉の裁判をめぐる話へと展開していく。というわけで法廷劇を期待したのだが、そうではなかった。描かれるのは法廷外の動き。それでも、検察と弁護側の攻防戦は興味深いし、それを通して最上と沖野の対立も明確になっていく。

ラストも巧みで心憎いシーンだ。短時間だが静かで熱い最上と沖野の対決シーンが用意され、その後に哀しい結末が提示される。二宮の慟哭がいつまでも心に響く余韻の残るラストである。

とまあ、本作の骨格になるドラマについて述べてきたわけだが、実はドラマはまだまだある。最上の旧友である丹野代議士をめぐる事件、最上の崩壊しかけた家庭の話、諏訪部と最上をつなぐ戦時中のインパール作戦の話などなど。沖野の事務官である橘が実はある目的で検察に潜入していた、などという仰天のエピソードまである。

原作を未読なので断言はできないが、おそらくそれらは原作にあるものなのだろう。過去作でも、こうした錯綜する様々な内容を巧みにまとめてきた原田眞人監督が、今回も巧みにそしてダイナミックに様々なドラマを寄り合わせている。さらに、現代の政治や社会批判、反戦への強い意志まで盛り込んでいるところも原田監督らしい。

その手口は鮮やかなのだが、いくら何でもインパール作戦の話などは消化不良気味だろう。その他にも、もう少し刈り込んだほうがよいと感じるエピソードがあったりもする。そのあたりは、何とかならなかったものかと思う。

とはいえ、全体的には濃厚で観応え十分の映画だった。キムタクVS二宮の対決をはじめ観どころも多い。オレのようにキムタクにいまいち乗れない観客も楽しめると思う。

ただし、内容がテンコ盛りなので、これから観る方は途中で置いてけぼりを食わないようにご注意を。

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◆「検察側の罪人
(2018年 日本)(上映時間2時間3分)
監督・脚本:原田眞人
出演:木村拓哉二宮和也吉高由里子平岳大大倉孝二八嶋智人音尾琢真大場泰正、谷田歩、酒向芳、矢島健一キムラ緑子芦名星山崎紘菜松重豊山崎努
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://kensatsugawa-movie.jp/