映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「スキャンダル」

「スキャンダル」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2020年2月21日(金)午前11時40分の回(スクリーン7/D-8)。

~テレビ局を舞台にしたセクハラ騒動を3人の女優でスリリングに見せる。

セクハラなどの性的被害を告発する「#MeToo(ミートゥー)」運動が広がったが、それに呼応したような映画が登場した。アメリカのテレビ局を舞台にした実際の事件を基に描かれた「スキャンダル」(BOMBSHELL)(2019年 アメリカ)である。

そのテレビ局とは、アメリカで視聴率ナンバーワンを誇るテレビ局FOXニュース。メディア王ルパート・マードックがオーナーで、保守的な論調で知られ、トランプ大統領が大好きなテレビ局である。

映画の冒頭は、そんな局の事情を看板キャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)らが、社内見学よろしく軽妙に紹介するところから始まる。そうである。セクハラ問題を扱ったなどというと、陰湿で暗い映画を想像するかもしれないが、本作はエンターティメントとしての魅力にあふれた作品なのだ。

このドラマは3人の女性を中心に描かれる。最初に登場するエピソードは、メーガン・ケリーとトランプ大統領(当時は候補)との対決。2016年、メーガンは女性蔑視が目に余るドナルド・トランプに対して、女性問題に関する質問をする。それがトランプや支持者の逆鱗に触れて、彼女は大変なバッシングにさらされる。それが、のちのセクハラ問題にも大きくかかわってくる。

続いて登場するのは、同局のベテラン女性キャスター、グレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)。朝の人気番組の担当を降ろされたのを機に、長年セクハラを繰り返してきたCEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)を訴える準備を進める。

そして3人目は、野心的でメインキャスターの座を狙う虎視眈々と狙う若手のケイラ・ポスピシル(マーゴット・ロビー)。彼女は、出世への階段を上るべくロジャーとの面接のチャンスを得る。だが……。

やがて現在の番組も降板させられたグレッチェンは、ついにエイルズCEOを訴える。その訴えの行方をスピーディーかつスリリングに描き出す。事態は二転三転。攻めるグレッチェン側に対して、守るエイルズ側も黙ってはいない。あの手この手で防戦に努める。このあたりの手に汗握る展開が見ものだ。

そこで印象深かったのがFOX社内の同調圧力。彼を支持する人々が揃いのTシャツまで着て、エイルズを守ろうとするのだ。もちろん心から彼を支持する者がいるが、彼がいなくなれば自分たちの生活が脅かされると考えて、消極的に支持する者もいる。

また、局内にはLGBTでヒラリー支持の女性などもいるのだが(彼女とケイラの微妙な関係なども描かれる)、保守メディアということもあって局内では自分を偽り、不正にも見て見ぬふりをしている。何やら日本でもありそうなエピソードのオンパレードだ。

そんなところからもわかるように、本作はセクハラ問題だけではなく、さまざまな社会の在りように対して問題提起しているドラマである。序盤のメーガンVSトランプの対決を通して、トランプ大統領に対する批判も込められている。

さて、グレッチェンによるセクハラ訴訟の鍵は、社内から証言者が出るかどうかだ。元キャスターなど、社外の人間の証言は続々出るのだが、社内に関しては先ほど述べた同調圧力もあってなかなか証言が出ない。

そんな中、悩みに悩むのがケリーである。彼女も、過去にエイルズのセクハラを経験している。だが、それを証言すればトランプや支持者にひどい目に遭わされたように、また恐怖や苦痛を味わうのではないか。そんな疑念から動くに動けない。

一方、ケイラも悩む。ロジャーとの面接を経て出世の扉を開きかけただけに、もしもセクハラを告発すればすべてが水の泡になる。はたして、彼女はどんな決断をするのか。

2人の決断の行方は実際に映画を観ていただくとして、彼女たちの苦悩や葛藤を通じて、セクハラの実態がリアルに見えてくる。それがもたらす心の傷もクッキリと描かれる。エンタメ映画とは言いながら、そこは手抜かりがない。まさに「#MeToo」運動などと陸続きの映画である。

何せエンタメ映画だから、ラストは一応は明確な勝敗を示すのだが、同時にそこに曖昧さも残す。そして何よりも、このドラマに描かれたような問題が過去のものではなく、依然として現在進行形であることを明確に示して終わる。娯楽性とメッセージ性をきちんと両立させた映画だと言えるだろう。

シャーリーズ・セロンニコール・キッドマンマーゴット・ロビーという3人のスターの共演も見もののだ。シャーリーズ、ニコールの貫禄の演技に加え、キャピキャピ女から苦悩の女へと変化するマーゴットの演技もなかなのもの。さらに、セクハラ全開CEOを「いかにも」という感じで見せる、大ベテランのジョン・リスゴーの演技も絶品だ。

ちなみに本作では、シャーリーズ・セロンの特殊メイクを、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」でアカデミー賞を受賞したカズ・ヒロ(辻一弘)が担当し、今作でもアカデミー賞のメイクアップ&スタイリング賞を受賞した。ニュース映像なども登場するとあって、実在の本人に寄せているのだが、なるほど最初はシャーリーズとは思わないほどの見事なメイクだった。

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◆「スキャンダル」(BOMBSHELL)
(2019年 アメリカ)(上映時間1時間49分)
監督:ジェイ・ローチ
出演:シャーリーズ・セロンニコール・キッドマンマーゴット・ロビージョン・リスゴーケイト・マッキノン、コニー・ブリットン、マルコム・マクダウェルアリソン・ジャネイ
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/scandal/