映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」

クワイエット・プレイス 破られた沈黙」
2021年6月21日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時35分より鑑賞(スクリーン7/D-9)

~「音を立てたらアウト!」というネタ一発で上出来の続編

まさか、まさかの大ヒットとなった前作「クワイエット・プレイス」。音に反応して人類を襲う「バケモノ」と、彼らと過酷なサバイバルを繰り広げる一家を描いたサスペンスホラーだ。

その続編となった今作「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」は、前作同様にエミリー・ブラント主演で、長女役のミリセント・シモンズ、長男役のノア・ジュプも続投。監督・脚本も前作同様、ブラントの夫の俳優ジョン・クラシンスキーが再び手がけた。ちなみに、役者としては今回は冒頭のみ出演。

前作の面白さは何といっても「音を立てたらアウト!」というネタ一発にある。映画にとって音は大事な要素。その音を発したら、たちまち命の危険にさらされるという理不尽さ。そこから生まれるハラハラドキドキ感が、最大の魅力だった。

前作のヒットで予算も潤沢になった今作。はたしてどんな映画になっているのか。

確かにセットなどはスケールアップし、大がかりになっている。しかし、基本は前作同様に「音を立てたらアウト!」のネタ一発映画だ。この手の続編にありがちな、新たな設定を前面に押し出すようなこともなく、身の程をわきまえたことが続編としての成功をもたらした。

それにしても、前作であれほどの極限状況に追い込まれ、夫を亡くし、農場の家も失ったエヴリンが普通にしているのはなぜだ? しかも、その夫が元気で活躍しているではないか……と思ったら、これは「Day1」。つまり、前作よりもさらに時間をさかのぼった、恐るべき“何か”が地球に現れた始まりの日なのだ。

まもなくドラマは現在地(「Day474」)に戻る。エヴリン(エミリー・ブラント)と耳の不自由な娘のリーガン(ミリセント・シモンズ)、息子のマーカス(ノア・ジュプ)、そして生まれたばかりの赤ん坊が、新たな避難場所を求めて旅をしている。

そんな中、彼らは、逃げ込んだ廃工場で謎の生存者エメット(キリアン・マーフィ)に遭遇する。

何しろ今回も、音を立てたらバケモノがすかさず襲ってくるのだ。すさまじい緊張感がスクリーンを覆う。しかも、今回は赤ん坊連れである。油断したら、すかさず泣き出してしまう。前作同様にハラハラドキドキ感はかなりのものだ。

前作でもそうだったが、観ている観客は自分たちも音を立ててはいけないような気になってくる。バケモノを刺激しないように、ひたすら身をこわばらせる。緊張感あふれる静寂が映画館全体を包み、息苦しささえ感じるほどだ。

そして今回の最大の見どころは3つのハラハラドキドキが同時進行することだ。まず描かれるのが長女リーガンの旅。ある曲(ボビー・ダーリンの「ビヨンド・ザ・シー」というのが効いている)を流しているラジオ局の存在に気づいた彼女は、その発信源らしい島へと向かう。

そんな彼女をエメットが追う。リーガンが旅立ったのに気づいた母のエヴリンが、エメットに彼女を連れ戻すように頼んだのだ。心に傷を持ち、エヴリンに対しても負い目を感じているエメットは、リーガンに合流すると彼女を守って一緒に旅をする。

一方、エヴリンは、薬品や酸素ボンベを調達するために街に出かける。

さらに、マーカスは工場内を探検する。

リーガン+エメット、エヴリン、マーカス三者三様に襲い来る危機。それを同時並行で描き出す。そのスリルもまた3倍増である。

なにせ音を立ててはいけない設定だから、身振り、手振り、表情で多くのことを物語らねばならないドラマである。そこに手話が加わることによって、なおさら非言語表現の豊かさが際立つ。特に今回は一家の父に代わって、耳の不自由なリーガンが物語の中心になっているから、余計にそれが目立つ。

次々に現れる生存者たちの攻撃から逃れ、マーカスとともに島に渡ったリーガン。そこで、彼らはバケモノにとどめを刺すことができるのか?

ラストも秀逸。リーガンとマーカスが離れた場所で、それぞれが音に錯乱したバケモノに一撃を食らわせる。それは、彼らの成長を明確に刻んだ瞬間だ。彼らこそが、荒廃した地球を救う新世代なのだ。

というわけで、余計なことをせずに「音を立てたらアウト!」というネタ一発にこだわったことで、続編も濃密なスリルに浸れる映画になっている。もちろん1作目の驚きや新鮮さはないが、続編としては上々の出来だろう。

 

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◆「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」(A QUIET PLACE PART II)
(2020年 アメリカ)(上映時間1時間37分)
監督・脚本・製作:ジョン・クラシンスキー
出演:エミリー・ブラントキリアン・マーフィ、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ、ジャイモン・フンスー、ジョン・クラシンスキー、スクート・マクネイリー、オキエリエテ・オナオドワン
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://quietplace.jp/


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