映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「天使の涙」4K レストア版

天使の涙」4K レストア版
2022年9月1日(木)グランドシネマサンシャインにて。午後1時30分より鑑賞(スクリーン6/f-17)

~「恋する惑星」のスタイリッシュさとポップな映像がさらにパワーアップ!

心臓の手術後半年を経て、あちこち不調はあるものの、退院直後の最悪の状態に比べればまだマシか。何にしても、万全のコロナ対策をして映画館へ。今回は、前回の「恋する惑星」の流れに乗って、同じく「WKW4K ウォン・カーウァイ4K」の中の1本、1996年に日本公開された「天使の涙」の4K レストア版を鑑賞。

孤独な殺し屋の男(レオン・ライ)と、そのエージェントを務める女(ミシェル・リー)。お互いに顔も知らず、仕事に私情を持ち込まない彼らだったが、その微妙な関係は揺らぎつつあった。そんな殺し屋に金髪の女(カレン・モク)が恋をする。一方、口がきけない青年モウ(金城武)は、夜ごと他人の店に入り込んで勝手に営業している。ある日、モウは失恋したばかりの女(チャーリー・ヤン)に出会い、恋心を抱く。

以上の5人の男女の物語である。この話は、もともと「恋する惑星」の3つめのエピソードとして予定されていたらしい。しかし、明らかに他の2つのエピソードとは異質で、独立した映画にしたのは正解だろう。

とはいえ、テイストは「恋する惑星」と同じ。「恋する惑星」のスタイリッシュさとポップな映像がさらにパワーアップしている。

クリストファー・ドイルによる映像が冴えわたる。殺し屋の銃撃シーンをスローモーションで描くというのは誰でも考えそうだが、この映画ではストーリー的にはどうでもいいようなシーンまで凝りに凝って撮られている。よくぞまあ、こんな映像を思いつくものだと感心するばかり。「恋する惑星」でも言ったが、これはもはやアートである。

そして、そんな映像から登場人物の心理も浮かび上がる。殺し屋から足を洗うと告げられて心乱れるエージェント、エキセントリックな女に初めて恋をしたモウのトキメキなどなど。ストーリー自体はどうということもないが(「恋する惑星」もそうだったけど)、ウォン・カーウァイクリストファー・ドイルの手にかかると、実に魅力的な映画に仕上がるのだ。

スタイリッシュではあるものの、そこはかとないユーモアが込められているのも「恋する惑星」と同様。今回、ユーモア担当はおもに金城武演じる口のきけない男モウ。そもそも彼が口がきけなくなった原因が、腐ったパイナップル缶を食べたからというのが笑える。「恋する惑星」で、金城武がしこたまパイナップル缶を食べたのを意識した設定だ。

そんなモウは人の店に勝手に入り込んで、勝手に営業をする。それは恐喝や押し売り紛いの商売である。その様子がひたすら笑える。改心したモウが働く居酒屋のオーナーが斉藤さんという人で、やたらに日本語が飛び交うのも面白い。

さらに、終盤はビデオカメラの映像を巧みに使って、映像に変化を持たせる。そればかりか、モウの親子の絆を描いてホロリとさせるのだ。

殺し屋とつきあう金髪女や、モウが好きになる失恋女の行状もまた、笑いを誘わずにはいられない。こういう笑いがあるからこそ、全編を貫くスタイリッシュなタッチがいっそう引き立つのだろう。

ストーリー展開は最後まで予想通り。しかし、そんなことはどうでもよい。モウとエージェントの女が出会い、バイクで疾走するラストシーンまでひたすらカッコいい。

ちなみに終盤で失恋女がCAの格好で現れるのも、明らかに「恋する惑星」を意識したものだろう。この映画を観る人は、事前に「恋する惑星」を観ておいた方が余計に楽しめると思う。

相変わらず音楽もセンスが良い。何だ?この曲は。よくもまあこんな曲を発掘してくるものだ。中国語の曲から英語の曲まで、それぞれのシーンにピッタリの曲が登場。エンディングでフライング・ピケッツの「オンリー・ユー」が流れ出した瞬間、またしても叫んでしまった(心の中でだけど)。カッコいいなぁ~。

そういえば「恋する惑星」の時に言い忘れだが、今回グランドシネマサンシャインでは、BESTIAとかいう最新式の映像&音響システムで上映されたので(その分200円高い)、映像はもちろん音の良さも際立っていた。

レオン・ライ、ミシェル・リー、金城武、チャーリー・ヤン、カレン・モクの俳優陣も素晴らしい。特にミシェル・リーの艶やかさがたまらない。金髪女のカレン・モク、失恋女のチャーリー・ヤンのエキセントリックな演技も見もの。

本作もまた映画のマジックを思い知らされる作品だ。今回4Kになったこともあって、旧さをまったく感じない。30年近く前にこんな映画を作っていたのは驚嘆に値する。新作といっても通用するぐらいだ。ついでにこの機に乗じてウォン・カーウァイ監督、本物の新作を発表したらいかがだろう。旧作でこれだけの入りなのだから、新作ならヒット間違いなしと思うのだが。

◆「天使の涙」(堕落天使/FALLEN ANGELS)
(1995年 香港)(上映時間1時間36分)
出演:レオン・ライ、ミシェル・リー、金城武、チャーリー・ヤン、カレン・モク
*シネマート新宿、グランドシネマサンシャイン、シネマシティほかにて公開中
ホームページ http://unpfilm.com/wkw4k/


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●ついでに前回リンクし忘れた「恋する惑星」の「夢中人」のPVを・・・。私の大好きな曲です。


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