映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
2023年3月3日(金)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後4時30分より鑑賞(スクリーン5/F-10)

マルチバース+カンフー。笑いも満載でやりたい放題の怪映画

いくらSFでマルチバースが流行っているからと言って、誰がカンフーと融合させようと思うだろうか。

それをやってしまっているのがダニエルズ(ダニエル・クワンダニエル・シャイナート監督)。何しろ、腐りかけの死体がガスを放出しながら海を進むという奇想天外な映画「スイス・アーミー・マン」を作ったコンビだもの。

とはいえ、さすがに今回は「スイス・アーミー・マン」のような一発ネタの映画ではない。かなり複雑な話だ。

主人公はアメリカで夫とコインランドリーを営む中国移民のエヴリン(ミシェル・ヨー)。夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)は何だか頼りない。経営が厳しい中で、国税局から納税申告の不備を指摘される。家では頑固な父親の介護に追われ、さらに反抗的な一人娘ジョイ(ステファニー・スー)が女性の恋人を連れてきたからさあ大変。

そんな中、疲れ果てたエヴリンの前に、突如として夫が「別の宇宙(ユニバース)から来た」と告げ、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚きのミッションを託すのだった。エヴリンは、ワケもわからずマルチバースに飛び込むのだが……。

主人公のエヴリンが、いくつもの別宇宙の自分に変身して悪の親玉ジョブ・トゥパキと対決するのがこの映画の最大の見どころ。カンフーの達人になって縦横無尽に暴れまわるのはもちろん、女優、歌手、シェフなど様々な姿に変身するのだ。中には指がソーセージになったエヴリンまでが登場する。

こうやって違う世界を行き来する様を、ものすごいスピードで描き出すものだから、観ているうちに頭がどうにかなってきそうである。目まぐるしく映像が切り替わり、息をつく暇も与えない。もうただ口あんぐり状態だ。役者も、製作陣も、相当な苦労をして撮り上げたのではないだろうか。

ちなみに別宇宙の自分の能力を使うには、「バース・ジャンプ」と呼ばれる技を駆使しなければいけないが、その際にはエヴリンは奇妙な行動を取らねばならない。かくして悪役に「愛している」などと言ったり、絶体絶命の状況で踊り出したり、ハエを鼻から吸い込んだりするのだ。

というわけで、くだらない笑いも満載の映画である。シェフのエヴリンの同僚が頭にアライグマを乗せて登場するなど、おバカさは「スイス・アーミー・マン」以上だ。下ネタもテンコ盛り。あまりにくだらな過ぎて、もうただ笑っているしかない。

とはいえカンフーは本格的だ。特にエヴリンの繰り出すカンフーアクションはさすがの一語。演じるのはハリウッド映画にも数多く出演するミシェル・ヨー。約30年前にジャッキー・チェン主演の「ポリス・ストーリー3」に出演するなど、もともとアクションはお手のもの。それを今回はいかんなく発揮している。還暦ながらすごいキレだ。

夫のウェイモンドも迫力のカンフーアクションを披露している。こちらを演じたのは、1980年代の大人気作「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」や「グーニーズ」で、天才子役として一世を風靡したキー・ホイ・クァン。この人、長い間、映画の裏方に専念していて、俳優としては久々の復帰というのだが、なかなかに良い味を出している。

ついでに娘役のステファニー・スーも存在感十分だ。

こうしてアジア系俳優が主要人物を演じる映画がアメリカでヒットするというのも、時代の変化を感じさせますなぁ~。

過去の映画へのオマージュ(パロディ?)もたっぷり込められている。アジア映画や日本映画も含めて、ダニエルズが影響を受けたと思しき作品があちこちに。それにしても、「レミーのおいしいレストラン」を異様に推すのはなぜなんだ?

ジェイミー・リー・カーティス扮する国税局員が、マルチバースの悪役としてエヴリンの前に出現するものの、いつの間にか娘のジョイに悪役がスイッチして(ジョブ・トゥパキが乗っ取ったらしい)、後半は母娘の対決へと移行。

そんな中、登場人物が石になって会話(テロップ)を繰り広げたり、人形が出たり、絵が出たりともはやカオス状態。

そんな中で、終盤には夫婦愛、家族愛の物語も紡ぎだし、多様性の大切さなどもさりげなく訴えるあたり、ただおバカなだけの映画ではないところもしっかり見せる。このあたりが、第95回アカデミー賞で作品、監督、脚本、主演女優ほか最多の10部門11ノミネートを果たした所以かもしれない。

平凡な主婦のエヴリンがマルチバースに飛ぶ背景には、「もしもあの時違う選択をしていたら」という誰もが持つ思いがあることも、この映画をさらに魅力的にしているのだろう。

マルチバース+カンフーという奇想天外な映画だ。SFに加えコメディー、アクションなどごちゃ混ぜで、ダニエルズがやりたい放題に好きなことをやっている。はっきり言って、ついていけない人もたくさんいそうだが、ここまで好き放題やられたらもはや降参するしかない。まさに過去の常識を超えた怪作です。

◆「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE)
(2022年 アメリカ)(上映時間2時間19分)
監督・脚本・製作:ダニエル・クワンダニエル・シャイナート
出演:ミシェル・ヨー、ステファニー・スー、キー・ホイ・クァン、ジェニー・スレイト、ハリー・シャム・Jr、ジェームズ・ホンジェイミー・リー・カーティス
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/eeaao/

 


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