映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「コンペティション」

コンペティション
2023年3月23日(木)新宿シネマカリテにて。午後3時15分より鑑賞(スクリーン1/A-9)

~暴走しまくりの監督と2人の俳優。皮肉のきいたシュールな笑いがたっぷり

 

映画界の内幕を描いた映画はたくさんある。だが、ここまで強烈な映画はそうそうないだろう。2021年の第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品の「コンペティション」である。監督は、日本でも「ル・コルビュジエの家」「笑う故郷」が公開になったアルゼンチンのガストン・ドゥプラットマリアノ・コーン

大富豪の起業家が自らの名声を残そうと映画の製作に乗り出す。一流の監督と俳優を起用し傑作映画を目指すという。監督には受賞歴のある天才肌のローラ(ペネロペ・クルス)が、そして俳優には実力派の舞台俳優イバン(オスカル・マルティネス)と有名映画スターのフェリックス(アントニオ・バンデラス)が決まった。2人が演じるのは兄弟の確執が描かれたノーベル賞作家の作品。大富豪は大枚をはたいて映画化権を買い、いよいよ撮影準備に入る。

だが、そこからが大変だ。何しろローラ監督はとんでもない変わり者。本読みの段階から2人に完璧な演技を要求する。自分が納得するまで、何度も同じセリフを延々と言わせる。そのぐらいなら2人もまだ我慢できるかもしれない。だが、その後がさらに大変なのだ。

これは映画のポスタービジュアルにも出ているが、クレーンで吊るした巨大な岩の下でイバンとフェリックスにセリフを言わせるのである。いつ落下するともしれない恐怖感の中で演技をさせるのが目的らしいが、もはや狂気の沙汰である(実はそこには裏があるのだが)。

さらに、2人をラップでぐるぐる巻きにして、その前で2人の大切なものを破壊するという謎の行為に出る。何じゃ? そりゃ。まったく意味不明の演技指導。これまた狂気の沙汰である。

相手役の女優をめぐって、2人の役者ばかりか、ローラ監督まで加わってキス合戦を展開するというバカバカしいシーンもある。しかも、同性愛者らしいローラ監督のキスは、壮絶なまでに激しいのである。

こんなふうに、この映画にはシニカルでブラックでシュールな笑いが詰まっている。毒気がタップリで刺激的だ。最初から最後まで笑いっぱなしだった。こんなに笑える映画は、久しぶりに観たような気がする。

アクの強い監督にもてあそばれる2人の俳優。だが、この2人も負けず劣らずアクが強い。まず舞台俳優のイバンは、自分の演技に自信を持ち(学校で教えてもいる)、人気などどうでも良いと思っている。一方のフェリックスは典型的な映画スター。演技力はないくせに、人気こそすべてと考えている。おまけに女癖も悪い。

要するに2人とも自分が一番だと思っているワガママ男なのだ。その2人が兄弟を演じるのだから、馬が合うはずがない。初共演の2人は最初からずっとケンカしている。そのすったもんだも面白い。

ローラ監督も2人を仲良くさせようなどとは思っていない。だから、ケンカを助長するような演技指導をするわけだが、それがエスカレートして撮影に支障をきたすと今度はブチ切れる。こちらもワガママでは負けていない。

そんなローラ監督にもてあそばれていたフェリックスが、反撃する場面が中盤にある。これがまあ大傑作なのだ。観ているこちらも一瞬だまされそうになってしまった。

とはいえ、劇中の芝居は実力派俳優が演じているので本格的である。クランクイン前の最終リハーサルで、兄弟の破局を描く場面を演じるが、そこはそのまま独立した映画にしたいぐらいの迫真の演技だった。

そして、その先に待っているのは、クランクイン前のパーティーでの予想もしない出来事。はたして映画は完成するのか? それは見てのお楽しみ。いずれにしても、驚愕のラストまで全く目が離せなかった。

ローラ監督を演じるのはご存知ペネロペ・クルス。真面目な顔でブチ切れた演技を披露するので余計に笑える。彼女が踊るダサいダンスにも爆笑。フェリックスを演じるアントニオ・バンデラスは、いかにも映画スターのオーラを出しまくった演技。イバン役のオスカル・マルティネスは、それとは対照的な舞台俳優らしいたたずまい。こうして3人の演技派を揃えたことが、この映画をさらに面白くしている。

本作が映画の世界をおちょくっているのは間違いない。その矛先は映画賞などをありがたがる観客にも向けられているのかもしれない。

とはいえ、完全に絵空事とも思えないのがちょっと怖いところ。ここに描かれていることは極端だが、「もしかしたらあれに近いことが実際にあるんじゃないの?」と思わせたりもする。

そして確かに真実もある。パーティーでローラが「理解できないものの中に大切なものがある」という主旨の発言をしているが、あれはどう見ても映画にわかりやすさばかりを追い求める観客に対するメッセージだよなぁ~。

などという難しいことを考えなくても、ひたすら笑える映画だ。笑いの好みは人それぞれだが、シニカルでシュールな笑いが好きな方はぜひ。

◆「コンペティション」(COMPETENCIA OFICIAL/OFFICIAL COMPETITION)
(2021年 スペイン・アルゼンチン)(上映時間1時間54分)
監督:ガストン・ドゥプラットマリアノ・コーン
出演:ペネロペ・クルスアントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネス、ホセ・ルイス・ゴメス、イレーネ・エスコラル、マノロ・ソロ、ナゴレ・アランブル、ピラール・カストロ、コルド・オラバリ
*都新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://competition-movie.jp/

 


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