映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「枯れ葉」

「枯れ葉」
2023年12月18日(月)新宿シネマカリテにて。午後2時45分より鑑賞(スクリーン1/A-7)

カウリスマキ監督が不穏な今の世界で「愛」に希望を託す

ご存知フィンランドの名匠アキ・カウリスマキ監督。「何だか最近は新作がないな」と思ったら引退宣言していたのね。でも、それを撤回して2017年の「希望のかなた」以来6年ぶりに映画を製作。それが新作の「枯れ葉」だ。

お話はシンプルなラブストーリー。主人公はスーパー勤務のアンサ(アルマ・ポウスティ)。孤独で貧しい暮らしをしていた彼女は、ある日、賞味期限切れの商品を持ち帰ろうとして、スーパーを解雇されてしまう。

一方、同じく孤独な労働者のホラッパ(ユッシ・バタネン)は、酒浸りで仕事中にも飲んでいるのがバレて、こちらも解雇されてしまう。そんな孤独な2人が惹かれ合うようにカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないうちに恋に落ちる……。

というわけで、もはや若くはない孤独な男女の恋愛模様が描かれる。となれば、これはもうベタなラブストーリーを想像しがちだが、そこは独自の世界観で知られるカウリスマキ監督。全編でカウリスマキ節が炸裂する。

登場人物はみんなほぼ無表情で不愛想。セリフも最小限だ。何が気に入らなくて、そんな仏頂面をしているのかと思うのだが、そんな中で時折わずかに見せる微笑が、とびっきりの笑顔に見えてくる。

とぼけたユーモアが満載なのもいつものこと。最初に2人が出会うカラオケバーで、ホラッバの先輩の言動が笑いを誘う。彼は素晴らしい美声の持ち主なのに、歌は微妙に音程を外している。それでも本人は自信満々で「スカウトに来ないかな」などと言い放つのだ。

アンサとホラッパの最初のデートシーンもユーモラス。2人は映画館に行くのだが、そこで上映されているのがジム・ジャームッシュの「デット・ドント・ダイ」。初デートがゾンビ映画かよ! それを真面目な顔をして観ている2人に思わずニヤリとしてしまうのだ。

その映画館にはたくさんの映画のポスターが貼られている。その他にもゴダールブレッソンの名前も登場するなど、いろいろと映画ネタが飛び出す。これまたカウリスマキ監督らしいところだろう。

全編で多彩な音楽が流れるのも特徴。前述したカラオケバーでは、様々な人がバラエティーに富んだ歌を歌う。その他にも、随所で効果的に音楽が流れてくる。終盤に登場する女のコ2人のバンド(マウステテュトットという姉妹バンドらしい)もなかなか味わいがある。日本好きのカウリスマキ監督らしく「竹田の子守歌」も流れてくる。

そんなわけで、いつも通りの哀調を帯びた映像の中で演じられるラブストーリー。不器用な2人は名前も知らないままデートし、その後、ようやくアンサが連絡先を渡す。だが、よりによりってホラッパはそれをなくしてしまい、2人はすれ違ってしまう。

それでも2人はようやく再会し、アンサの家で食事をするが、そこでホラッパのアルコール依存が発覚する。

その後の展開はネタバレになるから言わないが、終盤にもすれ違いのドラマが起きる。まさに古典的なメロドラマだが、そこにカウリスマキ監督は現代性を持ち込んでいる。

本作で特徴的なのは、何度もラジオのニュースが流れることだ。それはロシアに侵攻されたウクライナに関するニュース。甚大な被害を報告するニュースを聞いて、アンサはいい加減にしてくれといった表情をする。戦争を非難するようなセリフもある。

カウリスマキ監督は、ウクライナでの戦争に集約される不穏な世界で、アンサとホラッパのピュアなロマンスを対比させ、「愛」の強さと美しさを際立たせて見せた。こんなクソッたれな世の中だからこそ、カウリスマキ監督はあらためて愛に希望を託したのではないだろうか。

この映画のラストシーンは、枯れ葉が舞う秋。名曲「枯れ葉」の流れる中、素敵な終幕が訪れる。観終わって、何とも言えない感慨に浸ることができた。

ちなみに、後半、殺処分を免れた一匹の野良犬が、アンサの日常にぬくもりをもたらす。その犬の名が「チャップリン」というのも気が利いた仕掛けだ。

アンサを演じたアルマ・ポウスティは、不当解雇されても自ら次の職を探し、ホラッパを諫める強さを持った女性を力強く演じた。

ホラッパを演じたユッシ・ヴァタネンは、ダメダメな男でありながら、映画館でアンサを待ち続ける一途さも表現する巧みな演技だった。

カウリスマキ監督の作品のファンはもちろん、そうでない人の心にもジワジワと染み入りそうな映画である。

◆「枯れ葉」(KUOLLEET LEHDET)
(2023年 フィンランド・ドイツ)(上映時間1時間21分)
監督・脚本・製作:アキ・カウリスマキ
出演:アルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネン、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴ、マッティ・オンニスマー、シーモン・アル=バズーン、マルティ・スオサロ、サカリ・クオスマネン、マリア・ヘイスカネン、アリナ・トムニコフ、マウステテュトット
ユーロスペース、新宿シネマカリテほかにて公開中
ホームページ https://kareha-movie.com/

 


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