映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「PERFECT DAYS」

「PERFECT DAYS」
2023年12月26日(火)kino cinema新宿にて。午後2時25分より鑑賞(THEATER1/D12)

~変わらない日常の中で起きる細やかな出来事と心の揺れ動き

ちょっと体調が悪くて病院に行ったりなんだりで、1週間以上映画館に行けませんでした。皆さんのブログにもあまり伺えず。今後も体調に配慮しつつ、更新できる時に更新する感じになりますが、よろしくお願いいたします。

というわけで、この日行ったのは新宿に新しくできた映画館「kino cinema新宿」。以前はEJアニメシアター新宿(旧 角川シネマ新宿)があったところ。なかなかおしゃれな雰囲気で良い感じに仕上がっていた。木下グループというバックがついているとはいえ、ミニシアターには違いないので頑張って欲しいと思う。

そして観たのは「PERFECT DAYS」。「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」のヴィム・ベンダース監督が日本を舞台に撮った映画だ。

下町のアパートで一人暮らしをする平山(役所広司)。毎朝決まった時間に起床し、缶コーヒーを買って、車で好きな音楽をカセットテープで聞きながら渋谷の公衆トイレに向かう。そこで黙々と清掃作業をこなし、休憩時間には公園で木漏れ日を撮影する。帰宅後は銭湯の一番風呂に入り、いつもの居酒屋で食事をする。そして文庫本を読みながら就寝する……。

この映画に登場する渋谷の公衆トイレはみんなおしゃれだ。それもそのはず、本作は東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に関係しているらしい。

とはいえ、トイレ掃除といえばなかなか人がやりたがらない仕事だ。それでも平山は毎日丹念にトイレを磨く。彼は極端に無口だが、偏屈というわけではない。むしろとても優しい男だ。劇中で彼が怒るのは、辞めた社員のおかげでシフトがめちゃくちゃになった時だけだ。

そして、家に帰れば平山は好きなカセットテープと文庫本を除けば、ほとんど物を持たない。まさにミニマルな暮らし。そして仕事の途中で見つけた苗木を湯呑み茶碗などに植えて、毎日水をやる。

前半は、そうやって同じ毎日を繰り返しているように見える平山を淡々と描く。起きる出来事は、トイレで迷子の子供を見つけたり(すぐに母親が来て事なきを得る)、若い同僚タカシ(柄本時生)がいろいろと話しかけてくるぐらいである。

ただし、平山の夢と思しきイメージ映像が短く挿入されたり、東京の街の風景が実に生き生きと捉えられているので飽きることはない。公園の木漏れ日、川や橋、高速道路……。どれも見慣れた光景だが新鮮に映る。

中盤以降、少しずつ様相が変わり始める。平山は、タカシの片思いに手を貸すハメになる。車に3人で同乗し、危うくカセットテープを売り飛ばされそうになり、やむなくなけなしの金をタカシに貸す。後日、タカシの片想いの相手が思わぬ行動に出て、平山は戸惑う。平山の表情が様々に変化する。

その後、平山のもとに姪のニコ(中野有紗)が家出して押しかけて来る。ニコは平山のアパートに寝泊まりして、仕事にも同行する。2人の交流が微笑ましく描かれる。そこでの平山はとても饒舌だ。

そして、この出来事が平山の過去につながる。ニコの母親、つまり平山の妹が迎えに来て、兄妹は久々に再会する。どうやら平山は複雑な過去を抱えているらしかった。現在のような生活を送るようになった原因は、そこにあるのかもしれない。

終盤には、平山が行きつけの小料理屋のママ(石川さゆり)の元夫(三浦友和)と遭遇するエピソードが描かれる。複雑な事情を抱える元夫と平山。2つの心が触れ合う。

このように、平板で単調に見える平山の毎日にも様々な出来事が起きる。それに対して、平山はけっして取り乱したり、バカにすることなく、誠実に向き合う。そのことが彼の感情を揺さぶる。新鮮な喜びもたくさんある。劇中で「1人で寂しくないか?」と問われた平山は複雑な表情を見せるが、実際のところ彼は彼なりに満たされた日々を送っているのだろう。

そんな平山を演じる役所広司の演技が素晴らしい。ほとんどセリフもなく、その表情だけで多くを物語る。特にラストシーンの車の中での彼の表情は圧巻だ。何も語らずとも、胸の内の思いがそこに集約されている。今さら言うまでもないが名優である。第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞に輝いたのもむべなるかな。

その他のキャストも面白い。特にニコを演じた中野有紗の瑞々しい演技が目を引いた。有名俳優が思わぬ場面でチラッと出ていたりするから、そういうお楽しみもあったりする。

音楽通のベンダース監督らしく音楽も印象的。最初のザ・アニマルズの「朝日のあたる家」からルー・リードの「PERFECT DAY」、金延幸子の「青い魚」、オーティス・レディングの「ドック・オブ・メイ」などが平山の心情を表すように流れてくる。石川さゆりが「朝日のあたる家」の日本語バージョンを歌うのはご愛敬。

現実には平山のような生き方は難しい。だが、それでも「こんな生き方をしてみたい」と思わせられる。荒涼たる現実社会の中のオアシス。そんな映画だ。シンプルではあるが、実に清々しい。

私も文句ばかり言っていないで、平山のように超然と生きたいものである。まあ、どう考えても無理だろうけど(笑)。

◆「PERFECT DAYS」(PERFECT DAYS)
(2023年 日本・ドイツ)(上映時間2時間4分)
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司柄本時生、アオイヤマダ、中野有紗麻生祐未石川さゆり田中泯三浦友和、田中都子、水間ロン、渋谷そらじ、岩崎蒼維、嶋崎希祐、川崎ゆり子、小林紋、原田文明、レイナ、三浦俊輔、古川がん、深沢敦、田村泰二郎、甲本雅裕、岡本牧子、松居大悟、高橋侃、さいとうなり、大下ヒロト研ナオコ長井短、牧口元美、松井功、吉田葵、柴田元幸犬山イヌコモロ師岡あがた森魚、殿内虹風、大桑仁、片桐はいり、芹澤興人、松金よね子安藤玉恵
*TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中
ホームページ https://perfectdays-movie.jp/

 


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