映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ピンカートンに会いにいく」

「ピンカートンに会いにいく」
新宿武蔵野館にて。2018年1月22日(月)午後4時より鑑賞(シアター3/C-5)。

一昨日(1月22日)、東京は大雪に見舞われた。といっても、雪国からすればどうってことはない量なのだろうが、何せ無防備な東京だから大変だ。会社も早く切り上げたところが多かったらしい。ところが、そんな中、オレは敢然と街に出たのである。なぜなら四ッ谷で取引先の新年会が予定されており、まさかこんな天気になるとは思わずに出席の返事をしていたからだ。

しかし、ずんずん雪が積もる中、暗くなってから家を出るのは気が引けた。帰りはどっちみち夜中になるにしても、行きはまだ明るいうちに家を出たい。そう思って早めに新宿に出て映画を観ることにした。いわば時間潰しのつもりだったのだが、これが大当たりだった。期待をはるかに上回る面白い映画に出会ったのである。

その映画とは、「ピンカートンに会いにいく」(2017年 日本)。20年前にブレイク寸前で突然解散してしまった5人組アイドル“ピンカートン”の再結成劇をユーモアたっぷりに描いたドラマだ。

映画の冒頭が面白い。若き日のピンカートンのメンバーたちがコーヒーを飲むシーン。そこである出来事が起きる。それが当時の彼女たちの関係性を象徴している。

そして解散から20年後。当時のリーダーだった神崎優子(内田慈)は、今も売れない女優を続けていた。とはいえ、女優だけでは食えないので、派遣でコールセンターで働いている。おまけに事務所に内緒で、とっぱらいの女優仕事をしたりもしている。やたらにプライドが高くて嫌な仕事は断るし、口は悪いし、上から目線。まさにイタいアラフォー女子の典型なのだ。

そんな中、優子のもとにレコード会社の松本(田村健太郎)という男から電話が入る。子供の頃にピンカートンのファンだった彼は、ピンカートンの再結成話を持ち掛けてきたのだ。今さら何をと最初は断る優子。しかし、事務所をクビになり崖っぷちに追い込まれたことから、誘いに乗ることにする。こうして、優子は松本とともにかつてのメンバーのもとを訪ねる……。

本作でまず感心するのは、5人の元メンバーのキャラ設定のうまさだ。若い頃のキャラを今の彼女たちにきちんと投影させ、それぞれに個性を与えている。そのせいもあって、彼女たちが交わす会話が実に面白い。

もう一つ感心したのが、昔の彼女たち(回想)と今の彼女たちの絡ませ方だ。同時並行に描くだけでなく、一つの場面に同居させたりもする。それどころか、昔の優子と今の優子が普通に会話をするシーンまである。今の優子が昔の優子に、「今が人生のピークで、あとはろくなことがない」という主旨の発言をしたりするのだ。

そういう構成を通して、この20年の間に彼女たちが失ったもの、そして変わらないものが自然に伝わってくる。そのおかげで、それぞれの人生の機微がリアルに見えてくるのである。

まずは3人のメンバー(山田真歩、水野小論、岩野未知)を訪ねて説得を開始する優子。だが、相変わらずの上から目線。すでに芸能界を引退して、主婦に収まっていたり思春期の娘とバトルを展開するなど、ワケありのメンバーをなかなか説得できない。

そして、最大の問題は、もう一人のメンバー、葵(松本若菜)だった。彼女と優子との間には、大きな確執があり、それが解散の引き金になった。行方不明だった葵をようやく見つけた優子と松本。だが、優子はなかなか葵と向き合えない。

そんな2人の距離の近づけ方が見事だ。2人には。その後の人生に大きな共通点があったことがわかる。どちらも、ずっと同じような場所でもがいていたのだ。それを知った優子は、ようやく葵に会いに行くことにする。そのために予行演習をする優子の姿が笑いを誘う。空想で葵とハグして、大木に抱きつくシーンは爆笑モノだ。

さらに、2人の再会時の会話が素晴らしい。葵はバイトで加湿器の店頭セールスをしているのだが、その加湿器のセールス話と再結成話を巧みにリンクさせる。思わず膝を打つような気の利いた会話である。

最初は目を覆いたくなるように独善的でイタい女だった優子。しかし、メンバーとの再会劇を通して、懸命に夢を追おうとする姿勢が際立ってくる。そして、そんな姿に思わず共感してしまったのである。

ついに再結成コンサートを敢行するピンカートン。そこでも、かつての彼女たちのステージ風景と、今の彼女たちのステージ風景をうまく絡ませる。今の彼女たちに昔の若さは当然もうないが、一心不乱に歌い踊る姿は変わらない。そうである。やはりこのドラマは、20年の時を経た女性たちが失ったものと、変わらないものをしっかりとらえた、味わいあるドラマなのである。

ラストの居酒屋のシーンも面白い。冒頭のシーンとリンクさせた仕掛けだが、冒頭と違って最後をぼかして観客に余韻を残している。思わずニヤリとさせられた。

本作の主演は内田滋。映画やテレビドラマを観ていると、ちょくちょく顔を出す脇役の俳優がいる。世間的な知名度はそれほどないが、絶妙の存在感を発揮していたりする。内田慈も、そんな女優の一人。過去の出演作は多数あるが、そのすべてが脇役だ。彼女にとって初の主演作だが、今回もその存在感を十二分に発揮している。さらに、他のメンバーを演じる松本若菜山田真歩、水野小論、岩野未知も、素晴らしい演技を見せている。

監督・脚本の坂下雄一郎は、東京芸大大学院映像研究科の7期生で、修了製作の「神奈川芸術大学映像学科研究室」が評判になり、その後もオリジナル脚本の作品を立て続けに発表しているそうだ(すいません。オレはどれも未見です)。若手監督に、こういうオリジナル作品を作らせるのだから、日本映画もまだまだ捨てたものではない。

地味な小品ではあるが、笑って、ちょっぴり共感して、最後はニッコリして映画館を後にできる。なかなかの作品だと思う。

●今日の映画代、1400円。伊勢丹のチケットポートで直前に鑑賞券を購入。

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◆「ピンカートンに会いにいく」
(2017年 日本)(上映時間1時間26分)
監督・脚本:坂下雄一郎
出演:内田慈、松本若菜山田真歩、水野小論、岩野未知、田村健太郎、小川あん、岡本夏美柴田杏花、芋生悠、鈴木まはな
新宿武蔵野館にて公開中。全国順次公開予定。
ホームページ http://www.pinkerton-movie.com/