「決戦は日曜日」
2022年1月8日(土)グランドシネマサンシャイン 池袋にて。午後1時10分より鑑賞(スクリーン8/D-5)
~困った二世候補と賢い秘書の奮闘。日本では珍しい政治風刺劇
「決戦は日曜日」は選挙を描いたコメディー。そう聞いても最初はイマイチ触手が動かなかったのだが、監督が坂下雄一郎と聞いて気が変わった。坂下監督の過去作「神奈川芸術大学映像学科研究室」と「ピンカートンに会いにいく」は、ユニークなコメディーでなかなか面白かったのだ。しかも、原作モノではなくてオリジナル脚本である。
ある地方都市で、地元に強い地盤を持つ衆議院議員・川島昌平が倒れ、選挙に出馬できなくなる。陣営は急遽、後継候補として娘の有美(宮沢りえ)に白羽の矢を立てる。だが、世間知らずで自由奔放な彼女は、次々に問題を起こす。有美の補佐役を務める私設秘書の谷村勉(窪田正孝)は、彼女に振り回されながらも、何とか当選を目指すのだが……。
今回もオリジナル脚本。しかもこの手の政治風刺劇は日本では珍しい。そんな中、まず笑いを生むのが素人二世議員の有美の行状だ。なにせこの人、政治の素人なだけでなく、予想以上の世間知らずなのだ。
演説原稿にあった「各々(おのおの)」を「かくかく」と呼んで、谷村らを凍り付かせたのはまだ序の口。「少子化対策はどうするのか?」と聞かれ、「結婚してるのに子供を産まないのは怠慢だ」など、とんでもない暴言を繰り出すのだから。やれやれ。
そんな調子だから、そこからは自然に笑いが生まれてくる。それはシニカルな乾いた笑いだ。日本のコメディーによくある過剰なギャグや小ネタなどとも無縁。思わずクスクスと笑ってしまう。いかにも坂下監督らしい笑いなのだ。
本作には、官民癒着や利権構造など現実の地方政界の実情も盛り込まれている。特に秘書たちが頼りにする後援会組織。有美は後援会の幹部たちを怒らせてしまう。それを必死になってとりなすのが谷村はじめ秘書たちだ。
とにかくこの谷村、若いがなかなかのやり手なのだ。「すみません」を連発して頭を下げたまま、結局は相手を思いのままに操るのである。
だが、そんな谷村を上回るのが有美だ。その傍若無人ぶりは、止まるところを知らずに暴走を重ねる。それをまた谷村が鎮火する。と思ったら有美がまた問題を起こす。まったく切りがないのだ。
それにしても有美を演じる宮沢りえも、谷村を演じる窪田正孝も、さもありなんと思う演技だ。実際にああいう二世議員や、その秘書がいそうだものなぁ。谷村が有美を正面から諫める場面が傑作だ。最初は「何でも言って」と鷹揚に構えていた有美が、次から次へと改めるべき点を挙げる谷村にブチ切れる。思わず苦笑してしまう場面である。
ついでに、内田慈(「ピンカートンに会いに行く」では主役)、小市慢太郎、音尾琢真ら、その他の事務所スタッフもいずれもハマリ役だった。後援会の幹部、地方議員などと併せて、いかにも現実にいそうな人たちだ。
ドラマの転機は、有美の父が死にかけるところ。そこで早くも地方議員と秘書が入り乱れてバトルが始まる。結局のところ、有美が後継に選ばれたのは、彼らの思い通りに動くと思われたからで、父が後継指名していたわけではなかったのだ。
それが露見して有美はすっかり嫌になり、「落選する」と言い出す。初めは取り合わなかった谷村も、自分がやっていることがバカバカしくなり協力に転じる。「落選は簡単」と2人は炎上案件を次々に自作自演して支持率低下を図る。
終盤のハイライトは、炎上を仕掛けても支持率が下がらないところだろう。むしろ逆にコアな支持層が増える。このあたりに、今の政治状況がクッキリと見えてくる。いや、そもそも炎上しても、保守の支持票が固いからビクともしないという構図が見えてくるのだ。
本作では、有美の所属政党は「民自党」となっている。まあ言うまでもないが、これは自民党をパロッたネーミングだろう。そう思ってみると、ますます面白くなってくる。北朝鮮のミサイル発射をめぐって、陣営が一喜一憂するあたりも現実政治を反映していて面白い。投票率が下がると保守が有利になるというのも、現実の政治状況と同じだろう。
ラストは単純なハッピーエンドにはせず、ほろ苦さを漂わせつつポジティブな結末を迎える。
ことさらに政治に対してストレートなメッセージを伝えている映画ではない。政治に対する距離感はつかず離れず絶妙だ。だからこそ笑えるし、現実の政治状況を投影しているから今の世の中の困った点が露わになってくる。こういう映画が日本で作られるのは、素晴らしいことだと思う。
しかし、いつまで続くのかねぇ。こんな政治が。笑いのネタには事欠かないわけだが。
入場者プレゼントでもらったバッヂ
◆「決戦は日曜日」
(2022年 日本)(上映時間1時間45分)
監督・脚本:坂下雄一郎
出演:窪田正孝、宮沢りえ、赤楚衛二、内田慈、小市慢太郎、音尾琢真、たかお鷹、高瀬哲朗、今村俊一、小林勝也、原康義、石川武、松井工、久松信美、田村健太郎、駒木根隆介、前野朋哉
*丸の内ピカデリーほかにて公開中
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