「疑惑のチャンピオン」
シネ・リーブル池袋にて。7月3日(日)午後2時40分より鑑賞。
オレは猛烈なスポーツ音痴だ。努力してもどうにもならない。なので、まともにスポーツ競技に取り組んだことがない。野球やサッカーあたりを、学校の体育だの、友達との遊びだのでやってはいたものの、真剣に何かを目指したことなど皆無である。
そういえば大学時代に、1日10ゲーム近くボウリングをしていたことがあるが、あれは何だったのだろう。別に大会出場を目指していたとか、そういうことでもないし、たぶんただ気まぐれか遊びの延長だったと思う。何しろ最後までアベレージは100を超えなかったのだから……。て、どんだけヘタやねん!
そんなオレだから、ズルをしてでも勝ちたいというスポーツ選手の心理などまったくわからん。その源泉は金なのか? 名声なのか? 何にしてもご苦労様なことである。
そんなご苦労様なスポーツ選手を描いたのが、『疑惑のチャンピオン』だ。自転車競技に疎いオレだが、世界最高峰の自転車レース、ツール・ド・フランスレースで7連覇したアームストロングという選手がいたことは知っている。そして、その選手がドーピングで永久追放になったことも……。そのアームストロングの半生を追ったドラマである。
自転車選手のランス・アームストロング(ベン・フォスター)は、25歳で発症したガンを克服後、自転車レースの最高峰「ツール・ド・フランス」で7年連続総合優勝の偉業を達成する。同時に、ガン患者を支援する慈善活動に尽力するアームストロングは、世界的なスーパーヒーローになる。そんな中、あるジャーナリストの追及により、彼にはドーピング疑惑が持ち上がるのだが……。
10年以上にわたる長いスパンのドラマだが(てことは、その間アームストロングはドーピングの尻尾をつかませなかったわけですな)、『クイーン』『あなたを抱きしめるまで』のスティーヴン・フリアーズ監督がポイントを押さえて、興味深く描いている。
何が一番興味深いかといえば、ドーピングの手口だ。単にレース前に注射するとか、そういう次元ではない。医師やチームの監督、そして同僚も巻き込んで、システム的に行われるドーピング。まるでトレーニングの一環だ。ドーピングだけでなく、その隠ぺい工作もスゴイ。汚れた血を薄めるために、保存しておいた自分の血液を大慌てで輸血するシーンなどは、背筋ゾクゾクものである。最近もオリンピック選手のドーピング問題などが出てきているが、その根深さを思い知らされる。
当然ながら、主人公のアームストロングの人生も描かれる。彼は駆け出しの25歳の時にガンになり、復活してからは「何が何でも勝つ!」という執念にとらわれる。それがドーピングの原点になっているらしいのだが、事実を徹底的に隠ぺいし、追及するジャーナリスト(この人が、この映画の原作者)をあらゆる手段でぶっ潰そうとする。その一方で、ガン患者のチャリティーに熱心で、彼らのヒーローとして振る舞う。いったい、こいつの心の中はどうなっているんだ?
彼の内面は複雑で簡単には理解できない。作り手たちは、その光と影の部分をそのままさらけ出し、観客それぞれに解釈を委ねている。
それでも、結局、彼は後々に事実を認めて永久追放になるわけだし、悪役的な側面は避けようもないわけで、観客は確実に嫌悪感を募らせる。それを受けたラストでカタルシスを体験させるあたりも、ソツのない脚本と演出だ。自転車レースのシーンも本格的に作られているし見応え十分。
主演のベン・フォスターのあまり感情を表に出さない表情が、この役柄にはピッタリだ。クリス・オダウド、ギョーム・カネなどの脇役も存在感アリ。なんとダスティン・ホフマンもチラッと登場。
まさに事実は小説よりも奇なり。その奇想天外さとリアリティで、最後まで目が離せなかった。ドーピングがはびこるスポーツ界だけに、なおさら観ておく価値のある映画かもしれない。
今日の教訓 スポーツ選手の心理はやっぱり理解不能じゃ。
●今日の映画代1300円(テアトル系の会員料金で入場。ありがたや。)